
#33 オンリー・ラヴ・キャン・ブレイク・ユア・ハート/ニール・ヤング
「レコードアワー」のオープニングテーマは、ニール・ヤングである。彼がバッファロー・スプリングフィールドを抜けて、69年にリリースしたファーストソロのA面1曲目、牧歌的なインスト「ワイオミングの皇帝」である。
CSNYの【デ・ジャ・ヴュ】は、高校生の時にLPを買った。「ヘルプレス」が聴きたかった。最初に買ったニール・ヤングのソロは、もちろん【アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ】である。90年頃放送していた、脚本:三谷幸喜の「子供、ほしいね」という深夜のシットコムがあった。
工藤夕貴演じる妻と、第三舞台の大高洋夫演じる夫の会話劇。エンディングで流れるのが、「オンリー・ラヴ・キャン・ブレイク・ユア・ハート」だった。エンドロールの背景には、つなぎ合う手と手の映像だったのを覚えている。リプリーズの輸入盤CDを買う。その後、4枚ほど買い換えている。ヤングのソロとして、初のチャートインシングルとなり、全米33位を記録した。
“愛だけが心を分かつ”というタイトルの意味がよくわからなかった。サウンドはアコギとピアノのコード弾きのみで進行し、演奏もいたってシンプルだが、サビ以降はクレイジー・ホースの面々とニルス・ロフグレンの、味のあるユニゾンコーラスがある種のゴスペル感を演出する。
一見、センチメンタルなスロウワルツの意匠をまとってはいるが、その実、「ライク・ア・ローリング・ストーン」を思い出すような歌詞で、彼の人生観を感じてしまう。自分が孤独になっていく、あるいは大切な人が落ち込んでいく。それでも、心を引き裂くのは愛だけだから、と歌う。
決して厳しい状況から這い上がろう、僕が助けになってあげよう、という主旨ではない。どんなアクシデントが起きても、心を引き裂くのは愛だけと歌われる。ならば、心をつなぎとめるのも愛だけなのだ。行間を読みなさいというヤングのひねくれた表現手段。まさに、皆まで言うな、である。
ジョニ・ミッチェルと別れたグラハム・ナッシュのために書かれたという説もあるが、真実はわからない。ナッシュはCSNにヤングを入れることに、当初は反対していた。スティルス、クロスビーとの3人のハーモニーこそが、自分たちの目指す音楽性と自負していたナッシュは、ヤングの個性的な声がマッチしないと考えていた。その一方、カントリーとコーラスに立脚した上で、ガッツとドライブ感のある新しいウエストコーストサウンドを創出する過程で、スティルスと対等に戦えるギターも必要となっていた。まさしくバッファロー・スプリングフィールド時代のスティルスとヤングの刺激的なマッチアップの再現は、ナッシュにとっても魅力的だったに違いない。
あとは、二人が仲良くケンカするのを仲裁する仕事も覚悟の上だ。その後の4人はソロ活動と並行して、くっついたり離れたりを繰り返してきた。その距離感が心地よいのだろう。スポティファイの専属ポッドキャスター、ジョー・ローガンが、新型コロナウイルスワクチンの誤情報を叫びまくっていた時、ニール・ヤングはデマの拡散に抗議して、スポティファイから自分の音源全てを撤退した。
クレイジー・ホースのメンバー、ニルス・ロフグレンやジョニ・ミッチェルらがヤングに同調し音源を引き上げていく中、グラハム・ナッシュもヤングに呼応して音源を撤退した。心を分かつのも愛、心がつながるのも愛。Cは天国に行ったが、SNYの何度目かの集結を楽しみに待ちたい。
★番組情報:レコードアワー
放送時間:毎週月曜 8:00~9:00
再放送情報は三角山放送局HPのタイムテーブルをご確認ください