広瀬和生の「この落語を観た!」vol.122
3月6日(月)
「渋谷道玄坂寄席 三遊亭兼好・三遊亭萬橘二人会」@渋谷プレジャープレジャー
広瀬和生「この落語を観た!」
3月6日の演目はこちら。
三遊亭楽太『道灌』
三遊亭萬橘『長屋の花見』
三遊亭兼好『三方一両損』
~仲入り~
三遊亭兼好『元犬』
三遊亭萬橘『二十四孝』
例年3月、6月、9月に開催される「渋谷道玄坂寄席」。「三遊亭兼好・三遊亭萬橘二人会」はその一環として2014年から毎年開催されてきた恒例の企画で、これが9回目。昨年9月以来半年ぶりとなる。
萬橘の『長屋の花見』は「あのケチな大家が酒と肴を用意してくれるんだって」と三日前から場所取りをしていた花見の当日、長屋の連中が先に花見に来ていると、今月と来月の月番を従えて大家が遅れてやって来る。「余計に酒が飲める」と張り切っていた月番だったが、なぜか異様にテンションが低い。大家に言われて月番が湯呑みを配って一升瓶から酒を注ぎ、飲んでみたら番茶を水で割ったもの。玉子焼きと蒲鉾の重箱が出されて中身を見れば沢庵と大根の漬物で、ガッカリしながらも「せっかくいい場所を取ったから」と花見を続行するという展開。長屋の連中がヤケになる描写が一段と可笑しく、ヒネリが利いたラストも萬橘らしい。
『三方一両損』で白壁町の左官・金太郎が財布を拾って届ける相手は神田竪大工町の大工で吉五郎とするやり方が多いが、兼好の『三方一両損』では大工の熊五郎。近所で「今ごろイワシで呑んでるでしょう」と言われた金太郎が“イワシの匂いを頼りに”熊五郎を訪ねて喧嘩になり、大家が仲裁に来て「奉行に訴える」となる。帰り際の「おう、神田竪大工町の大工熊五郎!」「町名から呼ぶのやめろ!」が妙に可笑しい。金太郎の長屋の大家は田舎から出てきた人間で、「江戸っ子ってのはいいな!」と金太郎を称え、喧嘩のいきさつを聞いて「向こうも江戸っ子だな!」と感心する、という演出は兼好でしか聞いたことがない。地で語る江戸の奉行所の説明に納得、お白洲でのやり取りの描写は独自の台詞回しに満ちていて聴き応え抜群だ。
兼好の『元犬』は人間になったシロの描き方(というかシロへの周囲の対応の仕方)が抜群に面白い逸品。まだ真打になったばかりの頃の兼好の『元犬』を圓楽一門の「両国寄席」で観て大いに感心したのが鮮烈な思い出として残っている。「おもしろいね」「頭も白かった」というサゲは兼好オリジナル。
萬橘の『二十四孝』で大家が説く二十四孝の逸話は「孟宗の筍」「王祥の鯉」「郭巨の釜」「董永の天女」等に続いて「母が指を咥えて子に想いを伝えた」「父の下のモノをためらわず舐めて健康状態を知った」「年をとっても子供の恰好をして泣き叫んだ」にまで及ぶ。八五郎は「親孝行をすれば女にモテて金持ちになる」と解釈して親孝行に励もうとする。萬橘は帰宅する途中に八五郎が「親父と喧嘩した」という金公に出会って八五郎が親孝行を説くくだりを挿入、この“オウム返し”が滅法面白い。帰宅した八五郎は寝ていた母を叩き起こして親孝行しようとするが、筍も鯉も食べないので指を咥えさせ、下の物を舐めようとするが失敗し、最後の手段で子供のように泣き叫ぶ。どんどん追い詰められクレイジーな振る舞いに邁進する八五郎のバカバカしさは圧倒的だ。オリジナルのサゲも気が利いている。
萬橘がトリを取った今回の二人会。マクラも含めて異なる個性の二人の激突を堪能させてもらった。
次回の広瀬和生「この落語を観た!」もお楽しみに!
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