アイスクリームの天使

 夕方、外を歩いていたら雨がぽつぽつ降ってきた。
 近くにいる人たちが次々に傘を広げていく。
 鞄の中に手を入れて、折りたたみの傘を探している人もいる。
 あいにく私は傘を持っていなかった。
 でもそんなに強い雨じゃなかったし、あとは家に帰るだけ。
 傘は無くても大丈夫、そう思っていた。
 でも途中で私以外の全員が傘を差していることに気がついた。
 すると妙なもので、とたんに恥ずかしくなってきた。
 なんだか自分だけ仲間外れみたいで。
 それに道行く人が私のことをじろじろ見ているような気もする。
 私はうつむいて早足で進むけれど、家はまだまだ遠く、焦るような思いがした。
 すると横断歩道を渡って、制服を着た女学生がひとり、こちらへやってきた。
 彼女は私と同じで傘を差しておらず、その代わり手にはアイスクリームを持っていた。
 まるで雨なんか降っていないみたいに、髪が濡れるのもお構いなしに、ふわりふわりと歩きながら、コーンの上にのっかったアイスクリームを舌ですくって、その甘さをじっくり味わっている。
 それは駅前でネオンサインが光る、あのお店のアイスクリームで、私も気に入っているフレーバーだった。
 彼女は私のことを、ちらりと見た。
 私も彼女のことを見ていた。
 私たちの間に言葉はなかった。
 けれども私はなぜだかそのとき
「傘なんか無くても平気」
 と、言われたような気がしたのだった。
 それで私はすっかり安心した気持ちになり、顔を上げて、いつもとおなじように家まで帰った。


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