労働組合とは何か その3
前回まで「産業別労働組合」に至る歴史をたどりました。それを木下は「本当の労働組合」である、として、〈この「本当の労働組合」とそれを形成するエネルギーをユニオニズム〉(ⅱ頁)と呼んでいます。しかし日本では、その種は持ち込まれましたが、花を咲かせることはなく、〈戦後になり、その「種」は日本の土壌で育つうちに、やがて世界では見ることのない土着の花を咲かせてしまった〉(ⅱ-ⅲ頁)としています。それが「企業別労働組合」です。
日本でも戦後、「産業別組合」への志向がみられた時期もありました。173頁から175頁の要約です。
〈一九四七年二月一日のゼネストが発表され、産別会議は政府樹立まで闘い抜くとの方針を決め〉たのですが、〈アメリカ占領軍の命令によって中止をよぎなくされ〉ました。それをふまえて、〈本部の指導に批判的な動きが起き〉、その批判を産別会議が受け入れ、〈臨時大会を開いて自己批判をする〉ことに決定しました。
〈ところが、臨時大会の前日、七月九日、日本共産党は産別会議の代議員の中の党員全員を党本部に招集し、自己批判をおこなわないことを〉決めたのをうけて、それに対して〈加盟単産のなかで批判が噴出した。産別会議の指導部と共産党本部との対立が深まるなか、一九四八年二月、産別民主化同盟(民同)が旗揚げした。この動きに呼応して産別会議に参加していた多くの単産は雪崩を打って脱退して〉いくことになりました。
〈マルクスが述べた労働組合が「政治団体に従属」するならば、「労働組合に致命的な打撃を与えることになる」との忠告的な予言〉のとおりの事態になりました。
「単産」とは「産業別単一労働組合」のことです。
ここで、「産業別労働組合」への道は閉ざされ、「企業別労働組合」への道が開かれることになった、と述べています。「企業別組合」が受け入れられたのは、以下の経緯をたどる、と述べています。
しかし、〈このような忠告に当時の組合幹部は耳を貸さなかった〉(176頁)といいます。
敗戦後の混乱の時期に〈経営側による企業別分断と、政府による産業民主主義を否定する政策〉(156頁)がとられ、組合側も、年功賃金と終身雇用という自らの利益を第一とした、ということでしょう。そして、企業別になった組合は、孤立し弱体化してゆきます。
そして一九七五年に〈戦後の労働組合運動の最大の転換点〉をむかえた、としています。(196頁―197頁)
〈一九七三年の「狂乱物価」やオイル・ショック〉に見舞われた日本では危機感がひろまり、それを〈市民社会における労働者統合で乗り切〉ろうとの意欲を示したのに対し、〈労働運動側は、一九七五年、戦後労働運動の歴史を画する二つの敗北を喫した。一つは春闘の敗北である。政府と日経連は大幅賃上げに対して「賃上げ自粛」を提起した。これに民間大手企業労組が主流を占める全国組織が次々な賛同し〉ました。
〈もう一つは、スト権ストの敗北である。国労や全逓、全電通などで作っていた公労協はストライキ権の回復を要求して一九七五年一一月二六日から一二月三日まで、八日間にわたる史上空前のスト権ストに突入し〉ましたが、〈何らの成果を得ることなく終息をよぎなくされ〉ました。
そのような結果をもたらしたのは、〈一九六〇年代から経済発展の「平時」に造り上げた企業主義的統合の仕組みを、経済的危機の「戦時」に作動させたら、瞬時に威力を発揮した〉ということであり、〈問題の核心は、企業主義的統合の上に立つ労使協調の民間大企業労組にあった〉のです。
労使協調といいますが、労働者の経営側へのすり寄りであり、一時よく耳にした「一人ひとりが経営者の視点を持つ」ということでしかありません。
そして、労働運動としてのストライキは勢力を失うことになりました。だって、企業別ですから、ストライキをすることにより、そして成果を得るということは、属する企業にとっては「同一職種の他企業」との競争力が弱体化することにつながりますし、同一労働同一賃金の原則に従えば、現状では大企業と中小零細企業との格差が大きすぎ、そして大企業の労働組合のほうが、基盤はしっかりしていますので、動きません。
前回にふれた「個」と「集団」で説明すれば、「個」も「集団」も別種の実体として捉えられていて、規模の大きさにより「集団」は「個」よりも勢力がある、と考えられているのかもしれません。
では、日本にユニオニズムは存在しないのでしょうか。「関西地区生コン支部」が産業別労働組合へと成長してゆくさまを取りあげられていて、希望をもてますし、ほかにプロ野球の「選手会」、「日本音楽家ユニオン」が取りあげられています。
この頃日本でも「ジョブ型労働」が取りあげられていますが、あれは大手企業などが特定の技能者を企業に囲い込むだけであって、労働市場が「ジョブ型」になっているわけではありません。
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