★ラストナイト・イン・ソーホー
数年前に「イエスタデイ」っていう映画がありまして、売れないミュージシャンの主人公がビートルズが存在しない世界に転生して、ビートルズの曲を自分が作ったフリして発表したら「なんじゃこりゃ!めちゃくちゃいい曲やんか!」と騒ぎになり大スターになる話。
この転生後の世界ではオアシスも存在していません。
UKロック好きがクスリとする設定なのですが、「ビートルズを好きな人が観にくる=UKロックの知識がある=オアシスのギャラガー兄弟がビートルズを崇拝していることを知っている」という、割と安定感のある公式から生まれたジョークだと思うのです。
一方コメディ映画「ショーン・オブ・ザ・デッド」ではこんなやりとりがあります。
ゾンビに追いかけられている2人がレコードをぶつけて撃退しようとして、
「次はこれを投げるぞ!」
「ダメだ!スローン・ローゼズだ!」
「セカンド・カミングだぞ!」
この場面、デビューアルバムが爆発的人気を博したストーン・ローゼズが5年ぶりに発表した2枚目のアルバム「セカンド・カミング」の評判が芳しくなかったエピソードに取材しているのですが、このジョークは割と冒険です。
なぜなら「ゾンビコメディ映画が好き=ストーン・ローゼズを知っている」という公式が成り立たないからです。
この映画で成立している唯一の公式は、エドガー・ライト監督の極めて主観的な「おれのつくる映画が好き=それを観る人はおれと感性が同じ=おれが好きなストーン・ローゼズを知っている」です。
エドガー・ライト監督の映画は「ホット・ファズ」も「ワールズ・エンド」も「ベイビー・ドライバー」も確かにおもしろくて大好きです(さすがに「スコット・ピルグリム」はどうかと思ったが)
ただ、監督の名前を頼りにすると駄作でも自分を騙して楽しむ義務感が発生するし、作品に監督の感性だけを探すのは盲目的でもったいないし、時間がないときに観る映画を決めるための索引にする程度でよいのでは、と思っています。
そんなわけで、エドガー・ライト監督の「ラストナイト・イン・ソーホー」を心をフラットにして観ようと思います。