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106.貧乏にはいかなる名誉もない。

 元ウルグアイ大統領のホセ・ヒムカさん(大統領退任後は上院議員)が政界を引退したそうだ。御年85。政治家の引退としては少し遅い。大統領をしていたのが70歳から75歳ぐらいの間であり、そのへんは遅咲きということもあるのかもしれない。

このホセ・ヒムカさん、世界一貧乏な大統領のキャッチフレーズで有名だが、給料を8割以上返上して慈善活動に回し、庶民的な家に暮らしていたとのこと。大統領というのはその国の代表的価値観を体現した人であると考えられる。このホセ・ヒムカさんの体現する代表的価値観とは「清貧」である。みんなが大量生産大量消費に走ったら地球は滅ぶということがその趣旨なんだが、まぁそれはいい。確かに、すべてのインド人がドイツ人並みの水準で生活をしたらあっという間にどえらいことになる。これは間違いない。

ウルグアイは南米の畜産国でありお世辞にも裕福な方ではない。そして金銭的に裕福なことを目指すタイプの国ではないとホセ・ヒムカさんが方向づけてしまった。彼はリオで開かれた国際会議でのスピーチでこう言った「幸福があって、必要最低限のものがあればいい」と。

ここでいう「幸福」とはすなわち「心の豊かさ」みたいなものであって、かなり曖昧な概念であるということに注意しなければならない。この曖昧な概念を至上とし、具体的な概念である物質的豊かさを重視しないという考えはかなり危険な思想であると言わざるを得ない。

その意味内容としては「感動やありがとうを集めれば幸せになるのだから給料は最低限でいいよな」というブラック企業的やりがい搾取の構造と何ら変わりがないのである。
さらに厄介なのはこれを言っているのが搾取する側ではなく、搾取される側であるということ。うちの国の製品は買い叩いてもいいですよ、と言っているようなもの。実際彼の治世の間に国民の暮らし向きは悪くなり、都市部を中心に治安がかなり悪くなった。また、麻薬組織の資金源を断つ為として大麻が合法化されたが、国民みんなが大麻でハッピーになればある意味幸福という状態を目指したのではないかという説もある。

ま、ともかく清貧というのは国の代表が国是として掲げるには国民にはやや不適切なのではないか。もちろんその国から物を買う側としては、安いに越したことはないのでいいことではあるのだが。

つまり、貧困の解消の仕方は2通りあることになる。
1.物質的豊かさを上げる。
2.「物質的豊かさを求める心こそが貧困である」と貧困の定義を変えてしまう。
清貧とは2を目指す思想である。私には受け入れがたい。


※助手からひと言
 清貧主義は不況の日本でももてはやされているが、ブラック企業の搾取構造と紙一重。人間は食べ物がなくても「感動」を食べるだけで生きていけるわけがない。

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