【化学メーカーDXの歴史】KAITEKI Philosophy: Science. Value. Life. 三菱ケミカル編
化学メーカーのMI活用やDX推進を盛り上げたいサンカク製作所です。
今回は、業界の雄でありDXにも力を入れている「三菱ケミカル」のMI活用/DX推進の経緯を纏めました。
自社のMI/DX推進や、就職/投資先の参考としてご活用ください。
企業概要(2024年1月時点)
言わずと知れた日本国内最大の総合化学メーカー
化成品や、ポリマー、炭素素材、無機材料など多様な製品を扱っている。
三菱ケミカルグループの一角。
売上高(2023年3月期):約1兆4458億円(グループ全体では約4兆6345億)
研究開発費の売上に対する割合:3.2% (*ただしグループ全体での値)
従業員数:単独13,100人(2023年3月31日時点)
【参考】
企業の研究開発費ランキングTOP100(2023年6月更新)|研究ネット (wdb.com)
電子公告 | IR情報 | 三菱ケミカル (mcgc.com)
会社概要|コーポレート情報|三菱ケミカル株式会社 (m-chemical.co.jp)
MI活用/DX推進の推移
概要
2017年から日本IBM出身の人材を招聘して開始しており、現在までに7年程度取り組んでいると思われる。
日本IBMから岩野氏や浦本氏を招へいし10名程度でDXグループを立ち上げ、2年目の2018年にはグループ横断組織化、4年目の2020年には30名前後の組織となり、グループ各社でもDX推進組織が出来ているようだ。
4年目の2021年には、データ分析の成果の論文も出てきており、さらにDXを加速するため240億円規模の本格的な投資とグランドデザインの制定がされている。
7年目には独自のデータ活用アプリケーション「MI Bridge」を開発したことを発表しており、MI/DXが継続的に進展しているようだ。
年別の活動内容
2017年4月
日本IBMで東京基礎研究所の所長などを歴任した岩野和生氏をCDO(最高デジタル責任者)に招へい。
2017年9月
岩野氏配下のDX推進部門として10人弱からなる「デジタルトランスフォーメーション(DX)グループ」を発足。
2017年11月
事業説明会資料にもR&DにおけるAI適用が記載。
2017年
物質・材料研究機構(NIMS)と三菱ケミカルを含む化学系大手メーカー4社で水平連携による「マテリアルズ・オープン・プラットフォーム」(化学MOP)を開始。
2018年
・グループやパートナーの技術を結集した横断的組織であるマテリアルズ・インフォマティクス Center of Excellence (CoE)の発足(三菱ケミカルグループ)
・デジタル技術によるビジネスモデルの変革事例を類型化した「デジタルプレイブック」の初版を発刊
2019年
・機械学習プロジェクトを成功させるための「機械学習プロジェクトキャンバス」を公開
・DX人材の教育プログラムを立ち上げ
・カナダ・トロント大学のAlan Aspuru-Guzik教授の研究室に研究員を派遣し、自動実験の研究に取り組み開始。
2020年
・CDOが日本IBM出身で人工知能学会長の浦本直彦氏に代替わり
(浦本氏の入社自体は2017年)
・化学業界トップクラスの高性能計算機の導入でDXの加速を発表
・立ち上げ当初10人程度のDXグループが30名近いことを言及
・「Digital University」という受講対象者を3層に分けた教育プログラムを開始。
・三菱ケミカルなど化学大手約20社が、国内の特許情報を活用して先端素材を開発するシステムを2021年度から共同で運用すると発表。
2021年2月25日
DXグランドデザインを制定。2021~2022年度のStep1計画として三菱ケミカルグループ全体としてDX戦略に240億円を投資。
2021年10月22日
・CoEには、「マテリアルズインフォマティクス」、「テキストマイニング」、「数理最適化」、「画像解析」の4種があることに言及
・グループ各社にもDXの専門組織があることを言及
2021年
2017年から進めていた化学MOPの成果として最少の実験回数で高い予測精度を与える汎用的AI 技術を開発と発表
Full article: Experimental design for the highly accurate prediction of material properties using descriptors obtained by measurement (tandfonline.com)
2022年
自動運転ラボ構築に関する論文をトロント大学と発表
Autonomous Chemical Experiments: Challenges and Perspectives on Establishing a Self-Driving Lab | Accounts of Chemical Research (acs.org)
2023年
独自のデータ活用アプリケーション「MI Bridge」の開発を発表
参考文献:
DXやるならまず「あの行動」を、三菱ケミカルHDに学ぶ初期フェーズの勘所 | 日経クロステック(xTECH) (nikkei.com), (日経クロステック, 2020.03.30)
2017年11月28日 APTSIS20 事業説明会, (2017.11.28)
AI活用を成功させる12項目、三菱ケミカルが「虎の子」方法論を無償公開 | 日経クロステック(xTECH) (nikkei.com), (日経クロステック,2019.08.23)
三菱ケミカルHD、「マテリアルズ・インフォマティクス CoE」を発足-材料開発期間の短縮・新規材料設計の早期実現, (日本経済新聞,2018.06.27)
高性能計算機の導入について ~デジタルトランスフォーメーションを加速~, (2020.03.23)
2021年2月25日APTSIS25 事業説明会, (2021.02.25)
現場のデジタル感性を向上しDXを自分ごととして捉える, (日経クロステック,2020.10.27)
(前編)三菱ケミカルホールディングス浦本直彦氏xKPMG Ignition Tokyo茶谷公之 - KPMGジャパン, (2021.01.20)
三菱ケミカルHD・浦本直彦CDOに聞く、「両利きのDX」進める, (化学工業日報, 2021.10.22)
基調講演:製造業におけるAI/IoT技術を活用したDXの取組み,(日本ソフトウェア科学会 機械学習工学研究会, 2021.03.09)
変わらない化学業界の危機感から生まれた「両利きのDX」とは, (BUSINESS INSIDER, 2021.03.11)
三菱ケミカルなど20社、特許共同活用 AIで開発迅速に, (日本経済新聞, 2020.02.25)
旭化成・住友化学・三井化学・三菱ケミカルが水平連携、「化学MOP」の現在地, (ニューススイッチ, 2022.03.02)
三菱ケミカル:最少の実験回数で高い予測精度を与える汎用的AI 技術を開発, (Motor-Fan TECH, 2021.10.26)
ロボティクス+スパコン+AIが材料開発を変える、これがMIの未来だ, (日経クロステック, 2022.06.30)
顧客へのソリューション提案を加速する独自のデータ活用アプリケーション「MI Bridge」を開発~研究者とデータサイエンティストによる新たな付加価値の共創~, (2023.09.25)
MI活用/DXの推進方法
概要
推進部門の設立、教育プログラムの設定、サポートコンテンツの作成(プロジェクトキャンパス、プレイブックなど)、評価指標の設定といったことから推進を進めているようだ。
特徴的なのは日本IBMからAIの専門家を複数引き抜いて推進リーダーとして立ち上げを行った事だろうか。
DXの拡大後にはグループ横断的な推進を行うCoEと各グループ会社での推進部門など組織が細分化しているようだ。
教育プログラムに関して
受講対象者を3層に分けているようだ。
1. トップ層:Pythonなどのプログラムを書いて、データサイエンスを利用する層
2. 中間層:プログラムは書けないまでもノンプログラミングツールを使ってデータサイエンスに取り組める層
3. 一般社員層:DXの基礎をeラーニングで講習を受ける層
イノベーターやアーリーアダプターがトップ層に、アーリーマジョリティが中間層に、レイトマジョリティやラガードが一般社員層に相当すると考える。
自社のデータ活用アプリケーション「MI Bridge」を利用する層が中間層にあたるのであろうが、各層の比率がどの程度となっているのかは気になるところだ。
大企業のDXプロジェクトで社内普及に苦しんでいるいる人へのお話|サンカク製作所 (note.com)
参考文献:
現場のデジタル感性を向上しDXを自分ごととして捉える, (2020.10.27)
最後に
公開情報から三菱ケミカル(グループ)のMI/DX推進の歴史を纏めました。独自データ分析アプリケーションの「MI Bridge」は「顧客へのソリューション提案を加速する」と銘打たれており、東レでも似たような発表がなされていたので、MIやDXが一定進んだ会社はこういった方向に進むのかもしれません。