コロナリストラに遭ったょ☆その②「陳さん」

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その①では社長からの解雇宣告の模様をお伝えしました
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解雇通告を受けたあと、大部屋に戻るとみんなが意気消沈していた。そりゃそうだ、ここにいるスタッフは1人(陳さん)を除きみんな入社して間もない。

そんな中10日休みが増え、その10日の給料も保証されず、更には解雇5日前に解雇宣告を受けたのである。

私はまだいい、なんてたって実家暮らし、払わないといけない家賃もなければ養わなければいけない家族もいない。

しかし、私以外の営業さんは、全員一人暮らしで、Aさんにいたっては妻子持ちだ。
そしてBさんはビジネスビザで日本に来ているので、解雇になったらビザがなくなり日本にいることすらできない。母国に帰ればいいと思うかもしれないが、彼は日本の永住権がほしくてここでビジネスビザを止めることができないと言っていた。あと1年ちょっとで永住権が申請できるからと。
Dくんは超大手を辞めて地元から出てきたにも関わらず、1か月少しでいきなりの解雇…あんた本当になんで大手辞めたんだよ、まじ私と変わってくれよとこれまで何度思ったか。

そんな中、そう、ここからの主人公、事務の先輩陳さんが、奇行に出始めたのである。
陳さんは、その日までまぎれもなく「いいひと」であった。そう、解雇宣告のその日まで…

陳さんのことを少し説明したい。
私がなぜこのポンコツ会社に入社したかと言うと、まさに陳さんがきっかけといっても過言ではない。面接は社長面接だったが、正直この時社長に対する印象は最悪だった。「この会社やばい、絶対入社するのやめよう」と思ったぐらいである。転職サイトに載っていた内容と社長が言っている内容が全く合ってなかったし、「合否の結果は2-3日で出ると思います。そんなに時間はかかりません」と社長本人が言っていたにも関わらず、内定の電話が来たのは面接から10日が経ってたのことだった。
やっぱりやばい会社…と私は思った。
しかし当時私にはこの会社からしか内定をもらっていなかったし、仕事内容と待遇面が良かったので、おかしな会社という思いを持ちながらも、切り捨てることができないでいた。
しかし安易にokの返事もできない…ので、実際に一緒に仕事をする人と面談をさせてほしいと申し出た。こんなことをお願いする人も少ないだろうが、疑問を持ったら提案してみたら良い。もしそれで断られたら、何か隠したいこと?があるのかもしれないので、その会社とはご縁がなかったと思って諦めましょう。
このポンコツ会社はすんなりokだった。そして出てきた「一緒に仕事をする人」が、陳さんだったのだ。

陳さんは非常に丁寧に会社のことや仕事内容を説明してくれた。
私から会社への質問は10分で終わったが、「わざわざ来てくださったのだから、もっと質問してください。私に答えれることは何でも話しますから。」と言ってくれ、しかもまだ入社を決めていない私にオフィス案内までしてくれたのだ。

しかしこの面談時、私は聞きづてならないことを聞いてしまっていた。それは、「事務員が3人いたんだけど全員ほぼ同時に辞めちゃったの。」

えっ…3人?ほぼ同時に?正気じゃねぇぜこの会社…と思った。

まともな会社で事務員がほぼ同時期に3人辞めるなんてありえない。そうでしょう?
私はすかさず「会社の人間関係はどうですか?」と踏み込んだ質問をした。陳さん、この返しが見事だったのである。一言一言は覚えていないが、陳さんは完璧な日本語で、
「仕事をしている時間というのは1日のたった8時間で、その時間さえすんなり自分の仕事ができればそれでいい。仕事をスムーズに行うために、人間関係は努力しないといけない。どの会社に行っても人間関係の問題はあるもので、1日たった8時間と思って割り切るしかない」
というようなことを私なんかよりもっと上手な日本語で説明してくれた。
つまり人間関係は良好ではなさそうだということは分かった。しかしそれを隠さずに、しかも遠回しに言っているようで芯をついているような説明に好感が持てた。

社長は変だったがこの人はまともであると私は「錯覚」した。
そして「この人となら(この変な会社でも)一緒に仕事できるかも」などと「勘違い」し、入社を決めてしまったのである。
そして奇しくも、私とほぼ同時期に面接を受けていた営業BさんとDくんも、私と全く同じ思い(社長→おかしい。陳さん→まとも)で入社を決めていたのである。

入社後も陳さんは私にとてもよくしてくれた。
中国人あるあるだが、よく中国人はフルーツを会社に持ってくる。
陳さんはみかんを持ってきては「経理のおばちゃんには内緒よ」と言いながら私にくれる。
そういう行為から、陳さんが経理のおばちゃんに気を使っているということはなんとなく伝わってきていた。

そして入社3日目、知りたくない事実を知るはめになる。

その日は陳さんと一緒に退社し最寄りの駅まで二人で歩いていた。
すると陳さんが、「ねぇ、事務員が辞めたって言ってたでしょ?あれ、経理の中川さんがいじめてたからなの。」

……!!!!!????

「私も、いじめられてたのよ」

……!!!!!????

「だから、三月ちゃんも、気を付けてね」

……!!!!!????

会社から最寄り駅まで非常に近かったため、そこでその会話は終了した。

私は「気を付けてねってどうやってだよ!?NGワードとかあるなら教えてよ!」という気持ちと、
なんで入社3日目の子にそんな情報を!!!???と思い混乱した。

しかし、私ももう35歳である。そんな一方的な情報を信じこむほど子供ではない。

だって、大の大人が、いじめとか、しますか?(世の中にはあるみたいですけど)
少なくとも経理のおばちゃんはそういう人間には見えなかった。根っからの関西人なので、言い方がキツイときはあるが、言っていることはまともである。
とりあえずそんな「いらん情報」を貰いながら、その日以降も元気に出勤した。

その後聞かされた情報を要約すると、
「経理の中川さんはみんなから嫌われていて、元々この大部屋にいたんだけど、見かねた社長があの小部屋に席を移動させた。あの小部屋は元々私が使っていたんだけど、大部屋に来てから他のスタッフからも私はいじめをうけた。」というものだった。

それ故に私はあの小部屋を「独房」と呼んでいたのである。(もちろん心の中でである)

何が真実やら…と思っていたそんな中、事務所に私と経理のおばちゃん二人っきりになった時があった。

おばちゃんもいつも独房にいるから誰かと喋りたいのだ。私がいる大部屋に来て、今度はこの人が陳さんの悪口を言い出した。(女子って怖いよね~)

そして、あのいじめ問題も、告白し始めたのである…!

「陳さん、私がいじめたいじめた言うてるけど、三月ちゃんが来る前の事務員がほんっとうに仕事のできない奴で、少しきつく言ってただけ。それで泣き出すから、「泣くならトイレで泣いて」と言ったんよ」

……十分怖いですけど!!!!!????

「それで、私元々この大部屋にいてんけど、私経理やんか、細かい計算するのに、電話もなるし、集中できないわけ。それであの小部屋にうつることになったんよ」

……やっぱり陳さんと言ってること違うな~

「それで、小部屋にいた陳さんと交代になってんけど、陳さん、大部屋に移動してから、やれシュレッターの紙ふぶきがイヤだの、やれファイルが整理されてないだの、とにかくやりたい放題よ。挙句の果てに、「私は社長の言うこと以外聞かない!」なんて言い出して、ほんま全員から嫌われとったで

……やっぱり陳さんと言ってることと…以下省略。

とりあえず双方が「あの人はみんなから嫌われていた」と思っているらしいことだけ分かった。

おそらく経理のおばちゃん側が真実であろうが、もはやどうでもいい。

二人の間に挟まれて、しんどい思いはしたが、私はどちらからもいじめは受けなかったので、毎日自分の仕事をひたすらに進めるだけだった。とは言えまだ入社して間もないため、すべてのことは陳さんに聞いて教えてもらわないといけなかった。
陳さんは陳さんで忙しいのだが、「私が忙しくても、何か疑問に思ったことがあれば、私の手を止めて聞いてくれていいからね」とか、お昼休みも人数が少ないため順番に回していくしかなく、本当は外食してもいいのだが「三月ちゃんが一人だと不安だろうから、私は外食せずに事務所でお弁当を食べるわ。何かあればすぐに呼んでね」と言っていつも私が安心して仕事ができる環境を作ってくれていた。

普通の人間であれば「いいひと」と思うだろう。

そう、私も少しの疑問は持ちながらも基本は「いいひと」と思っていたのである。

そう、解雇通告を受けた「あの日」までは…。

その③につづく。

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