就職祝いにTシャツ
「就職先、決まったらしいな」
と、オトンに渡されたプレゼントはTシャツだった
こういう時ってだいたい時計とか、ネクタイとか
この辺が相場でしょとか思ったけれど
あまり仲がいいと言えるほどの関係でも無いので
「ありがとう」と一言だけで済ました
ただまあ、このTシャツがほんとに優れもので。
着心地はいいわ、汗は沁みないわで
なんやかんやで使用頻度はすごく高い
仲は良くなかったけど
仕事にシビアなのは
電話を聞いているだけでもすぐに伝わってきていた
大切な商談の日、なんとなく活力が足りていない日、
このTシャツを着ていれば
仕事熱心なオトンの性格が宿るのではないかと
願掛けに使ったりもしていた
親とはあまり仲良く無いので
いつも帰省する時は祖父母の家にいく
ある日、仕事が落ち着いて地元に帰りたくなったので
また例によって祖父母の家に帰った
うちのじいちゃんはいつも陽気で
会いに行くと、食べきれない量のご飯を
ばあちゃんに作らせる
最近は、孫とお酒を飲めることが嬉しいらしく
二人で長いことお酒を飲むようにもなった
お酒が入ってからは昔の自慢話を聞くのだが
今日はオトンの幼少期の話しが始まった
「まあ〜、あいつも頑固でな…」
そうそうそうそう。
ほんまそれなんよ。
とか思いながら
さすがオトンのオトンなだけあって
しっかりわかってる
ちなみにじいちゃんとオトンもあまり上手くいっていない
オトン物語も幼少期の話しから
だいぶ進んで社会人手前まできた
「じいちゃんがあげたTシャツ、あいつヨレヨレなるまで着とったな」
自分もTシャツをもらったことは
なんか照れ臭くてそこで言えなかった
頑固もので仕事に生きてきたオトンにとっての
特別なギフトをくれてたんだなと気づいた
翌日、実家にも顔をだした
仲良くないと言えど、
もう流石に家を出ているので
お互い、意地を張り合うことも少なくなった
久しぶりの実家での食事中、
「仕事どうや」と話を振ってきたので
「まあ順調やで」と返しつつ
食べ終わって席を立つ時、
「あのTシャツええな」
と申し訳程度に添えておいた
「せやろ」の返事は背中で受けたが
確実にニヤけていたのは
仲良くない息子でもわかった
-EIJI-