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#24 ビー・マイ・ベイビー/ロネッツ

 「レコードアワー」にて“ハル・ブレインとレッキング・クルー”を30数回にわたって放送したとき、フィル・スペクターとドラムについてあらためて考えたことがあった。

 ドラムというよりは打楽器全般というべきか。パーカッシブな音をサウンド作りの肝に据えたのは、フィル・スペクターの発明であり、ブライアン・ウィルソンが【ペット・サウンズ】で再試行した未知なる冒険の先達だったかもしれない。

 ロックにおいて花形のギターやピアノでさえも、メロディをかなでることなく複数台でリズムを刻む。これを発明といわずして何と言おうか。これはサウンドの革命というより、音楽聴取における人体実験ではなかったか。それだけの異なる楽器でリズムを刻むと、ヒトはどのような感情となるのか。どのような脳波になるのか、どのような経験を積むことになるのか。おそらく、誰しもが各自の回答を持ち得ているはずである。

 音楽ジャンルの中には、リズムが特徴的に説明されることもあれば、直接的にリズムパターンを指すことも多い。マンボ、タンゴ、レゲエ、ボサノヴァ、スカは基本的にリズム名の解釈だ。モータウンビートのようにレーベルがリズム概要を名乗ってしまった場合もある。

 「ビー・マイ・ベイビー」における、ハル・ブレインのドラム。ドン、ド・ドン、パッ。ドン、ド・ドン、パッ。引用された楽曲は数知れず。これほど有名なパターン発明なのに名前がついていないのも妙な話である。引用され過ぎて、パブリックドメインになってしまったのか。ひと口にスペクターサウンドといえば、同じ楽器をいくつも重ねる分厚い音の壁、いわゆる“ウォール・オブ・サウンド”のことであって、「ビー・マイ・ベイビー」に代表されるリズムパターンのことではない。しかし、「ビー・マイ・ベイビー」こそが、スペクターサウンドの根幹であり、代名詞であることは間違いない。

 90年代前半はまだCD黎明期。とりあえずベスト盤がCD化された。オリジナルアルバムがこぞってCDカタログ化するのは、90年代後半を待たなければならない。91~92年頃、スペクター関連で最初に買ったCDが【ザ・ベスト・オブ・ロネッツ】。次が輸入盤の【クリスマス・ギフト・フォー・ユー・フロム・フィル・スペクター】、いたって当たり前の購入順番である。しかしこれがよかった。【クリスマス・アルバム】には、クリスタルズもダーレン・ラブもいる。当時のスペクターファミリーが一度に楽しめた。

 その時、総勢14名のレッキング・クルーのプレイヤーは41テイク目にトライしていた。ハルをはじめ、レオン・ラッセル、スティーヴ・ダグラス、トミー・テデスコ、ビル・ピットマン、レイ・ポールマン、アル・デロリー、ドン・ランディ、ジミー・ボンド・・・。ピアノプレイヤーのひとりだったマイケル・スペンサーは、41テイク目にハル・ブレインのドラムブレイクのところで弾き続けてしまい、リハをストップさせられている。そして運命の42テイク目が生まれる。天才エンジニアのラリー・レヴィンがすべてのトラックボリュームを上げ始めると、コントロールルームにあの音の壁が広がった。まさしく新しいロックンロール・シンフォニー誕生の瞬間だった。

★番組情報:レコードアワー
放送時間:毎週月曜 8:00~9:00
再放送情報は三角山放送局HPのタイムテーブルをご確認ください

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