冬の朝なんとか布団から起き上がったら、こたつに制服を押し込む。
それは高校生の頃の私が自分で石油ストーブをつけることが出来なかったからです。芯にマッチで火を点火するタイプのストーブです。父がすでに起きていて鳥やカメ、犬の世話なんかをしているのですが、一人だともったいないと思うのかまだ暖房はついていなくて、部屋はしんしんとしています。家についていたエアコンは冷房機能しかない機種でした。母はまだ寝ています。私は学校が遠かったので早起きでした。私は寒くて座り姿勢からだんだんと崩れてこたつに寝転んでゆきます。父が居間に戻ってきて石油ストーブに火を入れます。最近よく見かける円筒のお洒落な形ではなく長方形のゴツイものです。ベランダの窓は全開で冷たい風が入ってきます。当時の私は石油ストーブの使用に換気が必要だなんて知らなかったから、ただただ寒いと愚痴をこぼしていました。点火すると父はストーブの上にやかんを置いてストーブの前で手をこすり合わせます。「何か食べるか?」と聞く父に「いらない」と答える。お互い会社やバイトですれ違うことが多い私と父との間に交わされる数少ない会話のひとつでした。じわじわと部屋が温まり始めて、私は時計を見ながらこたつに埋めた制服を引っ張り出し着替えを始めます。少しだけ父の視線を気にして顔を上げれば、父はもう私に背を向けて居間に隣り合わせのキッチンで朝食を作り始めています。あの頃の私は父とは思春期特有のもので少々折り合いが悪く、父は一言多いのでよく言い争いに発展するのであまり話さないようにしていました。そんな父はもう居ませんし、今は賃貸に住んでいて石油ストーブは使えません。けれど冬になれば思い出す父との大切な思い出です。