#34 オール・アイ・ニード・イズ・エヴリシング/アズテック・カメラ
ロディ・フレイムのアコギが特別だとわかったのは、「ザ・ボーイ・ワンダーズ」の弾き語りを聞いた時だった。FM雑誌の広告でスコットランドからの爽やかな風だか何だか、と紹介されていた記憶がある。合っているのは、スコットランドから・・・の箇所だけかもしれない。大好きなザ・スミスと同じ、ラフ・トレードからアルバムを出していたので、多少気になる存在ではあった。日本メディアの悪い癖は相変わらずで、ロディ・フレイムの美少年ぶり、ばかりがクローズアップされ、彼の高度な音楽性はあまり論じられなかった。
ラジオでは「Oblivious/思い出のサニービート」がたまーにかかっていた。大ヒットとはいえなかったし、よくある爽やかポップだなあと思いながら、【ハイ・ランド、ハード・レイン】の購入を迷っていた。そして、迷っているうちに、すぐにセカンド【ナイフ】が出た。これは、恐ろしいまでにFMでかかりまくった。
ほどなくファーストカットの「オール・アイ・ニード・イズ・エヴリシング」が大好きになる。【ハイ・ランド、ハード・レイン】より、明らかに複雑で明らかにサウンドが濃かった。ダイアー・ストレイツのマーク・ノップラーがプロデュースというのも意外で、ロディ・フレイムはディランの【インフィデル】を聞いて、依頼を決めたと雑誌のインタビューで語っていた。
オベイションのエレアコをかき鳴らすロディの誠実なたたずまいも好きだった。客を煽るでもなく、派手なパフォーマンスもなく、過度なポーズもない。ただただ、ギターをちゃんと弾き、ちゃんと歌うだけのロディ・フレイムにかなり強い好感を持っていた。「オブリヴィアス」にしても「ピラー・トゥ・ポスト」にしても、「オール・アイ・ニード・イズ・エヴリシング」にしても、彼がリズムづくりの人だということがわかる。実は音楽的ボキャブラリーはかなり豊富であり、のちにR&Bへ接近したり、ジャジーな作品を創ったり、坂本龍一をプロデューサーに招いたりと、幅広く外気を取り入れることからもうかがえる。モリッシー、ジョニー・マー、ロディ・フレイム。そこにカルチャー・クラブやデュラン・デュランを加えてもいいだろう。
彼らの世代には共通体験がある。82、83年に活動を始めた彼らはティーンエイジャーの頃にもれなくパンクを通っている。ロックは一度、ぶっ壊され叩きのめされた。その焼野原から、ニュー・ロマが生まれ、ニューウェイブが生まれ、ザ・スミスが生まれ、アズテック・カメラが登場する。その種子がのちのマッドチェスターやブリットポップへの源流となるのだ。したがって、80年代のUKロックはおしなべてロックの復興を意味している。
この曲のシングルB面には、大ヒット中だったヴァン・ヘイレン「ジャンプ」のカバーが収められている。当時最も売れていたロックを同時期にカバーする尖鋭性と勇気は、まさにパンクだ。評価はさんざんだったが、私はこのカバーが大好きだった。張り切って動きまわりマチズモむき出しのデヴィッド・リー・ロスと、チルアウトでテンションのバカ低い、まったくジャンプしないロディ・フレイムのバージョン。どちらも素晴らしい。どちらも大好きである。じゃあ余興としてイントロだけ軍配をかえそう。片やノーテンキなシンセのイントロと、片やロディのストラトが奏でる軽やかなイントロ。音楽的で深淵な広がりを湛えているのはどちらなのか、勝負は明らかだと思う。
★番組情報:レコードアワー
放送時間:毎週月曜 8:00~9:00
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