常識と算数の初歩
斎藤幸平著『人新世の「資本論」』(集英社新書 2020)の見解には賛同しますし、その主張は受け入れるべきだ、と考えています。しかし、本書は2021年度の新書大賞の第1位となった話題作でもあったわけですから、当然、反論もあります。その反論本もいくらかは読んでいますが(受け入れがたい主張にも触れる必要を感じていますから)、今回、以前にkindle版を購入していた、柿埜真吾著『自由と成長の経済学』を読みました。
基本スタンスは気候変動を受け入れた上で、資本主義のもとでの経済成長を肯定するもので、論理が首尾一貫しており、質の高いものになっています。しかし、「エッ」とわが目を疑うような記述がありましたので、それについて触れます。
それは水野和夫が『資本主義の終焉と歴史の危機』(集英社新書 2014)で独自に作成した「高所得国の世界人口にしめる割合」のグラフについて、述べられたところです。
水野の定義である「高所得国は世界の一人当たり平均実質GDPの2倍ある国」は論理的にありえます。世界平均の2倍ある国が「高所得国である」と言っているだけなのですから。それを柿埜は、「すべての国が平均の2倍以上」と読み替えています。水野が言っているのは「すべての国の平均の2倍以上」ということであり、「すべての国の」というところを「すべての国が」にして強引に意味(意図)不明な論理を導きだしています。
そしてご丁寧に、〈世界銀行によれば、2019年の世界平均の一人当たりの実質GDP(2011年ドル)は、日本の22・5%に過ぎない〉(127頁)というデータまであげています(2011年ドルというのは意味不明で、おそらく、2019年ドルだと思います)。これは日本が、水野の定義する高所得国であるという事例です。世界平均の一人当たりの実質GDPの4・5倍もあるのですから。
アマゾンの読者レビューを見ましたが、このような指摘はなされていないようです。
柿埜真吾『自由と成長の経済学 「人新世」と「脱成長コミュニズム」の罠』 PHP新書 2021