【星座夜話 創作小劇場⑥「オルフェウスの謁見」】
ケルベロスを眠らせたオルフェウスは、死者の国の王ハーデスの居城に入りました。そこには死者の魂がたくさん漂っていました。
オルフェウスに気づいた死者たちは、
死者 「あの人、影があるよぉ」
死者 「生きた人がお城に来たよぉ」
その騒ぎはすぐにハーデスの耳に入りました。
ハーデス 「生きた者がこの城に来ただと? そやつをすぐにここに連れてこい!!」
オルフェウスはハーデスのいる王の間へと連れてこられました。王の間にはハーデスとその妃ペルセポネーが待っていました。オルフェウスは二人の前に歩み出ると、
オルフェウス 「私はオルフェウスと申します。ここまで妻の魂を迎えに参りました。どうか、妻の魂を連れ帰り、生き返らせ、また二人で暮らすことをお許しください。」
ハーデスが応えます。
ハーデス 「カロンとケルベロスが何故お前を通したのかはわからぬが、ここまで来たからには相応の力あってのことであろう。その力に免じて、お前の話は聞いてやった。」
オルフェウス 「ではお許しいただけるのですか?」
ハーデス 「それはできぬ。死んだ者は生き返らん。それはこの世界が始まって以来の大切な掟。その掟を覆すことなど、許すわけにはいかん。」
さすがに相手は死者の国を統べる王、簡単に許してはもらえません。
するとオルフェウスは竪琴をつま弾き、妻への想いを歌にして歌い始めました。
流れるように朗々と歌うオルフェウス。
それはそれは素晴らしい歌でした。
ハーデスもこの歌にすっかり心打たれ、
ハーデス 「うっ、なんと心に響く歌なのだ。このわしが、負けそうだ・・・」
ハーデスだけではありません。
一緒に聴いていたお妃様も涙をぼろぼろ流しながら、
お妃様 「なんと、なんと素晴らしい歌なのでしょう。涙が止まりませぬ。これほどに愛されるおなごのなんと幸せなこと。
ハーデス様、私からもお願いいたします。どうか、どうかこの者の願い、叶えてあげてくださいませ。」
ハーデス 「そうか、そなたも願うと言うのなら、わかった。こやつの願い、叶えてやろう!」
ハーデスの言葉にオルフェウスは大喜びしました。
ハーデス 「但し条件がある。条件は二つだ。
お前の妻はお前の後ろについて歩く。地上に出るまでの間、お前は後ろを振り向いてはならない。そしてもう一つ、言葉を交わしてはならない。」
オルフェウス 「振り向いてはならない、言葉を交わしてはならない、ですか?」
ハーデス 「そうだ。この二つ、守れるか?」
オルフェウス 「はい、必ずや!!」
ハーデス 「そうか。では妻を連れて帰るがよい。この部屋を出たらもう後ろを振り向くことはできぬ。言葉を交わすこともできぬ。よいな。」
オルフェウス 「わかりました。ありがとうございます、ハーデス様、お妃様。」
二人に礼を言い、王の間を出ていくオルフェウス。
その後ろ姿を見送るハーデスとお妃様。
お妃様 「あの者たちは無事地上に戻れるでしょうか?」
ハーデス 「わからぬ。戻れた者はおらぬからな。だが、心に影が落ちなければ、あるいは戻れるやもしれん。」
お妃様 「影、ですか・・・。」
そしてオルフェウスは希望に満ちて地上への道を歩み始めるのでした。ですが、それは不幸への歩みでもあったのです。