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健康診断が受診できない社員への対応を考える

事例

人事の朝倉は上司である寺田から言われた言葉に悶々としています。
寺田「どうやら定期健康診断って、全員の社員が受けなければいけないらしいな。休んでいる社員にも受けてもらわないといけないのだろう、ちゃんと連絡して、全員が受診してるか確認してくれよな。今年は定期健康診断受診率100%だぞ!」

これまで、ナインエス株式会社では定期健康診断は従業員に任せ、全員の受診を確認してこなかった。しかし、寺田が先日、労務管理に関するセミナーで、「定期健康診断は全員受診が必須」と聞き、早速、朝倉に指示してきたのである。

毎年、定期健康診断のお知らせをすると、数人から「受診をしたくない、受診できない」という連絡が必ず入る。これまでは、あまり気にならなかったが、寺田から言われたこともあり、どのように対応していくべきか、悩んでいた。

朝倉『あ、今日は佐々木先生が来る日だ。ちょっと定期健康診断のこと聞いてみよう』

佐々木が来社した。
佐々木もだいぶナインエス株式会社の様子に慣れてきた事もあり、朝倉とコミュニケーションもスムーズになってきた。

佐々木「こんにちは、朝倉さん。どうしました??今日はいつになく晴れない感じですね」

朝倉「佐々木先生、実は上司の寺田から、健康診断の受診率を100%にするようにと指示がありましてどうしたものかと悩んでいるのです。健康診断は従業員全員が受けなければならないものでしょうか?」と聞いた。

佐々木「はい。定期健康診断は、労働者にも受診義務があるはずなので当然受けないといけないと思いますけど、確かに妊娠中の方とか検査項目受けられない場合ありますよね・・・あれ、その場合、どうしたらいいんだろう??」

と、朝倉と佐々木、2人で考え込むことに・・・

解説

受診率を100%目指したく、色々な施策を考える方は多いと思います。産業医が主体になる業務ではありませんが、人事の皆さんとともに考えていく内容であり、一緒に考えることにより産業医との連携がスムーズになると考え、産業医のトリセツプロジェクトとして取り上げました。

*この記事で扱う「健康診断」は定期健康診断を指し、以下「健診」と略します。

1)労働安全衛生法に規定された「定期健康診断」は事業者責任で従業員に受診させなければならない。

健診は、労働安全衛生法の元、事業者に課せられている義務です(労働安全衛生法​​第六十六条参照:https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=347AC0000000057)。そのため、上司の寺田さんがおっしゃったとおり、受診率100%を目指すことが理想です。

全ての従業員が「働くことによる健康問題が発生しないように」「就労により疾病を悪化させないため」になるべく多くの従業員に受けてもらうことが大切になります。

2)事情により「健診を受けたくない」と言って来る従業員の対応

原則、会社には健診の実施義務があり、従業員には受診義務があるため、その点を丁寧に説明したうえで受診につなげるような取り組みが必要です。健診が未受診である場合は、会社が求められている事後措置や健康管理を適切に行うことが難しい状況とも考えられるため、厳しめのルールを作成する会社では、受診が確認できない場合やその意思がない場合は懲戒を行えるように規定を整備している場合もあります。しかし、従業員によっては個々の事情により健診を受けることに抵抗があるため、その場合の対応策について例示します。

 ・休職中の場合
会社として運用ルールを定め、就業規則や健康管理規定などに落とし込み、受診するかしないか、結果の取り扱いをどうするかを決めることが望ましいと思われます。(例:私傷病等により休業中の従業員の健診受診は免除とする。ただし、復帰後速やかに会社の指定する施設での健診を受けさせるものとする)

 ・かかりつけ医がいる場合
 すでに持病があり、定期的に医療機関を受診している方だと、健診の必要性を感じず、受診に消極的になる方も少なくありません。健診は法令により検査項目が決まっており、それを満たしている必要性があります。かかりつけの医療機関が健診の対応をしてくれているか、対応できる場合にはかかりつけの先生に「定期健康診断結果」を作成してもらえるかどうかを当該従業員に確認してもらった上で、対応することが良いでしょう。
 
・定期健康診断の項目の一部が受けられない場合
 妊娠中など特別な事情があり、一部の検査(例:胸部レントゲン検査)を受けられない従業員がいる場合、会社として運用ルールを定め、対応していくことが良いと考えます。このようなケースでは、産業医に相談して意見を確認すると良いでしょう。

3)検査項目の省略は産業医へ相談!

健康診断には年齢により、除外しても差し支えない項目がいくつか設定されています。経費削減の面からは、一定の年齢である従業員の除外可能な項目を一律に除外している場合もあります。しかし、平成29年8月に厚生労働省から通知(https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000194626.pdf)がでており、このような年齢による一律の除外は好ましくないとされています。そのため、個別に過去の健診の結果を踏まえ、産業医に項目の可否を判断してもらうようにしましょう。

4)法令上の解釈に迷ったら・・・

法令の解釈については、悩ましいことが多々あります。法令順守を基本として業務を行っている産業医でも判断がつかないことが少なくありません。そのような時には、産業保健総合支援センター地域産業保健センターや管轄の労働基準監督署等に問い合わせてみることも選択肢のひとつです。とても丁寧に教えてくださいますので、迷ったらまず、公的機関を頼ってみるのも一案です。

5)ルールに落とし込みましょう

健康診断の受診に関しては、これまで説明したように様々なケースが発生します。その際に、従業員に対して受診を命令したり、懲戒を与えざるをえないことも想定されます。そのため、従業員に対する不公平が生まれない様に、それらのルールは就業規則などのルールに落とし込むことでをお勧めします。「就業規則 健康診断」といったワードで検索していただくと、就業規則の例も見つかりますのでぜひご確認ください。

人事労務を担当される方にとって、健康診断の実施は悩ましいことが多く、面倒なものだと思います。しかし、ここで挙げたように産業医をうまく利活用することで、お悩み事を解決する道筋をつけられる場合もありますので、「こんなことで相談してよいのかな?」などと考えずに相談していただくと、良い結果につながることもあるかもしれません。

参考資料)

愛知県教委事件(最一小判平13.4.26 労判804-15)
【安全衛生・心身の健康】健康管理|雇用関係紛争判例集|労働政策研究・研修機構(jilpt)

本記事担当:@norimaru_n

記事は、産業医のトリセツプロジェクトのメンバーで作成・チェックし公開しております。メンバーは以下の通りです。
@hidenori_peaks, @fightingSANGYOI, @ta2norik, @mepdaw19, @tszk_283, @norimaru_n, @ohpforsme, @djbboytt, @NorimitsuNishi1
現役の人事担当者からもアドバイスをいただいております。

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