広瀬和生の「この落語を観た!」vol.116

12月30日(金)
「師走の萬橘」@アトリエ第Q芸術

広瀬和生「この落語を観た!」
12月30日の演目はこちら。

<第1部>
春風亭だいえい『鼓ヶ滝』
三遊亭萬橘『柳田格之進』
<第2部>
三遊亭萬橘×和田尚久(トーク)

『柳田格之進』、萬橘は柳田が「武士と町人は違う」という誇りの高さが原因で浪人になった、という踏み込んだエピソードを導入で語り、その「武士としての柳田の誇り」を噺の核心と見ている。五十両紛失の翌朝に柳田宅を訪ねた番頭が帰った後、柳田は「町人と徒に碁盤の上で戯れておったらこのようなことに。自業自得だな」と娘きぬに自嘲気味に言い、きぬが「これから萬屋を訪ねて源兵衛殿に真偽を問うのはいかがでしょうか」と言われると「呼ばれもしないのにか? 武士が町人の家に参り潔白を訴えるのは筋が違う」と断わる。

「わしは、武士は武士らしくなければ、身分を守らなければ世の秩序が壊れてしまうと思うておる。今の世には堅すぎるのかもしれぬが」と言う柳田に、きぬは「父上が早まったことなされても相手は町人、決してわかりませぬ」とたしなめる。「腹など切らん」と言う柳田の言葉は嘘だと見抜くきぬ。「わしは嘘もつけんのか……どうしてこう堅く生まれついてしまったのか」「何をおっしゃいます。父上のように一本気なところが必要な世が、きっと来ます」「すまんな、きぬ。お前には助けられてばかりだ」 ここで場面は一転して翌日、番頭が訪ねてくる場面に。きぬの口から「吉原に身を沈めて」という台詞は出てこない。

十二月十三日の煤掃きで五十両が見つかり、新年になって番頭が柳田に出会った翌日。萬屋を訪れた柳田は互いを庇う主従を「黙れ! 今さらこちらを斬ってこちらを斬らぬなどということができるか! あの金は娘が吉原に身を売ってこしらえてくれたものだ!」と一喝。「吉原!? とりかえしのつかないことを……番頭さん、二人で斬られましょう」と萬屋が言うと、柳田は二人の首ではなく碁盤を真っ二つに。「柳田様……なぜお斬りになりませぬ?」 すると柳田は泣きながら「嘘じゃ……嘘じゃ、嘘じゃーっ!」と言い捨て、去っていく。「う、嘘? 柳田様……おい番頭さん、柳田様を連れ戻してここへ!」「はい……でも、なぜ柳田様は我々の首ではなく碁盤をお斬りになったので?」「それはな、碁会(誤解)のもとを切ったのだ」でサゲ。武士の意地として娘のために断固として二人を斬らねばならぬと思いつつ、それができずに「首をもらうと言ったのは嘘」と言い訳がましく言わねばならない自分を恥じての涙だったのか……。意味深なエンディング。これまでのどんな『柳田格之進』とも異なる余韻を残した幕切れだった。

次回の広瀬和生「この落語を観た!」もお楽しみに!

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