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#48 見つめていたい/ポリス

 83年、【スリラー】の次に売れたアルバムは、ポリスの5枚目のアルバム【シンクロニシティ】だった。基本的にはアンディ・サマーズ好きである。

 クリームならクラプトン好き、ハイスタなら横山健好き、フリクションならツネマツマサトシ好きである。基本、歌わないギタリスト好き。そういう性分なのだから仕方がない。

 この曲はアンディ・サマーズのアルペジオが全体のムードを醸し出している。シンプルな4コードを2小節ずつ循環していく、構成としては奇抜なものではないが、サマーズのギターには柔らかさと同時にどこか鋭さも感じられて、そこが大甘なヒットソングとは一線を画している所以だろう。

 彼女が何かをするたび、なにか動くたび、呼吸するたび、僕は君を見ているという、ぱっと見ストーカーチックな場面を思い浮かべるが、そこはスティングの抑制的なヴォーカルと、サマーズの涼し気なギター、さらにスチュワート・コープランドのタイトなドラミングが加わり、合法的な大人のラブソング風に聞こえた・・・、とこれが過去形なのにはワケがある。

 ポリスはパンクの人脈からデビュー。その多彩な音楽性を駆使し、ザ・ジャムと並び一筋縄ではいかないバンドだった。ロックトリオ特有のすき間をうまく使用したきわめて論理的なロックをクリエイトしていく。レゲエやスカの活用もすき間を逆手にとったアイデアだし、名曲「ロクサーヌ」もぱっと見スカスカに聞こえる。

 スティングが歌うヴォーカルのガイドラインを演奏にはまったく見出すことができない。しかし、サマーズの鋭利なカッティングとともに、コープランドの歌えるドラムがメロディアスに響くことで、スティングの脳裏にある旋律の歌唱化を可能にしている。よくこれで歌えるなと思うが、それこそがソングライティングを担当するスティングの“歌うベーシスト”としての力量といえよう。

 しかし、この両名はとにかく仲が悪い、らしい。解散したのは結局のところ、この二人の不仲が原因と言われている。ただ、「見つめていたい」の大サビの盛り上がりの功労者は、コープランドによるところが大きいのだから、やはりポリスとは絶対にこの3人でなければならぬ。

 【シンクロニシティ】からは「アラウンド・ユア・フィンガー」「シンクロニシティⅡ」「キング・オブ・ペイン」がシングルヒット。ラジオでは、「サハラ砂漠でお茶を」がよくオンエアされていて大好きだった。

 ゴドレイ&クレームが手掛けたミュージックビデオ、モノクロの中に3人の演奏家が浮かび上がる。ウッドベースを弾きながら歌うスティングはとてもクールだ。髪をおっ立てたスティングのカッコよさ。吉田秋生「BANANA FISH」のアッシュのイメージ。それでなくても眼光鋭いスティングのまなざしは、この静謐なナンバーにおいても、暗闇の中で妖気を放つ。

 この曲を書いた当時、彼は離婚問題で疲れ果てジャマイカの地で静養していた。たった30分でできたこの曲は、そんな元妻への憎悪と不信に満ちている。「君が~するたびに、僕は愛する君を見つめているよ」では決してなく「お前が何をしようと、オレはしっかり見張っているからな」が正しいのだ。

 特に顕著なのは“Every Smile You Fake”のくだり、君が作り笑いを浮かべる時でも、と嘲笑を向ける。どことなく、この二人は険悪であることを匂わせているのだ。そんなこと知らなくてもいい。究極のラブソングだという誤解を上書きせぬまま、きょうもこの曲を聴く。

★番組情報:レコードアワー
放送時間:毎週月曜 8:00~9:00
再放送情報は三角山放送局HPのタイムテーブルをご確認ください

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