私が太っても愛し続けて欲しいけど、あなたがハゲたら分からない。
人にはそれぞれ、人には言えない性癖がある。
性癖というとちょっと夜のイメージに直結してしまうから、これをどう表現していいのかずっと迷っていた。
性癖とまではいかない、だけど譲れない性へのこだわり。
これをなんとするか。
性アホ説。
素晴らしい。実に素晴らしい。性癖だとか愛だとか言い出すから難しくなるんだ。そう。これは私のアホな性癖の話である。
このエッセイを出したら本田のイメージが、これまで積み上げてきたなんかいい人そうな感じの雰囲気をぶち壊してしまうかもしれない。そう思ってこのネタは3か月もの間、私の下書きの奥深くに眠っていた。
だけど、性アホ説という言葉を手にした私は腹をくくった。
そうだ。私はアホなんだ。
性アホ説という言葉を生み出してくれたアルロンさんに感謝を贈る。
我ながら、ビョーキだと思う。
そうね、名づけるならLAB。
ロン毛しか愛せない病気。
初めて好きになった人はタキシード仮面だった。
次はママレードボーイの遊。
幽遊白書の蔵馬。
豊川悦司。
木村拓哉。
櫻井翔。
向井理。
中村倫也。
そう。
私はどうしようもないほどのロン毛好きなのだ。
自分でも、なんて馬鹿馬鹿しいことを言っているのか呆れてしまう。だけど、これは一種の不安も含んだ由々しき事態なのだ。
好きな芸能人がいた。
ファンクラブに入り、コンサートに行き、推しが出ているテレビをビデオにダビングして繰り返し見て楽しんだ。
どの角度から見てもかっこいい!!!
間違いないはずなのに。
時折、推しの髪が短くなった。
その瞬間、私の熱はいとも簡単に冷めてしまうのだ。(当然、髪が伸びるとまた好きになる)
「一生推せる!ハゲても推せる!!!」とついこの前叫んだはずなのに、ちょっと短髪になったくらいでスン……となってしまう私は本当のファンとは言えないのではないか。
私が好きなのはもしかして顔じゃなくて髪型なんじゃないか???
実際、これまでの恋愛遍歴で全く気になっていない人がロン毛になると好きになった。
40年近く生きてきて、ロン毛以外を好きになったことがない。
もしもホストクラブの看板に、
No.1超絶イケメンの短髪と
普通のロン毛がいたら
迷わず普通のロン毛を選ぶ。大事なのは髪型だ。
いよいよビョーキ説が濃厚だ。
なぜだろう。なぜ私はロン毛しか愛せないんだろう。
ライオンはタテガミの立派なオスほどモテるという。私はタテガミにオスを見ているのだろうか?
動物の生存本能から、自分とは遺伝子が遠い人間を好きになる、とかいう研究結果があったはず。ということはつまり、私の持つハゲ遺伝子がロン毛遺伝子を求めている……?
そうだ。思い返してみれば幼少期から私の周りにいた男性はことごとくハゲていた。祖父も、父も。そして兄ももはや……。
神が与えし髪比率7:3
おでこの中心よりやや左側から流れるように右側へ。耳の半分あたりまで伸びた前髪がふわふわ遊ぶ。襟足は長すぎないまでも、耳たぶの後ろからチラリと覗くぐらいがちょうどいい。
私の目の前で、夫の髪の毛先がはらりと揺れる。あぁ。白髪混じりの揺れる前髪が、ネコジャラシよろしく私を誘惑してくる。
かがんがときや、本を読むのに邪魔になる長い前髪。指先をおでこの生え際から差し入れ、耳の後ろの方へかき上げる。
その所作がーー……そして耳たぶの奥からちらりと覗く襟足が、たまらなく愛しい。
夫もまた、出会ってから17年、ずっとロン毛だ。私がロン毛好きだと知ってか知らずが、一度も短髪にしたことがない。
そして夫という人は、結婚して15年経った今も、顔を合わせるたびに私に「かわいいね」と言う。(生粋の日本人である)
私が太ってもハゲてもかわいいねって言いそうな気がする。私はこの言葉を死ぬまで夫から言われ続けたい。ロン毛の夫の口から「かわいい」が聞きたい。ロン毛から「かわいい」と言われたい。かわいいと言われたときの私の目線は無論、瞳ではなくふわふわの前髪にいっている。
対する私は……?一抹の不安がよぎる。
もしも夫が突然、短髪になったら……。
15年も連れ添っておいて、夫がロン毛じゃなくなった時、私は…私は……?
その時きっと判明するだろう。
私が愛したのは、髪型なのか、そうじゃないのかを。
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