最も悪いストーリー。ドラゴンクエストモンスターズ3
私のこの、今のドラクエというものに抱く憤懣の正体について今まで掴めていなかったのですが。もう何本もドラクエに関する文章を書いていてようやく、ドラクエがダサいものとして扱われて妥当なものになっていくことが耐え難いのだと言語化できてきました。
息子がドラゴンクエストモンスターズ3を誕生日プレゼントとしてゲットしたので、私もプレイしました。今度息子と対戦する予定です。
ドラゴンクエストモンスターズ3は、ドラクエ4のピサロを主人公としてifを描くストーリーが展開されます。ピサロは魔族の王子でありながら、自分で魔族を攻撃できない呪いにかけられているため、モンスターを仲間にして魔界を旅していくという建て付けです。
私は対戦をプレイする気はないので対戦環境のバランスは分かりません。ストーリーを普通にクリアする分には、モンスターを仲間にしてレベルを上げ、配合で新しいモンスターと出会い、またレベル上げをして強くしていく基本のサイクルの楽しさは健在です。ジョーカーシリーズを経て複雑になっていた配合周辺のシステムはシンプルになりましたが、配合を繰り返す度に適度に新しい特殊配合が発見され、より上位のモンスターやスキルを手にいれる喜びやステータスを高められる楽しさには中毒性があります。
発売前後にネットで散見されたグラフィック面に関しても、私には充分魅力的に感じられました。しかしこれは私が既にドラクエシリーズに対してビジュアル面での期待をあまりしていないことも関係しているかもしれません。
道中の雑魚戦は全体攻撃スキルでバンバン倒す爽快感があり、一方でボス戦はやや厳しめのバランスになっているため、ストーリークリアまでダラダラと緊張感のメリハリによって飽きずにプレイできました。ただしやたら力が入っているせいで面倒に感じてしまうダンジョンのギミックや、フィールドの季節ギミックを利用していける季節限定のポイントに何もないことが多い点は作り込みの荒さを感じました。
さてこのゲームの一番の問題点はストーリーです。ドラゴンクエストモンスターズ3のストーリーは最悪です。最悪。最も悪い。
ドラクエシリーズといえば、スマホのソシャゲフォーマットで作られている派生作品群のストーリーはマジでスッカスカの無であることは有名ですが(ですか?)、本作のストーリーはピサロを主人公に据えてしまったばっかりにストーリーを語らざるを得なくなった結果、最悪になっています。
まずはifすぎるストーリーです。本作のピサロやロザリーはドラクエ4から見た目や設定や年齢や色々が変わっていて、プレイしている人にこれはパラレルワールドとして受け止めるべきなのか??という疑問を抱かせます。その割にはドラクエ4で起きるイベントをピサロ視点で描くみたいなこともやろうとするので、なんか時系列が食い違ってる気がするけどこれはあの時の裏側なのか?パラレルワールドなのか???もう既にifの世界の話なのか?????と視点をどこに置いておけばいいのか分かりません。ifすぎるのに本編の裏側を描くのでifの裏側とは???となり、なんじゃこりゃです。
次に破綻している倫理観です。本作では魔族の王子であるピサロが仲間にした魔物の力を借りて、魔物の悩みを解決するために魔物を倒すエピソードが繰り返し描かれます。フィールドで襲いかかってくる魔物を蹴散らしながら集落に入ると、なぜかピサロに友好的な魔物がお悩み相談してくるので、その解決のためにダンジョンに赴いて魔物を倒します。魔物たちのビジュアルに差はありません。私は善悪の判別がグラグラ揺れて酔っている気分になりました。
人間に迫害されているロザリーは、迫害されているにも関わらず人間のことを魔物から庇い、また悩んでいる魔物に同情を示し、一方でフィールドで同じグラフィックの魔物を倒すピサロには何も言わず、人間を滅ぼそうとするピサロを見て悲しみながら、魔族の王になろうとするピサロをノリノリで応援します。破綻しています。一人のキャラクターとして理解ができない。もう本当に思うんですけど、なんなんでしょうかこれは。
そして共に旅をする人間であるベネットです。ベネットは魔法の研究のために、人間でありながら魔界を旅するキャラクターで、手癖が悪くすぐにものを盗む癖があります。初対面の時に盗みを咎められて、「なんだって魔族のくせに盗みを嫌うんだ?」という名言を残します。魔族だろうがなんだろうが自分や仲間のものが盗まれたらキレるのは当然だろうと思うのですが、そんなツッコミは本作ではなされません。ベネットはその後も盗品で何度もピンチを救ってくれます。キャラクターは品行方正であるべしとは全く思いませんが、その後も絆を深めるエピソードは特に描かれないのに相棒ポジションに収まったり、ロザリーに「心の清い人」と評されるシーンが描かれてしまっては、私の倫理観はまたガラガラと崩れ落ちてしまいます。マジでなんなのこいつ。
本作のキャラクター描写は徹頭徹尾こんな感じです。ロザリーはピサロの呪いを解くために旅についてきますが別にロザリーが呪いを解いてくれるわけではありませんし、冒頭で提示された方言キャラはそのシーン以降一度も出てきません。パッケージやサイトで重要キャラみたいに描かれているわたぼう系キャラのあげぴぴはチュートリアル以降全く話に絡まず、拠点で通信系の機能を使うための窓口になります。意味深な感じで出てきたキャラは意味深な感じだけで終わり、見たかったシーンはすっ飛ばされます。
ピサロが出会う魔物たちは必要以上にコミカルに描かれています。大袈裟にコミカルを強調したテキストとボイスで全く面白くない寸劇が展開されます。ドラクエにおいて魔界が深く描かれることは多くありません。そんな中で魔界が舞台になることが謳われた本作は、プレイヤーにとって興味を惹く要素となったことでしょう。私が見たかったのはこういう魔界ではありません。
極め付けはパッゴイ邪教団です。エスタークを復活させて世界の滅びを望む、魔界においてもヤバい集団であるパッゴイ邪教団の儀式の呪文は、テキストからボイスからひたすらふざけています。ひたすらふざけていて、そして全く面白くありません。全体的におふざけと滑ったギャグで溢れている本作は、シリアスであって欲しいシーンですらこんなことをやってくるのかと怒りすら覚えました。
本作のストーリーについて語ろうとするといくらでも欠点が語れてしまいます。本作には六つの魔界が存在していて、それぞれの魔界がさらに三つのエリアに分かれています。このエリアの名前が本当に凄い。例えば覇王城の魔界であれば、覇王城の魔界・初級、覇王城の魔界・中級、覇王城の魔界・上級という命名がされています。しかもこれはシステムの便宜上の名前ではありません。ストーリー上で「復活した魔物は中級エリアに向かったようです」みたいなセリフが大真面目に出てきます。もうピサロの冒険の舞台であるこの世界を描写しようという気がないとしか思えません。一体どんな生活をしている生き物が自分の住んでいる世界を初級・中級・上級で分けて名前をつけるのか?????真面目にやってほしい。
そもそもピサロの心情の変化からしてあまりにも描写不足すぎて支離滅裂です。これはピサロがドラクエの主人公に据えられてしまった結果、伝統通り喋らない系主人公になってしまったことも大きいでしょう。ピサロのように複雑で共感しにくいキャラクターを喋らない系主人公にすればストーリーテリングの難易度が爆上がりするであろうことは十分予想できると思います。マーケティングと企画のフックのためにピサロが起用された制作の裏事情まで邪推してしまいます。売り上げのためにピサロを使うのは別に全然いいんです。ただやるんならちゃんとやって欲しい。もうたくさん書いたのでこれくらいで終わります。
終わり
と思ったんですが思い出したのでもう一つだけ、ストーリー中盤の「重要な選択」のシーンで、わざわざ重要な選択とプレイヤーに言っておきながら、正解を選んでも結局間違ったことにするやつ、あれはもう本当にプレイヤーを馬鹿にしていると思いました。選択を奪うなら選択できそうな感じを出さないで欲しい。ドラクエ伝統のはい・いいえのいいえを選んでもループするやつじゃないぞ感をだしてからのこれだったから本当に脱力しました。
終わり。