【17】 タクシーにおける感染拡大防止
企業向け新型コロナウイルス対策情報配信 2020年5月28日
タクシーを運行する、あるいは利用する企業の経営者・担当者のみなさま、タクシーの車内は、乗客から運転手へ、運転手から乗客へ、両方向の感染拡大に注意が必要です。運行する側はもちろん、利用する側も協力して対策をとりましょう。
1. 課題の背景:
2020年2月から4月にかけて、複数の都道府県におけるタクシー運転手の新型コロナウイルス感染例が報道されました。運転手と不特定の乗客が同じ車内で過ごす場面では飛沫感染のおそれが、運賃の受け渡しや荷物のトランクへの収納などの場面では接触感染のおそれがあります。また、運転手が感染した場合、運転手自身だけでなく他の乗客へ拡がることも懸念されます。
他地域からの観光客が多い沖縄県では、連休期間中の5月初旬までに県立病院の医師らがタクシー向けの対策をまとめた文書と動画が公開されました。全国的には、5月18日に(一社)全国ハイヤー・タクシー連合会から「タクシーにおける新型コロナウイルス感染予防対策ガイドライン(第1版)」が公表されました。今回は、これらの資料を参考にタクシー向けの対策を紹介します。
2. 企業でできる対策:
○ 労務管理・運行管理を通じて
体調不良の状態での乗務を避ける
○ 飛沫感染を防ぐため、窓を開けるなどして常時換気をする
○ 接触感染を防ぐため、運転手の手指衛生や
乗客が降りた後の拭き取りを行う
2-1. 労務管理・運行管理
基本的な対策
□ 体調不良時に安心して休めるよう、休暇や欠勤などの制度を整え、従業員に周知する
□ 出勤時(乗務開始時)の体調は、運転手自身と管理者の両方向で確認する
□ 営業所内での「3密」(密閉・密集・密接)を避ける
地域の流行状況に応じて考慮する対策
□ 高齢、基礎疾患があるなど重症化しやすい条件に該当する運転手は他地域からの客が多い場所での客待ちを控える
まず、体調不良の状態での乗務を避けることは、新型コロナウイルスに限らず様々な感染症の対策としても、また交通事故のリスクを減らす観点でも必要です。発熱・倦怠感などの症状については、日々の点呼等の中で運転手からの自己申告と管理者による確認を行いましょう。この際、点呼の場である営業所内での「3密」(密閉・密集・密接)を避けること、アルコールチェッカーなどの物品の共用を減らす(やむを得ず共用するときは洗剤などで拭いてから渡す)ことも大切です。
地域の流行状況に応じて考慮する対策もあります。例えば、自地域での患者が少なく、主に他地域からの持ち込みを警戒する状況下では、他地域からの客が多く乗車する空港、新幹線の駅、ホテルといった場所での感染リスクは比較的高いと見なします。高齢、基礎疾患があるなど重症化しやすい条件に該当する運転手は、このような場所での客待ちを控えることも対策になります。
なお、経営者が運転手ら従業員を取り締まるような管理一辺倒になってしまうと、従業員にとっては「正直に申告すると損をする」「生活が成り立たなくなる」と捉えられ、最悪の場合、体調不良に自ら気づいても隠すことにつながりかねません。休暇や欠勤などの制度面を含め、もしもの時に安心して休めるようにしておくことが前提条件として大切です。
2-2. 飛沫感染の防止
□ 運転席と後部座席の間にビニールカーテン等による仕切りを設ける
□ 運転手はマスクを着け、乗客にもできるだけ着けてもらう
□ 走行中は常時窓を開けて換気する
※ 消毒剤を噴霧するタイプの商品は人体への安全性と効果が公的に認められていない
運転席と後部座席の間に仕切りを設ける、運転手と乗客両方がマスク(話す時に飛沫を飛ばさないことが目的なので布マスク可)を着けるといった方法は、費用面を含めて着手しやすく、すでに多くのタクシーで導入されているようです。
走行中は、運転席・助手席だけでなく後部座席も窓を開け、常時換気することが望ましいです。雨が降っているときや乗客の協力が得難いときの次善の方法としては、窓の上部数センチだけ開け、カーエアコンを外気導入モードで運転することが挙げられます。
一方、人体以外での実験結果を根拠として、消毒剤を噴霧するタイプの商品が売り込まれるケースも散見されます。これらの商品は、人体に吸入した場合の安全性や感染症対策としての効果が公的に認められておらず、消費者庁から注意喚起がなされています。例えば次亜塩素酸水(電解水)は、生成装置から出たばかりの流水による食品洗浄が主な用途であり、食品添加物の認可は最終食品の完成前に除去されることが条件です。容器に詰め替えられて時間が経った場合や空気中に噴霧された場合の安全性や効果が認められているわけではありません。
2-3. 接触感染の防止
□ 乗客の荷物を触った後、ハンドル等を触る前に、手指消毒を行う
□ 運賃授受の後、ハンドル等を触る前に、手指消毒を行う
□ 乗客が降りた後、家庭用洗剤を用いて車内を拭き、手指消毒を行う
□ 車庫に戻った時や帰宅時は、流水と石けんで手を洗う
□ 業務中に着た制服等はできるだけこまめに洗濯する
□ キャッシュレス決済の導入・利用を促す
まず、適切なタイミングと方法による手指衛生(アルコールによる手指消毒または流水・石けんによる手洗い)が大切です。客の荷物を触った後、運賃授受の後は、ハンドルやシフトレバーなどを触る前に手指消毒を行います。アルコール手指消毒剤の入手が難しい場合は使い捨てのウエットティッシュを使います。水道が使える車庫に戻った時や帰宅時は手を洗います。手袋を使えば省略できると思われるかも知れませんが、自分の顔を触ってしまえば手袋の有無は関係ありませんし、マスクと同じく手袋も着脱時には素手で触れてしまうため、外した後の手指消毒または手洗いが必要です。制服等はこまめに洗濯できるよう、十分な数を支給すること、また洗濯しやすい素材にすることが望ましいです。
乗客が降りた後は、手すりなど車内で手を触れやすい場所を中心に拭き取りを行います。界面活性剤入りの家庭用洗剤(水で薄めたもの)を使い捨ての紙や布にしみこませて拭く方法は、扱いやすさと内装の素材の傷めにくさの両面で適していると考えられます。拭き取りの後も、ハンドルなどを触る前に手指消毒を行いましょう。
その他、ICカードやQRコードを用いたキャッシュレス決済を使うことで、現金を手で触る機会を減らすことが期待できます。
3. 関連情報リンク:
1) (一社)全国ハイヤー・タクシー連合会 タクシーにおける新型コロナウイルス感染予防対策ガイドライン(第1版)
2) 沖縄県立中部病院感染症内科 タクシー運転手に求められる新型コロナウイルス対策 7つのポイント
3) 沖縄県医師会(YouTube) タクシー運転手向けの感染対策について
4) 消費者庁 新型コロナウイルスに対する予防効果を標ぼうする商品の表示に関する改善要請等及び一般消費者への注意喚起について(2020年3月10日)
4.資料リンク
・本資料のPDF
・本資料の動画
・本資料のパワーポイント↓(衛生委員会に編集してご活用ください)(未掲載)
文責:田原 裕之(産業医科大学 産業精神保健学)
※本文章は、産業医有志グループ(今井・櫻木・田原・守田・五十嵐)で作成しました。厚生労働省新型コロナウイルス対策本部クラスター対策班・和田耕治先生(国際医療福祉大学・公衆衛生学教授)のサポートも受けております。今後も経営者・総務担当者向けに必要な感染拡大防止策情報を随時配信させて頂きます。本情報は著作権フリーですので、ぜひお知り合いの経営者に拡散をお願いします。
※本内容に関するご意見・ご要望は、covid-19@ohsupports.com までお寄せください。
※これまでに配信しましたバックナンバーは、http://www.oh-supports.com/corona.htm をご参照く
ださい。