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関西相談室室長の辻井香絵が産業ストレス学会2024で研究発表

 2024年12月に名古屋で行われた日本産業ストレス学会では、当社関西相談室室長の辻井香絵と米沢が一般演題発表を行いました。今回は辻井の発表内容をご紹介します。
 
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第32回日本産業ストレス学会
日時:2024年12月13,14日
会場:ウインク愛知(愛知県産業労働センター)
テーマ:産業ストレスを取り巻く人と科学技術と社会の進展
https://procomu.jp/jajsr32/index.html
 
一般演題1 リーダーシップマネジメント
辻井香絵、槇本英典:マイクロカウンセリングを取り入れた管理職研修が中小企業管理職のマネジメントコンピテンシーに与える職位別の効果
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 一般演題1のテーマはリーダーシップマネジメント。6題もの演題が並びました。徐々に関心が高まっている分野なのでしょうか。そのうち3題は、昨年のシンポジウムでお世話になった桜美林大学の種市先生の研究室からで、その精力的な研究活動に驚きました。
 個人的には最初の発表された産業医大の田口先生の、リーダーシップの要素を詳細に検討された発表に感心させられました。

▼マイクロカウンセリングとは

 さて、私どもの辻井の発表ですが、管理監督者の研修にマイクロカウンセリングを取り入れることで、マネジメントコンピテンシーが高まるかどうかを検証したものです。
 マイクロカウンセリングとは1960年代にアレン・アイビイによって開発され、発展してきたカウンセリングの基本モデルであり、統合カウンセリングとも呼ばれます。面接のコミュニケーション技法を細かく分解し、階層表を作ったのが一つの特徴で、この表を初めて見た時は感動しました。このように「見える化」することで、一つずつ技法として習得しやすくなるのです。一つの技法というよりは対人支援のコミュニケーションの基本を明確化したものと考えられ、専門的カウンセリングや心理療法ばかりでなく、あらゆる人間援助の場で活用しうるツールといえます。
 その基本は「傾聴」です。たとえば「部下の話をよく聞いてください」と言われても、よく聞くとは何も答えずにずっと黙っていればいいのか、相づちは打ってもいいのか、よくわからない時でも質問してはいけないのか、じっと見つめたらいいのか、見つめたら話しにくいのか、では目は合わせない方がいいのかなど、カウンセリングを学び始めて間もない人はどう行動していいかわからないものです。その辺りを一つひとつ分解された要素ごとに学んでいくことで、より効果的なコミュニケーションが実践できるようになるわけです。

▼研究の実際

 本研究では当社とEAP契約がある中小企業の係長職23 名、課長職以上20 名を対象に、月1回120分の集合研修を3回実施し、研修初回の冒頭と3回目終了後にHSE マネジメントコンピテンシー調査票で効果判定を行いました。
 各回の内容は、
 第1回:マイクロカウンセリング技法に関するレクチャーと目標設定および傾聴スキル
 第2回:質問力・要約力および感情の反射と共感力
 第3回:労いとポジティブフィードバックおよび具体的な行動を伴う指示
となっており、各回でロールプレイとグループシェアを実施しています。
 
 HSEマネジメントコンピテンシー調査票とはHSE(英国安全衛生庁 Health and Safety Executive)が作成したLine Manager Competency Indicator Toolのことで、管理職としての行動や能力を調査するものです。以下の4つの領域から構成されています。

領域1:部下への配慮と責任
領域2:現在と将来の仕事を管理し伝達する
領域3:チームメンバーに対応する
領域4:困難な状況において合理的に考え、対処する 

▼結果と考察

 領域1から4において、事前よりも事後の得点が高く、多くが5%水準で有意でした。研修前後と職位による変化については、職位による違いはほとんど見られなかったのですが、「領域3 チームメンバーに対応する」を構成している「共感を持って接する」のみ時間の主効果に加えて、職位による主効果も5%水準で有意でした。課長職以上よりも係長職の得点が高く、課長職以上では改善を要するレベルから、及第点のレベルに改善したということです。

 マイクロカウンセリングを取り入れた研修は、部下のストレスを予防・低減する管理職の行動を増やす効果があり、係長職よりもスタッフとの距離感の遠い課長職以上においても、共感や配慮をもって部下に接する態度を増やす効果が期待できます。
 研修を通じて管理職の自己開示と相互理解が進み、心理的柔軟性が高まったことや、カウンセリング技法の習得、ロールプレイによる学びを通じて、サーヴァントリーダーシップも大切であるという認識が生まれた可能性があ考えられそうです。
 
 今回のような職場での研修を通してその効果を明らかにしていくのは私どもEAPの得意とするところです。現場と協力し、一緒になって従業員のコンピテンシーを高めるようなアプローチをこれからも実践して参りたいと考えております。
(結果と考察について一部加筆修正しました)

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