近代国家とプレ近代国家

世界の秩序についてロバート・クーパーは、プレ近代国家、近代国家、ポスト近代国家によって分割される、と指摘します。

プレ近代世界とは

マックス・ウェーバーは、正統に暴力行使を独占するものを国家の定義とする、という基準を示したが、これらの国はもはやその基準を満たしていない。こうした状況に陥る一つのパターンとして、国家が独占的な暴力を乱用し過ぎた結果、正統性を失うというケースがよくみられる。一方、通常兵器がごく簡単に手に入るという現状から予想される事態として、国家だけが力を独占することが不可能になるケースも出てくるだろう。

47頁

近代世界とは、

 近代的な秩序の重要な特徴は、国家の主権を確認してうえで、内政と外交をはっきり区別し、内政面での政策を考える際、外国への干渉をその中に決して含めない点である。(略)近代の世界では、安全を究極的に保証するのは相変わらず武力であり、武力を使えば、少なくとも理論上は、国境線の変更すら可能である。近代的な秩序では、力こそ正義とまではいかないが、正義自体は取りたてて意味ある事でもない。

54頁

ポスト近代世界とは、

 ポスト近代国家にとっての困難は、民主主義と民主的制度が、領土国家と固く結びついている点である。(略)今後、経済、立法、防衛については、次第に国際的な枠組みと密接な関係を持つようになっていくだろうし、国境線についてはあまり重要視されなくなる可能性がある。ところが、アイデンティティと民主的制度は、これからも一貫して国内的なものであり続ける。

64頁

日本の場合でいえば、近代国家とポスト近代国家への移行段階にある、と考えられているように、明確に区別できるものではないでしょうが、目安としては便利なものです。とくに、ポスト近代世界は定義においても矛盾がみられます。

ウクライナとロシアについていえば、ウクライナは、国家の形態が成立していないプレ近代国家、ロシアは、干渉を排除する強権的な近代国家に分類されるといえるでしょう。

この両タイプの国家には汚職と不正という大きな問題がありますが、おおよそ、近代国家ではそれが特権階級に限られ、プレ近代国家ではそのすそ野が広い、といえます。

いま、ロンドンでは「ウクライナ復興会議」が開かれていますが、それが有効なものとなるかどうかは、「汚職と不正」がネックとなるでしょう。それの解消こそが、ウクライナの復興の第一歩になる必要があります。

しかし、それはプレ近代国家であるウクライナが、近代国家を経ずに、他国からの内政への大きな干渉を受け入れる、ポスト近代国家へと移行していくことでもあります(このような国家はいまだ存在していません)。

今、ウクライナが統一的な国家であるのは、ロシアという強力な外敵の存在なくしてはありえないでしょう。そして、外敵としての存在感が弱くなれば、分裂国家に戻ってしまう可能性もあります。だとすれば、復興支援がゆき渡らないことになってしまいます。

非常に厳しい道のりですが、ナショナリズムによらない「統治形態」という観念が、支援をする側にも受ける側にも、今、何よりも必要だと考えています。

『国家の崩壊 新リベラル帝国主義と世界秩序』
ロバート・クーパー 北沢格訳 日本経済新聞出版 2008


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