学会参加報告:日本心理劇学会 第28回大会でオープンダイアローグを味わう
2022年12月、明治大学駿河台キャンパスにおいて、日本心理劇学会第28回大会(https://psychodrama28.info/)が開かれました。大会のテーマは「サイコドラマとオープンダイアローグ(以下ODと略)」。しかも大会長は私の研究室の1年先輩である山登敬之さん(ODの慣習で「さん」付けで呼ばせていただきます)。その他後輩が何人も出るので、聞き逃すわけにはいきません。
■なぜ心理劇学会でOD?
大会長の山登敬之さんは精神科医でありながら、一時は劇団東京乾電池の劇作家をやっていたこともある演劇人。そして精神医学界だけでなく言論の分野でも活躍する斎藤環さんは研究室の3年後輩。20代の頃はこのメンバーを中心によく遊んでいたのです。
で、数年前に斎藤さんに誘われ山登さんがODのWSに参加した時、これはサイコドラマに似ている!と感じ、今回の企画にたどり着いたそうです。
初日のプログラムは以下の通りです。
1.全体の雰囲気
・非学会員もけっこう参加していたようで200人くらいはいたように思います。
・年齢層が若いためか、みなさん顔なじみなのか、前の週に参加した産業ストレス学会より和気あいあいとしていて爽やかでした。
・一番感じたのは山登さん、斎藤さんの背中が丸くなってきた!ごめん。自分は鍛えるぞと決意。
2.特別講演について
・斎藤さんの講演は何回も聴いており、前半は聞いたことがある内容でしたが、「リフレクティングは茶番と呼ばれることがあるが、茶番でいいんです!」と言っていたのが印象に残りました。私は今までの実践で茶番と言われたことはありませんが、それはわざとらしさが出ないように意識していたせいもあるかもしれません。しかしクライアントがわざとらしく感じたとしても、それはそれで問題ないのかもしれない、と自分の経験から納得しました。
・もう一つ、斎藤さんはベイトソンの学習理論を紹介し、コンテクストの学習、つまり「学習2」とベイトソンが呼ぶものが該当するのではないかと語っていました。ありゃりゃ、ベイトソンを復習しなければ。
・あとは後輩の大井雄一さんがODの学習用にシナリオを作っていて、もうじき雑誌「精神看護」に載るという話(末尾の資料1をご覧ください)。シナリオ・ロールプレイと呼ぶようですが、それを「棒読み」するだけでもODが何となくわかってくるんだそうです。これはぜひ研究会で試してみたい。
・私はODのデモの本質は即興性だと考えていたので、今までの研修では、あえてシナリオ無し、ぶっつけ本番でデモを見せていたのです。けれどやはり昨年12月に参加したアルコール予防のHAPPYプログラムの研修会で、あらかじめ用意された面談のシナリオに沿ってロールプレイをしてみたところ、これなら初心者にもわかりやすいかも!と思ったばかりでした。大井さんのシナリオは公開されていますので、ぜひご覧ください(資料2)。
3.大会企画 第1部「オープンダイアローグ劇」
・劇のあらすじは、「波動論マシン」というものによって、世界の指導者と交信できるという妄想を持った男性の家に、主治医の精神科医と副院長、訪問看護師の3人が訪問して、妹を含めた5人で初回ODを行う、約40分に及ぶ「劇」でした。
・出演者は斎藤さんよりもっと下の後輩の西村秋生さん、大井さん、さらにオープンダイアローグ・ネットワーク・ジャパンの3 Days workshop講師でお世話になった村井美和子さんも登壇。村井さんはworkshopで初っぱなのロールプレイの相手になってくれた人。2021年11月のダイアローグ国際会議(資料3)でもご一緒しました。もう1人は心理劇学会の会員女性でした。学会という限られた時間内に行うため、5人で何回かリハーサルをやって臨んだそうです。
・演技開始。冒頭、主人公が「俺を逮捕しに来たの?」と語りました。こういう状況ではよくある反応ですよね。
・主人公は、もう薬を飲まなくても大丈夫、気ままに暮らしている、と語る。
・一方、医師2人は、疲れないか?眠れているか?など、本人の体調を案ずる質問を何度かしていましたが、主人公は「大丈夫」と繰り返すばかり。
・ただ、あるタイミングで「波動論マシン」の話が出て一同ビックリ。
・マシンを使って医師たち3人に通信を行ってみせるが、もちろんわからない。
・医師たちはわからないと伝えるが、主人公は、俺を騙そうとしているなと。でもそこから疑念はエスカレートしませんでした。
・本人から波動論マシンの説明があり、それは湾岸戦争の頃から使えるようになった、実家の地下に機械はあるとか、今日は天気が悪いからうまくいかないのかな、といった話は、対話を広げていく上で興味を惹きました。
・妹は波動論の話を聞いて、兄がおかしなことを言い出したという感じよりも、兄の抱える困難さを初めて理解できたように見えました。
・最終的には、次回また話しましょう、ということで終了しました。熱演でした。みなさん、お疲れさまでした。
4.大会企画 第2部「シェアリング」
・ドラマを受けてシェアリングです。舞台の左側に心理劇学会のメンバー5人が登壇し、半円に椅子を並べ座ります。舞台に右側にドラマを演じた5人がやはり半円になって座りました。
・まず心理劇チームからリフレクティングを開始しました。いろいろな連想が出て、それを受けて右側のODチームがまたリフレクティング。これを2往復しました。
・多くの人が感じたようなのは、相手を尊重し、とても丁寧に応対しているということ。
・異常体験を語っても特別扱いはせず、体調のこととかと同列に扱っていたのも印象的だったようです。
・リフレクティングについて、「言葉をペタペタ貼っていく」というコメントが心理劇学会チームから出て、そうだなと思いました。後でドラマチームの村井さんが、「それは剥がれてもいいものだと思う」とコメント。そうです。リフレクティングは断定ではない。話した人の思いがどこかにくっつくけど、宙にも舞っていく感じ。
・1対1で腹を割って話すというが、実は1対1では話せなかった話がODでは出てきたりする、というコメントもとても納得できました。
・おそらく見ていた聴衆は、ドラマとはいえ面接場面で何も特別なことは起こらなかったと感じたと思いますが、それが普通ですと。なぜか次の面接に行くと何かが起こっていることが多い。面接と面接の間でインキュベーションが起こるのがODの特徴、といった話も出、それも納得でした。
今回のシンポジウム自体、ライブ感満載で楽しめましたし、普段行っている面接はライブそのものですよね。人は予定通りには動かない。それが楽しめる、まではいかなくても、「不確実性の耐性(免疫)」が高まっていくと、未来への(変化への)ワクワク感が増していくのだろうなと思った次第です。このような貴重な学びの機会をいただき、ありがとうございました。
参考資料
1)精神看護 Vol.26 No.1 (2023年 01月号)
https://www.igaku-shoin.co.jp/journal/detail/40866
2)精神看護(医学書院)「声に出して読みたいオープンダイアローグ」
https://note.com/yuichi___/n/n31b36d08c555
3)ダイアローグ国際会議オンライン[DICO 2021]でワークショップを担当しました
https://note.com/sangyo_dialogue/n/ncc84e34402ce?magazine_key=m83de889eb77a