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ギャンブル依存症とは何か(JES通信【vol.183】2024.6.11.ドクター米沢のミニコラムより)

 毎年5月14日から20日は「ギャンブル等依存症問題啓発週間」ですが、この春は米国メジャーリーグ関連のニュースにより、図らずもギャンブル依存症に注目が集まることになりました。ギャンブル依存症とはどういう病気なのでしょう。

▼「ギャンブル等」とは

 「ギャンブル等」とは、結果が偶然に左右されるゲームや競技に金銭を賭ける行為を指します。パチンコ・パチスロ、競馬・競輪・競艇・オートレースの公営ギャンブル、ナンバーズ・サッカーくじ、賭け麻雀、スポーツ賭博、インターネット賭博、カジノなどです。最近では若者が違法なオンラインカジノにはまって多額の借金を作ってしまうケースも出ています。
 「公営ギャンブル」という言葉からわかるように、すべてのギャンブルが違法なわけではありません。国によっても扱いが異なります。日本の宝くじも「ギャンブル等」なのですが、あまりにも当たらないためギャンブルと思っている方はあまりいないのではないでしょうか。「夢を買う」などと言いますが、宝くじの当選確率では「寄付」と言った方がいいのかもしれません。それでも宝くじにはまってしまう人もいます。賭けの対象は本当に人それぞれです。

▼誰でも依存症になる可能性がある

 依存症と聞くと、意志が弱いとか性格に問題があるのではなどと思われがちですが、誰でもなる可能性があります。皆さんも、趣味やボランティア活動など何かに熱中し、のめり込んだことはありませんか。朝ドラのヒロインの行く末が気になって毎日見てしまうことはありませんか。あるいはスマホの動画をつい見続けていませんか。最近流行りの「推し活」も、度が過ぎると危ないかもしれません。依存症はこういった行為の延長線上で起こります。
 生まれつき依存症の人はいません。パチンコにしても競馬にしても、最初は娯楽、楽しみとして始まります。そして大当たりが出ると気分が高揚し、その気分を味わいたくなりまた出かけます。しかし毎回勝てるわけではありません。勝った負けたと一喜一憂し、今度こそ勝とうと深みにはまり、依存症へ進行していくのです。
 ギャンブルに限らず、著名人の依存症問題が報道されると私たちは「あの人が!?」と驚きや失望を感じます。依存症になると依存対象が何より優先され、本来それよりも大切なはずの家族や友人、仕事の信頼などは後回しになるという価値観の変容が起こります。周囲から見れば「その立場にいながら、何故そんな行動を」と思うようなことが起こるのが依存症なのです。どんなに優秀でも、どんなに人格的に優れた人でも、なる時はなります。

▼依存症になりやすい人もいる

 ギャンブル依存症に「なりやすい人」はいると言われています(資料1)。「幼少期や青年期のギャンブル体験」、「初期に大勝ちした経験」(ビギナーズラック)、「ギャンブルにアクセスしやすい環境」、「家族がギャンブル問題を抱えている」などの環境・特徴を持つ人は、ギャンブル依存症になりやすいことがわかっています。

▼自己治療仮説

 また、幼少期に虐待やいじめを受けるなどの「逆境体験」を味わった人も依存症になりやすいことがわかっています。幼少期から虐待を受けたり学校でいじめにあったりして心に深い傷を負うと人間不信に陥りますし、そのような体験をした自分には価値がないと考え、自己肯定感が低くなる傾向にあります。しかし、薬物やギャンブルによる高揚感や、DVで家族を従わせたときの優越感は一時的に自己肯定感を高めます。つまり自分で自分を治療しているわけです。これを「自己治療仮説」と呼びます。そして自己肯定感が低いと、「こんな自分は助けてもらう価値もない」と周囲の援助を拒否してしまうことも起こります。精神状態は優越と卑下の両極を振り子のように揺れ動くのです。

▼脳に変化が起こる

 依存症になると脳の神経回路網に変化が起こります。その人がはまった依存対象は脳にとって特別な刺激となり、その刺激を受けた脳は特殊な高揚状態(快感)になってしまうのです。依存症になった人が簡単にはやめられないのは、気持ちの問題でも根性の問題でもありません。脳が高揚感で暴走しやすくなるので、止めるのが困難なのです。

▼家族を巻き込む

 依存症になると依存対象に費やす時間が増え、家族や友人、仕事仲間と過ごす時間は減り、人間関係が希薄になっていきます。またつぎ込むお金も増えて家族から非難され、家庭内不和が起きます。そして依存行為を続けるために嘘をつき、暴言をはき、時には暴力を振るうなど、家庭生活が崩壊していきます。

▼愛好家と依存症の違い

 ギャンブルをする人すべてが依存症というわけではありません。愛好家レベルの人はギャンブルで借金をしたり、仕事を休んだり、家庭内不和などの問題を起こしません。あくまでも楽しみの範囲でコントロールできるのです。この「コントロールできるか」が、ギャンブルに限らず依存症の大きなポイントです。自分や家族がギャンブル依存症になっていないか、以下のスクリーニングテストで確認してみてください。
 
<ギャンブル依存症スクリーニングテスト(LOST)>田中らが作成
・ギャンブルをするときには予算や時間の制限を決めない、決めても守れない(Limitless)
・ギャンブルに勝ったときに、「次のギャンブルに使おう」と考える(Once again)
・ギャンブルをしたことを誰かに隠す(Secret)
・ギャンブルに負けた時にすぐに取り返したいと思う(Take money back)
 ※ 2つ以上当てはまるとギャンブル依存症の可能性あり

▼まずは情報を集めよう

 もしも自分や家族、従業員がギャンブル等依存症ではないか?と感じたら、まずはこの病気に関する正しい情報を集めましょう。現在、国はこの問題に積極的に取り組んでいます。厚生労働省は、「依存症の理解を深めよう」という啓発サイトを運用しています(資料2)。「依存症とは」「ギャンブル等依存症とは?」「どこに相談する?」といった、見やすくわかりやすい情報を提供しています。啓発動画も掲載されていますのでぜひご覧ください。内閣官房は、「ギャンブル等依存症を克服された方の体験談」という啓発サイトを運用しています(資料3)。キーワードで関心のあるギャンブル行為を選び、回復者の体験談を読むことができます。消費者庁の啓発サイトでは、各種ポスターのほか、借金問題の相談窓口などの情報も提供しています(資料4)。そして依存症対策全国センターのサイトには、より専門的な情報が掲載されています(資料5)。

▼相談に行こう

 問題に気づいたのが依存症当事者であっても、家族や友人であっても、まずは専門の相談機関や自助グループを探し、思い切って相談に行きましょう。相談してみると、「困っているのは自分(たち)だけではなかった」とわかるはずです。そして依存症から脱した人たちの話からさまざまなヒントがもらえます。そういった相談に出向くのもためらわれるようなら、ぜひ私たちEAPを相談の足がかりにしてください。相談は早ければ早いほど経済的、精神的、そして社会的なダメージが軽く済みます。最初の一歩を踏み出す勇気を待っています。 

リンク

1)https://kurihama.hosp.go.jp/hospital/case/gamble_case.html
2)https://izonsho.mhlw.go.jp/campaign/
3)https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gamble/index.html
4)https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_policy/caution/caution_012
5)https://www.ncasa-japan.jp/

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