副所長のフィンランド視察記(2024年度第1回産業OD勉強会)
2024年度の第1回産業オープンダイアローグ勉強会を4月25日にオンライン開催しました。年度初めでみなさんお忙しかったのか参加者は6名でした。
今回は副所長の春日が話題提供しました。我々が取り組んでいるオープンダイアローグは、フィンランドの西ラップランド地方にあるケロプダス病院で生まれましたが、昨年、ケロプダス病院は地域の医療センターに吸収され、その役目を終えたとのことでした。その辺の事情も含め、フィンランドのダイアローグ事情がどう変わってきているのか、Nagoya Connect & Share 代表の白木孝二さんを団長に視察団が今年の3月に訪問しました。当研究所副所長の春日も同行しましたので、勉強会で報告を聞きました。彼らが訪問したのはケミの就労支援施設MERIVA、クライシスセンター、ロヴァニエミ市の行政、コトカの保育園、メンタルヘルスフィンランド、ヘルシンキ市の児童養護課などです。その全容をまとめることなどとてもできないのですが、印象に残った事柄を箇条書き的に記します。
▼フィンランドはどんな国?
フィンランドの特徴を簡単にまとめると以下のようになります。
<図1 フィンランドの特徴>
▼フィンランドの幸福度、7年連続世界1位
このニュースはご存じの方も多いと思います。フィンランドの幸福度が高い理由は、以下が挙げられるとのことでした。ちなみに日本は51位です。
▼あなたとわたしは違う。だからあなたのことを教えて
春日の報告の中で印象に残った言葉としては、これらでした。
ダイアローグについて言えば、オープンダイアローグというアプローチは縮小してしまったけれど、対話を大事にする文化は浸透していっているようです。たとえばケミの就労支援施設では、一人ひとりの希望に寄り添い対話することでその人のニーズに合った支援を探しますし、クライシスセンターではリニティ・ワークといって、自殺未遂者の再発防止のために面談を行い、それを録画して本人に渡し見てもらうという活動が行われているそうです。保育園では5歳の子がダイアローグの練習をしています。たとえば「友だちになるには」というテーマでダイアローグを行います。中には落ち着いて座っていられない子もいますが、複数の先生が待機していて、耳だけでも参加できるようにサポートするそうです。
ということで、いずれの施設の見学でも、人が集まる“場”というものをものすごく大事にしていることが伝わってきたそうです。そして人をよく観察していると。あなたとわたしは違う。だからあなたのことを教えて、というわけです。
▼フィンランドの課題
こういったサービスは、市民の声を聞きながら公的機関が行っているため、政権が変わると政策も左右されるといった課題があります。実際、現在は福祉の予算は削られてきているようです。
また若者の引きこもりやゲーム障害、ADHDなども増えており、格差が広がっていくのではないかという懸念もあるそうです。
ということで、フィンランドもさまざまな課題を抱えているようですが、対話を重ね、相手を理解し、物事を進めていくという文化は着実に根付いているように思われました。
▼そしてダイアローグはどこへ向かうのか
ケロプダス病院がなくなったと聞いて、オープンダイアローグはどうなってしまうのか!?という危機感を抱いていたのですが、創始者たちは健在ですし、世界各国からケロプダスに学びに訪れた人たちが、それぞれの地元でダイアローグの活動を広げています。もちろん日本でも。フィンランドの人たちだからこそ作ることができたという面はあるのでしょうが、一方では5歳の子どもたちでも体験できることが、他の国でも実践できないはずはありません。
さらに世界的な動きとしてSDGsがあります。SDGsは2015年に国連加盟国全会一致で採択されたものですが、そのスローガンである「誰一人取り残さない(leave no one behind)」は、一人ひとりを大切にするということですし、あなたの声を聞かせてくださいということでもあると思います。あるいは1999年にILOが提案したディーセント・ワーク、「働きがいのある人間らしい仕事、より具体的には、 自由、公平、安全と人間としての尊厳を条件とした、 全ての人のための生産的な仕事」も同じような概念だと思うのです。これらは西洋文明の大きな流れの中で生まれた概念と言えばそうなのでしょうが、私は「新しい人間主義」という普遍性を持ったアイデアだと思っており、フィンランドで生まれたオープンダイアローグの精神とも呼応しているように思うのです。
創始者たちが作り上げたオープンダイアローグの哲学とその精神を自分たちのものとしながら、私たちのグループは産業の現場で、ダイアローグの文化を広げていきたいと改めて思った時間でした。
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