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なんだかいい感じの髪の毛
幼少期の私は、風邪っぴきでよく学校を欠席していた。
ひどい時は1週間に1回のペースで体調を崩していたらしい。病院に行くと、看護師さんたちから「あれ、また来たの?」と言われ、常連さん扱いされていた。
「いつもの(薬を)1つ」と注文する体力は無い。どうにかして体調不良を治すのに必死。全く笑えない状況だ。
注射の時に見ていた病院のポスター。処置室の硬くも柔らかくもないベッド。いつも使用することを我慢していた、病院内のお手洗い。(我慢は禁物である。)これらを見ると、改めて自分が体調不良だと実感できる。
全てが今となっては笑い話にできる思い出である。当時はそれどころではなかったが。
さて、そんな私だが現在は体調を崩してもほぼ病院に行かない。
風邪を引いても自力で治し、お腹を壊したら整腸剤を丸呑みする。頭が痛かったら痛み止めを飲み、筋肉痛は無視する。
体調不良に関しては「とりあえず寝れば治る」と考えるため病院には極力行かず、ずっとお布団に籠っている。(注射が怖くて病院に行きたくないというのは、ここだけの秘密にしてほしい。)
体調不良でも頑張ろうと努力はするが、熱が出るとフラフラになり真っ直ぐ歩けなくなる。そのため、周りに人がいない環境が必要だ。
ドイツに留学中、風邪を引いて高熱を出した際にもフラフラ歩きの弊害があった。よろけたタイミングで冷蔵庫に衝突したことは良い思い出である。なお、冷蔵庫と中にある食材は無事だった。
それに加え、お風呂をキャンセルする。「熱が出た状態で入浴すると体温が上がってしまうためよろしくない」という意見を聞いたため、風呂キャンセル界隈に仲間入りする。また、よろけて床に頭を打ち付けたら洒落にならない。
まだやりたいことがたくさん残っているため、なるべく頭を保護しつつ寝床にダイブ。(ダイブしている時点で、大丈夫かという声がかかりそうな気がするが。)
食べてすぐ寝たら牛になると言われようが関係ない。こちとら体調を崩しているから、少しくらいなら許されるだろう。
数日後。熱が下がった感覚がするため風呂に入ろうと考え始めた。
布団から起き上がり、髪の毛と頭皮に触れると何やらいい感じになっている。髪の毛がいつもよりもまとまっており、跳ねていない。
いつもは跳ねる毛先を必死に押さえつけているが、今回は全くそのようなことはない。
特に、前髪が顕著だ。指で触っても、左右に広がらないし、少しベタついている。
…何か違和感がある。
前髪がベタベタする。捻りながら触ると、1束が出来上がる。髪の毛全体は、まるでヘアオイルを塗った後のよう。頭皮の状態は、と考えてやめた。これ以上想像したくない。
これはまずいぞ、と風呂場に直行した。熱があったといえど、身体の汚れや皮脂が蓄積している状態をほったらかすわけにはいかない。
シーツも汗を吸っているし、パジャマもとんでもないことになっているだろうな…と絶望しながら体調不良の後半を過ごす羽目になったのだ。
洗濯機にシーツ、枕に被せるタオル、洗濯できなかったパジャマ類をまとめて突っ込む。室内干しにすれば、空気が乾燥する夜中も乗り切れるだろう。そのような期待を抱きながら、回る洗濯機を見つめたのだった。
この経験から数年後。現在の私は風邪も引いておらず元気に過ごしている。
健康とはなんと幸せなものか。もうこれ以上の風邪の経験はしたくないぞ。
そう思いながら、洗顔後のスキンケアクリームを顔に塗った時だった。
顔を上げて鏡を見ると、前髪に白いものがついていることに気がつく。泡は完全に落とし切ったが、これはなんだろう。
触ってみると、正体はスキンケアクリームだった。慌てて伸ばすが、前髪が上手いこと保湿されていい感じになっただけだった。
困ったぞ、洗っている時間はない。前髪の付け根なぞ、誰も見ないよな。いや、訂正しよう。頼むから見ないでくれ!
そう心の中で祈りつつ、本日の身支度を進めるのだった。