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【星座夜話 創作小劇場⑦「ババ様の回顧録】

 齢八十を越え、ベッドに横たわるババ様は、いよいよお迎えの時が近づいていました。

ババ 「人生の最後にまたそなたらに会えるとは、産婆冥利につきるというものじゃ。あれから十五年か。」

そばには四人の若い男女。

ババ 「よくぞ来てくれた。そなたらの話をしよう。」

それは十五年前、王妃レダの出産の日のことでした。

(王宮にて)
侍従長 「ババ様、しかとお頼み申しましたぞ。」

ババ 「案ずるな、侍従長。幾千もの赤子を取り上げてきたこのわしじゃ。レダ様の御子もみごと取り上げてみせよう。」

侍従長 「レダ様は初めての御出産。我ら侍従の者どもでは、役に立たんのはわかっておりますが、やはり居ても立ってもいられませぬ。」

ババ 「おぬし、母から聞いてはおらぬか?他ならぬおぬしを取り上げたのもこのわしじゃ、安心せい、この国一番の産婆がついておる。」

弟子の産婆 「ババ様、そろそろお時間です。」

ババ 「うむ、わかった。侍従長、お茶でも飲んで待っておれ。」

王妃の間へと向かうババ様。
ところが侍従長への言葉とは裏腹に、その顔には翳りがありました。

弟子の産婆 「ババ様、何やら心配事がおありな御様子ですが。」

ババ 「うむ。侍従長にああは言ったものの、気にかかることがあってな。」

弟子の産婆 「それはどのような?」

ババ 「わしの見立てでは、レダ様の御子は一人ではない。それは間違いない。」

弟子の産婆 「双子ですか?」

ババ 「それがわからぬ。長い産婆人生の中でも初めてのことじゃ。」

弟子の産婆 「ババ様にもわからないとは驚きです。」

ババ 「レダ様のお腹に触った感触が普通の赤子と違う。何やら異様に固いのじゃ。しかも赤子の動きが妙に少ない。何かこう、固いものに包まれているような、そんな感触じゃ。」

弟子の産婆 「そんなことがあるとは思えませぬが。」

ババ 「それが気がかりでな。ここ数日気分がすぐれなんだ。」

王妃のベッドに着いたババ様。

ババ 「レダ様、御安心くだされ。このババがついております。」

レダ王妃 「私の初めての子。どうか無事に取り上げてくださいね。」

ババ 「承知しております。必ずや元気な御子を取り上げましょう。」

そしていよいよ出産が始まりました。
うんうんとうなるレダ王妃。

ババ 「レダ様、御子の頭が出てきましたぞ。」

うなり続ける王妃はそれどころではない。

ババ 「うわっ!!」

弟子の産婆 「ババ様、どうなされました!?」

ババ 「違う、頭ではない。これは・・・、た、たまごじゃ!!」

現れたたまごに釘付けのババ様。

ババ 「鳥のたまごじゃ。しかも大きい。これは中に御子が入っているに違いない。すぐに産湯へ。」

弟子の産婆 「はい。」

ババ 「うわっ、またたまごじゃ。二つめが出てきたぞ。」

うろたえながらもさすが百戦錬磨のババ様、二つの大きなたまごを産湯で洗い、王妃の元へと抱えてきました。

出産直後で放心状態だった王妃も、ここにきてようやく事の異常さに気づきました。

レダ王妃 「た、たまご・・・、なの?」

すると突然たまごが割れ、中から赤ちゃんが現れました。
一つめのたまごからは二人の男の子、二つめのたまごからは二人の女の子、あわせて四人の子供が生まれました。

ババ(初めて見た・・・。たまごから生まれるとは、この御子たちは神の子に違いない)

レダ王妃 「まぁ、大きな声で泣き始めたわ。四人もいると大合唱ね。」

ババ(気にするところはそこではないが、とにかく無事に生まれてなにより・・・、でよいのであろうな)

後の処置を終え、王妃の間を出るババ様。
息を切らせ駆け寄る侍従長。

ババ 「四人の御子が生まれた。皆元気じゃ。」

侍従長 「なんと、四人も!? すぐに陛下にお知らせせねば。ババ様、もはや感謝の言葉がございません。」

ババ 「よいからさっさと行け。」

侍従長 「ではこれにて。」

ババ (賑やかなやつじゃ。それにしても強烈なたまごじゃったな。しばらく夢に見そうじゃて。)

(ババ様の部屋にて)
ベッドから身を起こし、思い出を語り終えたババ様。

そばで話を聞いていた四人の男女に、ババ様が言葉をかけました。

「そなたらは神の血筋。神の名に恥じぬよう、力強く生きられよ。」


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