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学会参加報告:産業衛生学会2024広島その5

 産業衛生学会2024広島の報告その5です。その1その2その3その4もご参照ください。

▼LGBTQ+労働者に産業保健はどう向き合うべきか

 その4で紹介した生活記録表アプリのランチョンセミナーが終わるとそのままメインホールに残り、LGBTQ+のシンポジウムを聴きました。

LGBTQ+労働者に産業保健はどう向き合うべきか
座長:江口尚(産業医科大学)、中澤祥子(東海大学)
1.一産業保健職の戸惑い
 江口尚 (産業医科大学)
2.LGBTQ+労働者の活躍と産業保健への期待を経営者の立場から考える
 山田洋太(iCARE)
3.LGBTQ+とハラスメント-労務管理の視点から
 李怜香(メンタルサポートろうむ)
4.LGBTQ+当事者が直面する健康格差と産業保健専門職の果たすべき役割
 垣本啓介(日本アイ・ビー・エム)
(※ 第3席の李怜香氏は急なご事情で参加できなくなりました)

 第1席兼座長の江口氏からは、LGBTQ+に関する知識が乏しいために、当事者への接し方に自信が持てないというご自身の感覚を率直に話されました。とても共感しました。たとえばLGBTQ+という言葉一つとっても、「Q」って何だっけ?「+」って??となると、それだけで理解を諦めてしまうことがあり、「知る機会」はとても大事だと改めて思いました。私自身は人権問題の一つとしてLGBTQ+を視野に入れてきましたが、まだまだ十分な知識がありません。今回初めて知った言葉が「アライ Ally」(LGBTQ+を理解し支援する人)でした。自分もアライでありたいと思っています。
 江口氏がLGBTQ+理解のための参考文献として挙げていたのが以下の2冊です。
●トランスジェンダー入門

●トランスジェンダーと性別変更

 第2席の山田氏は産業医・心療内科医で仕事仲間でもありますが、経営者の立場からこの課題を熱く語ってくれました(そんなに簡単にまとめるな!と怒られそうですが)。「組織内の多様な属性や意見が5%を超えたものを優先して検討する」と仰っていたのが印象的でした。LGBTQ+は10人に1人はいると言われるわけですから優先課題になるわけですね。5%より低い課題は個別対応と。なるほど一つの考え方です。なぜ5%なのか?研究者だと統計学のp値(有意水準)を思い浮かべるかもしれません。山田氏に聞きそびれたのでわかりませんが、ともかく社員と対話をしていこうという山田氏の積極的な姿勢が強く印象に残りました。
 そして最後は垣本氏。垣本氏はX(旧Twitter)でLGBTQ+だけでなく、広く産業保健関連の情報を発信されていて、その感性に以前から注目しており、やっとお話を聞くことができました。垣本氏はLGBTQ+に対する職場でのハラスメントや顧客の嫌がらせ、望まない形でのアウティング、採用段階での差別や偏見など、職業生活を歩む上でさまざまな困難があることを紹介し、LGBTQ+はメンタルヘルスを含めた健康リスクや離職や低賃金などの社会経済的格差、高い希死念慮や自殺未遂率などの問題を抱えていることを示されました。そして、職場で安全な就労環境を享受することはすべての労働者にとって当然の権利あり、マジョリティ側が解決に向けてアクションを取るべき問題という捉え方にパラダイムシフトが求められると訴えられました。

▼シンポジウム後に考えたこと

 シンポジウムを聴き終えLGBTQ+への視界がより明るくなりました。一方で、「すっきり晴れた」わけでもありません。まだまだぼんやりとしか見えていないものがたくさんある気がする。この、「気がする」というもやもや感が大事なのかもしれませんし、怖くもあります。つまり自分の視界に入っていないところに落とし穴があるのではないか。今回登壇できなかった社会保険労務士の李氏が講演抄録に、「職場でのマイノリティは、育児介護に携わる人、持病を抱えている人、障害者、外国人等多岐にわたるが、LGBTQ+は『目に見えない存在』であり、『職務遂行に特段の配慮を必要としない』点が特徴的である」と記しています。この言葉がLGBTQ+問題の難しさを端的に表しているように思えます。見えないものは「いないもの」としてしまう。でも「いるはず」と考え、ネガティブケイパビリティに関連して触れた「遅い脳」をしっかりと使って考えろと言われているような気がしました。学び続けていきたいテーマの一つです。 

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