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祖母が曾孫を見る目を嬉しそうにみる母をみる娘

 90になる祖母が、「お客さんが待ってるから早く退院できてよかった」と言った。  

 祖母は、小さな緑豊かな村で、美容師をしている。私が小さい頃はパーマ屋と呼んでいて、でっかいヘルメットみたいなパーマの機械があった。
 毎年夏になると私は祖母宅に預けられていた。自宅兼美容室で、寝坊な私が起きる頃には、もうお客さんが来ていて仕事をしていた。
 数年前までは着付けもやっていて、花嫁さんの着物なんかもやっていた。時々若い花嫁さんが来るとドキドキした。角隠しや白無垢を、祖母は力強く着付けていくのをこっそり見ていた。
 でも大概の客は、祖母と同年代の近所のおばあちゃん世代で、おばあちゃんたちは、寝起きの私を見つけては、ロットを沢山つけられてパーマ液が浸透する身動きの取れない体勢で、
 「(母)ちゃんの娘さんかえ、大きくなって」と鏡越しに話しかけてきた。

その頃は祖父も元気で、よく一緒に自動販売機にジュース入れに行ったり、パチンコに行ったりしていた。

私が預けられていたのは、一月くらい。母は最初の夜だけ泊まり、その後迎えに来るのまで、祖父母と暮らした。
 娘を持った今考えると、祖母すごいなと思う。自身も朝早くから仕事をしながら、幼児を長期間預かるのはなかなか、すごい。
 祖母が仕事をしている間、近所の子が来たり、親戚のお姉ちゃんが遊んでくれたり、唯一近いお店セブンイレブンで、リボンを買ってもらったり、裏山を登ったりしながら私はのんびり過ごした。

あの場所で母は、どんなふうに過ごしていたのだろう。親子で言い争う姿も、お互いを悪く言う姿も、私には見せなかった。
「(母)は、若い頃よく食べて、カレーを三杯もおかわりした」
と、祖母が、言うのを母が「1日だけじゃない」と突っこむ、そんな感じ。

 祖母が、ボケで祖父か母がツッコミ。
祖母はツッコミにあらそーお?と
笑って受け流す。

 そんな祖母の足が痛いと言って、入院したのは、少し前だった。人工関節を入れて、無事退院。「お客さんが待ってるから、退院できてよかった」と、祖母は電話口で言った。まだ仕事をする気満々でびっくりした。

その数カ月後、「実はおばあちゃんまた入院してるんだよ」と母。もう片方の膝にも人工関節を入れるらしい。二度目の入院。

 ようやく今日退院するんだという日、ちょうど私の母と妹がうちに来ていた。近くに住む叔父さんが、母とライン通話を繋いでくれた。

おばあちゃんの顔が映し出された。
長年のシワは増えたが、肌艶は良い。元気そうで良かった。快活に経緯を説明してくれ、私たち孫の顔が画面に現れると、相好が崩れ、さらに曾孫がうつると、嬉しそうに声をかけてくれた。

曾孫と話す祖母をみていると、ふと、傍らにいた母に目が止まった。
なんだか、娘の私たちには見せないような顔をしていた。
私が小さかった頃、祖母に見せていたツッコミの母とも違う。

 曾孫の顔をみる祖母の嬉しそうな顔を、母はどんな気持ちでみているんだろう。
 高校を出てから東京にきて、東京と村との距離は、だいぶ遠かっただろう。ずっと近くに住んでいる私とはまた違った気持ちがあるのかもしれない。

 祖母も母もずっと忙しくしてきた人だけど、ずっと私たちを見守ってくれていて、私の娘や妹の息子のことも、まるっと見守ってくれているのだな。
と、同時に母もまた、高齢の祖母をそのまままるっと見守っているのだなと、感じた。

祖母は、まだお客さんのために働くという。


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