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【星座夜話-創作小劇場⑤「わらわの髪はいずこ」】
ベレニケ王妃がその美しい髪を神殿の祭壇に捧げた翌朝のこと。大変なことが起こりました。
神官長 「なっ、なんということだ。ベレニケ様の髪が・・・、無くなってしまった。」
神官 「いったい誰が・・・」
神官長 「すぐに探すのだ。 これがベレニケ様のお耳に入れば、我ら全員死刑だぞ。」
総出で探すも、髪はいっこうに見つかりません。
神官長 「夜にはベレニケ様がおいでになる。それまでに探し出すのだ!!!」
ですが髪は見つからず、とうとうベレニケ王妃が神殿に姿を現しました。
いつもと様子が違う神官達を不審に思った王妃は、神官長をつかまえ、
ベレニケ 「何やら騒がしいな。いったいどうしたというのじゃ。」
神官長 「ベレニケ様、どうか、ひらにお許しを。」
ベレニケ 「何があったのだ?」
神官長 「ベレニケ様がお供えになられた髪を、無くしてしまいました。」
ベレニケ 「なっ・・・、わらわの髪を・・・、無くしたというのか!?」
神官長 「申しわけございません。」
みるみるうちに顔を紅潮させ、怒りに震えるベレニケ様。
その様子に死刑を覚悟する神官たち。
ベレニケ 「おまえたちー、おまえたち全員死刑じゃ!!」
神官たち (あぅ)
そこへ唐突に天文学者コノン現る。
コノン 「お待ちください、ベレニケ様。」
ベレニケ 「なんだおまえは! おまえも一緒に死刑だ!!!」
コノン 「どうか、どうか落ち着いて私の話をお聞きください。」
怒りですっかり頭に血がのぼっていたベレニケ様、ここにきてようやく落ち着きを取り戻しました。
ベレニケ 「話とはなんだ、申せ。」
コノン 「私は天文学者コノンと申します。昨夜この神殿に参りましたところ、あるお方にお会いしました。そのお方とは、この神殿でお暮しになられていた女神アフロディーテ様でございます。」
ベレニケ 「なに?女神様にお会いしたと申すのか?本当か?嘘ではあるまいな。」
コノン 「おそれおおくも女神様の御名をお出しして、嘘などつけるはずがございません。誠にございます。(うそだよ~ん)」
ベレニケ 「して、女神様はどうなされた?」
コノン 「女神様は私にこう申されました。
『ベレニケが髪を置いていった。』
ベレニケ 「きさま、今わらわを呼び捨てにしたか!?」
コノン 「滅相もございません。女神様がそう申されたのです。」
ベレニケ 「そっ、そうであったな。で、女神様はなんと?」
コノン 『ベレニケが髪を置いていった。それにしても美しい髪じゃ。一人で眺めるにはもったいない。夜空に飾り、みなに見せるとしよう。』
と、このように申されたのです。」
ベレニケ 「女神様がそのように・・・。それでわらわの髪は今どこに?」
コノンはしし座の尻尾の先に見える星の一群を指さして言いました。
コノン 「私の指の先、そこに美しい星々を御覧になられるでしょうか?」
ベレニケ 「うむ、見ゆる。あれがそうか?」
コノン 「はい。あのたゆたう髪のごとき美しい星々、あれこそが女神様が夜空にお飾りになられたベレニケ様の髪の毛、「かみのけ座」でございます。」
ベレニケ 「女神様が・・・、女神様がわらわの髪を星になされた。なんと光栄な。」
感動にうち震えるベレニケ様。
静まり返る神殿。
そしてベレニケが再び口を開く。
ベレニケ 「わかった。コノンよ、みなに伝えよ。先ほどの死刑の話、なかったことにする。」
コノン 「ありがとうございます、ベレニケ様。」
こうしてコノンのとっさの嘘により、神官たちは罪を問われることなく、誰も死刑にならずに済んだそうです。
この逸話はおそらく作り話でしょうが、登場するベレニケ王妃と天文学者コノンは実在の人物です。案外こんな話が本当にあったのかもしれませんね。