
サマリタンズのホームページを読む(埼玉いのちの電話の活動)
新年あけましておめでとうございます。
今回の年末年始は9連休で長いなあと思っていたのですが、残りあと3日!?9日あるからとゆったり構えていた原稿書き、結局いつものように突貫工事となっております。
年明けは昨年書き切れなかったものから。
▼日本のいのちの電話の源流、サマリタンズ
私は社会福祉法人埼玉いのちの電話の理事を務めておりますが、日本のいのちの電話創設の源流となったのはイギリスのサマリタンズ (Samaritans) という慈善団体の活動でした。サマリタンズを創始したのはチャド・バラー牧師です。彼は牧師として仕事を始めた初期の頃、初潮を梅毒と思い違いして悩み、誰にも相談することなく自らの命を絶った14歳の少女の葬儀を執り行ったことがあり、大変心を痛め、「たとえどんなに恥ずかしいことであっても相談できる人間のネットワークをつくることで自殺を食い止めたい」と考えるようになりました。1953年夏にSt Stephen教会主任牧師に任命されると、自殺を考えている人のために「999(救急電話)」にあたるものの準備を始めたのです。この奉仕事業の電話に最初にかかってきたのが1953年11月2日で、この日がサマリタンズの公式な誕生日となりました。(サマリタンズ(HPより)2号より)
チャド・バラー牧師によると、自殺防止の活動を始めた時、多くの相談者が殺到し、待合室で素人のボランティアの接待を受けて話を聴いてもらっているうちに、抱えている悩みの大半は既に解決していたり、僅かの援助しか必要としないことに気づいたとのことです。そこから、素人のボランティアの温かいまなざしや「befriending」(良き友になること)が、危機にある人に対して大きな意味と価値をもっていることを発見しました。殆どの人が本当に求め必要としているのは、深い関心と心からの共感、優越的ではなく友達としての語りかけ、傾聴であるとの確信に至ったのです。(広報誌「埼玉いのちの電話」2019.3 No.90より)
この運動はアイルランドを含むイギリス全土に広がり、60年後の2013年現在で支部(branch)数は201箇所、ボランティア数は約20,000人の大きな自殺防止の組織になっています。このサマリタンズ運動は全世界の自殺防止電話相談機関設立の原動力になり、日本では1969年、ドイツ人宣教師ルツ・ヘットカンプ女史が提案し、1971年、東京に「いのちの電話」が設立され、1977年には「日本いのちの電話連盟」が結成されました。
▼「サマリタンズ」とはどういう意味?
「サマリタンズ」とは「サマリア人」という意味ですが、これは新約聖書のルカによる福音書10章25節から37節にある「善きサマリア人」のたとえ話に由来するそうです。その一部を以下に引用します。
ユダヤ人たちは敵と隣人を区別していた。敵でない隣人はイスラエル民族、改宗者を含めたユダヤ教徒、同郷人、親戚、家族、近所の人などに区分される。だから律法の専門家は、それをはっきりさせなければ、隣人を愛することはできないと、「自分を正当化しようとして、『では、わたしの隣人とはだれですか』と言った」。
イエスはお答えになった。「ある人がエルサレムからエリコへ下って行く途中、追いはぎに襲われた。追いはぎはその人の服をはぎ取り、殴りつけ、半殺しにしたまま立ち去った。ある祭司がたまたまその道を下って来たが、その人を見ると道の向こう側を通って行った。同じようにレビ人もその場所にやって来たが、その人を見ると道の向こう側を通って行った。ところが旅をしていたあるサマリア人は、そばにくるとその人を見て憐れに思い近寄って傷に油とふどう酒を注ぎ、包帯をして、自分のロバに乗せ、宿屋に連れて行って介抱した。そして翌日になるとデナリオン銀貨二枚を取り出し、宿屋の主人に渡して言った。『この人を介抱してください。費用がもっとかかったら、帰りがけに払います』。
「隣人とはだれですか」との問いに対し、イエスは「だれが隣人になったと思うか」との問いを返された。律法の専門家は言った。「その人を助けた人です」。そこで、イエスは言われた。「行って、あなたも同じようにしなさい」。
このたとえ話が、「善きサマリア人」、そして「善き隣人」という言葉の由来となっています。1953年11月にチャド・バラー牧師の活動が始まるとDaily Mirror紙が「電話による良きサマリヤ人(Telephone Good Samaritans)」と命名し、サマリタンズと呼ばれるようになったとのことです。
▼「サマリタンズのホームページを読む」ボランティア活動
サマリタンズのホームページを拝見すると、実にさまざまな情報が掲載されているのですが、埼玉いのちの電話では2013年から、内藤武事務局長を中心とする有志でサマリタンズのホームページに掲載されるニュースの翻訳を手がけてきました。そして昨年、その果実が一冊の本になり、全国の相談員の手元に配布されたのです。一般販売の予定はありませんが、全文が「埼玉いのちの電話」のホームページに掲載されていますのでぜひご覧ください。末尾に1号〜31号の記事の主な見出しを掲載しました。
新年が人と人との絆を大切にし、お互いが支え合える年となるよう願っております。本年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
▼1号〜31号の記事の主な見出し
<1号>
・積極的傾聴
・電話の誤用
<2号>
・サマリタンズの歴史
・Chad Varahの話
<3号>
・「批判なしの傾聴」「オープンな問いかけ」「自己決定の尊重」etc
・死にたいとの電話を寄せてくるコーラーへのサマリタンズの向き合い方
<4号>
・サマリタンズが行う精神的活動についての評価
<5号>
・ボランティアの話
・グループ・インタビュー
・サマリタンズの利用状況(2010年)
<6号>
・ボランティアへの支援
・どのようにボランティアを人選するか
・傾聴ボランティアと支援ボランティア
・ボランティアとしてあなたにお願いすること
<7号>
・「受話器を取り上げる際にボランティアが心がけていること」「掛け手との距離の取り方」など
<8号>
・デーヴィッドの話、デスの話、マットの話
・あなたの話をしてください
<9号>
・沈黙を効果的に用いる
・コーラーの体験談
<10号>
・Samaritansニュースの衝撃(10号特集に寄せて頂いた感想文) 横浜いのちの電話相談員からの寄稿
・サマリタンズから学ぶ(10号特集に寄せて頂いた感想文-2) 愛知いのちの電話協会相談員からの寄稿
・チャッド・バラーがサマリタンズと袂を分かつ
・アイルランド共和国でサマリタンズに電話をかける
<11号>
・電話の終わらせ方
・窮地に陥っている人
<12号>
・サマリタンズ訪問記(長崎センター)
・ボランティアの話
<13号>
・サマリタンズ英国内で無料の電話を開始
・サマリタンズとイサベラ・ブロウ基金との協力
・三つの言葉でいのちは救える
・自殺について語りましょう
<14号>
・自殺の電話
<15号>
・サマリタンズ活動の数値的価値
・古参ボランティアが経験を語る
<16号>
・自殺報道のメディアガイドライン(前)
<17号>
・貧困地域における自殺率は2倍
・自殺報道のメディアガイドライン(後)
<18号>
・サマリタンズはバス広告で電話することを呼びかけています
・男性と自殺
<19号>
・新たな自殺統計
・サイモンの話
<20号>
・「サマリタンズのHPを和訳する会」の皆様
・和訳の会へのインタビュー(読者による)
<21号>
・不適切な電話の定義と分類
・自殺とネット環境
<22号>
・ただ耳を傾ける
・動画TED
<23号>
・刑務所での聴く仕組み
・自殺についての俗説
<24号>
・寂しさ、自殺、そして若者
<25号>
・サマリタンズの年次報告書(2018−2019)
<26号>
・自傷について
・自傷についての俗説と事実
<27号>
・コロナウィルスによるパンデミックの中で掛け手を理解するということ
<28号>
・ちょっとした会話が命を救う
<29号>
・本人が実話を語る
<30号>
・サマリタンズから寄せられたメッセージ、パンデミックの影響
・これまでの記事から
<31号>
・これまでの記事から 30号の「ピックアップ記事」の続き
・1−31号の総目次 各記事の要点をまとめ、後で参照しやすくした
参考資料
本文に直接の引用はありませんが、執筆にあたっては以下のサイトを参考にさせていただきました。ここに記して感謝申し上げます。
●イギリスは自殺対策ホットラインの発祥地。現在はどんなサポートがあるのか
https://japanesewriterinuk.com/article/samaritans.html