夢幻回航 21回
男?女?
どちらともつかない中性的な見栄えのするフォルムで、優しげな顔立ちの人物が、世機と沙都子の視界に写り込んできた。
世機は間合いを計って、半歩下がったが、沙都子は構えもなく、素早く武器である札を後ろ手に隠し持った。
辺りの景色が反転した。
反転という表現はおかしいかもしれない。時が凍り付いたとでもいおうか、いや、それも違うか。あたりから人が消えて、景色だけが残り、その景色は風にそよいだりせずに動かなくなって止まっている。そういった表現の方が合っているかもしれない。
「店員さん?」
沙都子が間の抜けた質問で相手を試した。
優しげな人物はほっそりとした体つきを少し捩らせるような仕草を見せて、逆卵形の顔をほころばせながら二人に笑顔を向けている。本当に優しそうな顔立ちだが、見方によっては不気味にさえ感じる絵面である。
「どっちだと思う?」
からかうような調子。声さえも中性的で、本当に性別不詳である。
「バニラ、二つちょうだい」
沙都子も不敵だなと、世機は思う。喧嘩慣れしている女というのもどうかとは思うが、二人のような商売だったら、沙都子は世機のこの上もない相棒だと、世機は思わず笑ってしまった。
沙都子は後ろ手の札を握る手を握り直して、攻撃のタイミングを計っている。世機の方はと言うと、こちらももうすでに攻撃の準備は出来ていたが、おそらくは相手が攻めてきたときのカウンターを狙っているように見えた。
「残念だったね!バニラは売り切れだよ」
相手は細身の長身を揺らめかせて、一気に詰め寄ってきた。
沙都子は札を放って、祖銃座に飛び退いた。
世機は、カウンターを狙っていたのだが、少し反応が遅れてしまった。
相手はその隙を見逃してはくれなかった。
一撃!足が来た。世機はうまくそれをいなして、そこから身をかがめて相手の軸足をローキックで払った。
必殺のけりにならなかったのは、初動が遅れてからの反撃だったためである。反射的な攻撃だったので、軸足を薙ぐところまではいかなかった。
相手はひょいとそれをかわしてのけた。
それから二撃目は気功波とでもいおうか、不思議な衝撃が世機の身体を襲った。こちらも反射的に凌げたが、気の使い方で負けたのは初めての経験だった。それにしてもこの感覚、鬼じゃないよな?人か?世機は考えながら相手を探る。
そうしているうちに、沙都子の放った三発の札が、相手を襲った。
うまいタイミング!
札を躱すときに出来た相手のすきを見逃すほど、世機は間抜けではなかった。
一気に詰め寄って、通しを決めにかかるが、紙一重で相手は躱して見せた。
久しぶりに対等以上の相手とやり合った喜びからか、世機とその相手は不敵に笑い合い、対峙して、互いに構えをとった。
沙都子は心得たもので、「任せた」と一言だけ発して、後は見学に回った。
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