広瀬和生の「この落語を観た!」vol.95
11月14日(月)
「三三と豚次の五日間~柳家三三『任侠流れの豚次伝』通し公演」初日@東京証券会館ホール
広瀬和生「この落語を観た!」
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柳家三三『豚次誕生 秩父でブー!』
~仲入り~
柳家三三『上野掛け取り動物園』
三遊亭白鳥作「任侠流れの豚次伝」は全十話から成る長編。元々は流山動物園に身を置く渡世ブタの豚次が因縁のある上野動物園のパンダ親分・若頭トラ男と対決する『任侠流山動物園』という一席ものだった。その後、白鳥は2006年の「SWA」で続編の『雨のベルサイユ』を口演。2007年には市馬・白鳥・喬太郎の三人が同じネタで競演するシリーズ企画の1つ「それぞれの掛取り」で豚次の上野動物園時代の逸話を“掛取りがテーマの新作落語”として披露、『雨のベルサイユ』にも繋がる噺だったため、豚次三部作となった。その後、白鳥は「豚次シリーズ」のエピソードを創作し続け、2013年には全十話で完結。「任侠流れの豚次伝」と題されることになったこの長編を白鳥は2014年に池袋演芸場で十日間の通し口演として披露。2015年には10人の日替わりゲストを呼んでのリレーによる通し口演を同じ池袋演芸場で行なっている。
白鳥と三三は2009年から「両極端の会」という落語会を行なっており、2010年に三三は白鳥からのリクエストで『任侠流山動物園』をネタおろし。2015年の池袋でのリレー公演にも参加した。もともと講釈好きで知られる三三の端正な語り口は侠客物に適しており、また「白鳥の新作を三三がやると見事にハマる」ことは「両極端の会」で証明済み。新作をやる時の生き生きとした三三の高座姿は「本来こっちがやりたいんじゃないか」と思わせるほど(笑)。そんな三三が横浜にぎわい座で「流れの豚次伝」全十話を口演したのは2017年のこと。翌2018年は名古屋・大阪・広島・福岡で「流れの豚次伝」通し公演を行なった。「今度はいよいよ東京で」と三三が東京での「豚次」通しを計画した矢先の2020年、コロナ禍で計画は白紙になったのだという。
そして今年、遂に東京での「豚次」通しが実現した。題して「三三と豚次の五日間」。茅場町の東京証券会館ホールで11月14・15・17・18・19日の5日間、三三は一公演で二話のペースで全十話を語りきったのだった。
初日の前半は養豚場に生まれた子ブタの豚次が家畜としての運命に抗い任侠の道に入る第一話『豚次誕生 秩父でブー!』。好奇心で養豚場から抜け出した子ブタの豚次は秩父の山奥で狸の丹下タヌ吉に、自分たちは人間に食べられる運命にあるのだと教えられ、母を助け出そうと決意。月の輪グマの熊蔵親分の勧めで任侠の道に入ると、厳しいトレーニングに耐えて見違えるように強くなり、養豚場へ戻って番犬チロと対決。実戦経験のない豚次は窮地に追い込まれるが、豚次の叫び声を耳にした母が体当たりで豚次を守る。騒ぎを聞きつけた養豚場の主人が豚次を捕えようとするが、狼の末裔としての誇りを取り戻したチロがこれを阻止、豚次を秩父の山へ逃がそうとする。豚次は母も一緒に連れ出そうとするが、これまで売られていった子たちに申し訳が立たないと、母は養豚場に残る道を選ぶ。母への想いを胸に、縞の合羽に三度笠で男を磨く旅へと出る豚次だった……。
後半は第二話『上野掛け取り動物園』。秩父の山から東京に出てきた豚次は“野良ブタ”として捕えられ、上野動物園に虎の生餌として売られてしまった。だがトラ男に威勢よく啖呵を切った豚次の度胸をパンダ親分が気に入って、豚次は白黒一家の子分となる。東京都の極端な予算削減に伴い、上野動物園の動物たちは自分のヌイグルミの売り上げからマージンを得て食費に充てていたが、人気のない動物は到底それでは足りず、富が集中するパンダ親分から借金をしていた。だがパンダ親分は金に汚く暴利をむさぼり、その取り立ても苛烈を極めた。
大晦日、百万をパンダ親分から借りていたアライグマのラスカルは掛け取り“コンドルのジョー”から三百万を要求される。ラスカルの娘オスカルと仲良くなっていた豚次(プロレス好きのオスカルは贔屓のレスラーになぞらえて豚次を「アンドレ」と呼んでいた)はそれを見かねてジョーを撃退するが、パンダ親分の逆鱗に触れ、「お前が借金の肩代わりをするか、さもなくばアライグマ母娘を動物園から追放する」と迫られた。豚次は母から別れ際に渡された真珠を親分に差し出し、三百万は帳消しに。
これで一件落着と思われたが、「金を稼げないアライグマにエサはやれねえ」と親分が言い出した。親分は東京都と交渉し、エサ代は自分が一手に引き受けて合理的に分配することにしていたのだが、もちろんこれは自分の意のままに動物園を支配するための策略。あまりに金に汚い裏の顔を知った豚次は親分を見限り、盃を返して出て行く代わりに自分の食費をアライグマ母娘に与えろと言う。親分は「いいだろう、その代わり尻尾を切ってケジメをつけろ」と言い放つ。尻尾を切った動物は凶状持ちとなってしまうが、豚次は母娘を助けるために自ら尻尾を切り、上野動物園を去っていく……。
随所に独自のギャグを入れて笑いを呼びつつ、三三は持ち前の見事な語り口で第一話・第二話をドラマティックな人情噺として聴かせた。第一話では幼い豚次が愛おしく、チロとの対決のリアルな描写と母子の別れの切なさが印象的。第二話では弱きを助け強きをくじく豚次の“男の生きざま”に惚れ惚れとさせられる。侠客として啖呵を切る場面では講釈師も顔負けの迫力だ。白鳥作品を自分の色に染めて十八番とした三三にアッパレ!
次回の広瀬和生「この落語を観た!」もお楽しみに!
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