広瀬和生の「この落語を観た!」Vol.163
2月23日(金・祝)「鈴本演芸場・下席(夜)」
柳家小ふね『牛ほめ』
ストレート松浦(ジャグリング)
桂扇生『寄合酒』
春風亭百栄『トンビの夫婦』
ダーク広和(奇術)
柳家さん喬『替り目』
入船亭扇橋『高砂や』
~仲入り~
立花家あまね(民謡)
三遊亭歌奴『片棒』
林家きく麿『ねぇ、あなた』
◇
鈴本の下席夜の部は桂文雀が『鬼の面』『清正公酒屋』『搗屋無間』『鉄拐』『派手彦』『帯久』『胴乱幸助』『朝顔宿』といった珍しい演目をネタ出しして主任を務めているのだが、この日は休演で林家きく麿が『ねぇ、あなた』をネタ出しして代バネ。これを目当てに鈴本へ。
小ふねの『牛ほめ』はメチャメチャ面白い! 与太郎のブッ壊れ具合と時折見せる冷静さが実に可笑しくて、予想の斜め上を行く『牛ほめ』だ。演者自身の持つフラといったものが落語に見事に反映されている。この調子で暴れ続けてくれたら寄席の貴重な戦力になるだろう。
百栄が演じた『トンビの夫婦』は四代目桂右女助が創作したもので、いわば擬古典。長屋住まいの対照的な二組の夫婦を描いた小品で、百栄はこれを独自の演出で完全に自分のものとしている。今どきの風潮からすると夫婦喧嘩というより家庭内ハラスメントとも言うべき状況を現代の観客が自然に笑えるものとして表現できる百栄の凄さに感服。
きく麿の『ねぇ、あなた』を聴くのは僕はこれが初めてだが(だからこそネタ出しを見て飛んできたのだが)、期待どおりの傑作だ。ヘンテコな父娘関係を描いて爆笑させながら、いつの間にか泣かせる展開に。この構成は見事と言う他ない。ジーンと心に沁みて、なんとも温かい余韻が残る。この父と娘の会話の楽しさはきく麿ならでは。“泣かせる展開”の匙加減も絶妙だ。聴きに来て本当に良かった。何度でも聴きたい。
次回の広瀬和生「この落語を観た!」もお楽しみに!
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