FAB23 BHUTAN、目下の準備状況
先月下旬、ファブ・ファンデーションが配信したメルマガに、第18回世界ファブラボ会議の日程が、今年7月16日から28日までと発表されていました。多くの方には、待望のアナウンスでした。
ヘッドラインが「FAB23 BHUTAN」となっていて、「あれ?FAB18じゃないの」と思われたメルマガ読者の方もいらっしゃったかもしれませんが、どうやら今回もファブシティ・サミットと抱き合わせで開催されるようで、考え方を整理するために、開催年に合わせて西暦の下二桁をくっ付けることにしたようです。
このメルマガのヘッドラインに惹かれ、FAB23の「Read More(もっと読む)」をクリックされた方は、もっと驚かれたかもしれません。ブータンへの一般渡航の最大のボトルネックである1泊200ドルの観光税(Sustainable Development Fee、SDF)がものすごく詳細に書かれている。昨年10月の第17回世界ファブラボ会議「バリ・ファブフェスト」の際、登壇したスーパーファブラボ(JNWSFL)とドルックホールディングス(DHI)の合同チームは、「SDFという課題はあるが、いずれ解決するから心配ない」と明言してました。でも、このリンクは、SDFはブータンの持続開発のために必要な事業に使われるものだから払って欲しいというスタンスで描かれていました。
結局、よくよく見たらこのリンクはFAB23の特設ウェブサイトではなく、政府の観光局の公式サイトであることがわかりました。要するに、外国人観光客受入れに関するブータン政府の公式見解が述べられていただけというわけです。一方でDHI/JNWSFLは、FAB23参加外国人へのSDF免除措置の適用提案をすでに首相にまで上げているそうです。1月下旬にJNWSFLを訪問した際、「あと2、3日で首相の決裁が下りる」と担当者が言ってましたが、2週間経った現在も、その決裁はなされていません。
こうした不安要素はありますが、準備は進んでいるようです。私はプンツォリン在住なので、DHI/JNWSFL主導で進められている開催準備の詳細にはなかなか触れることができません。ただ、DHI/JNWSFLは現時点でのFAB23準備チームにティンプーのチェゴ・ファブラボを加えていないくらいですから、私がティンプー在住だったとしてもそうそう準備チームには入れてもらえなかったでしょう。DHIのヒエラルキーの中で指揮命令ができる範囲のメンツで物事を進めようとする傾向は強いと感じます。
まあ、そんな内輪の事情は置いておいて、現時点でわかっていることについて、本日はご紹介したいと思います。
0.はじめに~世界ファブラボ会議(FABx)とは?
ファブラボは、デジタル工作機械(3Dプリンター、レーザー加工機、CNC切削加工機等)が各種配備された市民向け工房で、個人レベルでの所有が未だ難しい機械にアクセスできることで、「思い付いたアイデアをすぐに形にする」環境を世界各地で提供しています。2003年に米国ボストンとインド・マハラシュトラ州に最初のファブラボが設立されて以来、1.5年で倍増するペースでネットワークは拡大し、先進国・途上国を問わず、全世界で3,000ヵ所以上のファブラボがすでに存在します。
ファブラボは、個々の工房だけでなく、このグローバルな工房間ネットワークの総称ともされており、この工房間連携により、世界中のあらゆるものづくりのニーズに対して、利用者自らが取り組むことが可能な環境を提供しています。この工房間の相互協力の前提は、各々の工房にどのような利用者がおり、どのような経験と知見を有するのかが可視化されていることにありますが、工房数の増勢が著しいことで、各工房の顔が見えにくくなっています。これに対処するため、世界的なファブラボ推進の母体となっている米国MITとファブ・ファンデーションは、年1回、世界中のファブラボ担当者が一堂に会する場を設け、工房間ネットワークのリフレッシュに努めています。
第1回大会は2005年に米ボストンにて開催、2013年の第9回大会は横浜で開催されました 。こうしたファブラボのネットワークからの派生で、持続可能な都市の実現をものづくりを通じて支えるイニシアチブ「ファブシティ・グローバルイニシアチブ」が2014年の第10回バルセロナ大会でローンチされ、以後「ファブシティ・サミット」も毎年開催されるようになりました。
1.FABxのブータン開催について
ブータンでは、2017年7月に同国初のファブラボ「ファブラボ・ブータン」が発足。ファブラボ・ブータン関係者による招致活動の結果、2018年の第14回パリ大会において、ブータンは、2022年の第17回大会の開催国として選ばれました。
しかし、2021年8月の第16回モントリオール大会後にはじまった第17回大会準備プロセスにおいて、ファブラボ・ブータンの調整能力の限界が露呈しました。パンデミックに伴う2022年1月~3月の首都ロックダウンを受けて、同年3月末にはブータン開催の1年延期が決まりました。結果、第17回大会は、もともと2022年10月中旬の開催が決まっていたファブシティ・サミット開催に寄せる形で、インドネシア・バリ島で開催されました。
2022年の第17回大会ブータン開催断念決定の後、米MIT及びファブ・ファンデーションは、元々ファブ・ファンデーションが設立支援を進めていたJNWSFLと、その親会社であるDHIを現地側カウンターパートとして乗り換え、第18回大会ブータン開催準備を再スタートさせました。DHI/JNWSFLは、ブータンに現在6つあるファブラボのネットワークのハブとも位置付けられ、同国の国家計画委員会に相当する国民総幸福量委員会(GNHC) より、FABxのブータン開催準備を担うよう指示を受けています。
3.FAB23概要(2023年2月8日時点)
(1)開催時期
2023年7月16日(日)~7月28日(金)
2022年5月末に発表され、既に外国人旅行客に適用開始されている1泊当たりUS$200の観光税「Sustainable Development Fee(SDF)」は、FAB23参加者への適用を免除するよう、DHI/JNWSFLがブータン政府に働きかけているところです。2023年1月末現在、最終結論は出ていませんが、承認見込みとは聞きます。その場合は、FAB23参加者は上記期間のブータン滞在に限ってSDF適用が免除されるようです。
(2)日程概略
Fab City Challengeと通常のFABxフォーマットの二部構成となっており、通常の参加者は7/23(日)にブータン入りし、FAB23だけに出て帰国の途に就くケースが多いと思われます。:
① Fab City Challenge:国内各地に希望参加者が移動し、その地域の課題を観察した上で、その地域のファブラボの施設を活用してソリューションのプロトタイピングを行います。チャレンジのテーマは、国内各地でホストするファブラボに委ねられます。前半2日が現場見学、後半2日がプロトタイピングといったイメージでしょうか。成果品の発表は、7/23のFab Festival(於ティンプー)にて行われるようです。
② FAB23:通常のFABxのフォーマットに従い、以下のイベントが4日間繰り返されるようです。
(ア)全体シンポジウム(午前)、
(イ)ものづくりを伴うハンズオンワークショップ(午後)、
(ウ)その他関係者会合(午後)
会場は、ワークショップでの機材使用の便宜上、ティンプー郊外のテックパークでの集中開催にしたいというのが、DHI/JNWSFLの構想のようです。
(3)Fab City Challenge開催地
ティンプー以外でのFab City Challengeの受入は、以下4ヵ所で想定されています。ただし、ジグミリンは近隣に宿泊施設がないため、大規模な参加者受入れに難色を示しているのが現状です。
4.ファブラボCSTでの対応(プンツォリン)
ジグミリンでの大規模受入が困難な場合、プンツォリンはブータン南部で唯一のFab City Challenge受入可能地域です。ファブラボがある王立ブータン大学科学技術単科大学(CST)はゲストハウスを有し、かつ近隣のプンツォリン市内にもホテルが多いことから、想定される10名程度の受入は十分可能と見られています。
Fab City Challengeのテーマについては、当初DHI/JNWSFLから一方的に一案提示されましたが、地方ファブラボの特徴を出すべく各自の自主検討の余地が欲しいとファブラボCST側から要望しました。「獣害対策(ゾウの侵入)」「濃霧」「水不足」「僧院のデジタル化」「廃棄物管理」「デング熱・マラリア対策」「土砂災害」など、ブレスト段階ではいろいろな案が上がりましたが、これらを包含し、南部地域の課題を包括的に捉えられるものにすべく、CST学内で主催者への提案内容を検討中です。テーマ、及び受入可能人数は、2月中旬までにCSTから主催者に回答する予定です。
また、7/16の週は、例年、学生が夏休みから戻り、秋学期がスタートする時期に相当します。こうした学生が、外国から来られるデジタル工作の専門家と交流し、彼らから学ぶというメリットにも考慮する必要があります。
JICAのプロジェクトにおけるこれまでの活動や、第17回バリ大会でのネットワーキングを通じ、ファブラボCSTやJICAとの関係の深いファブラボ が、「この際だからプンツォリンも訪問したい」とおっしゃるケースは十分考えられます。というか、このnoteをご覧になっている方には、むしろファブラボCSTにお越しいただきたいくらいです。
しかし、主催者側において現在検討中の枠組みでは、参加者のプンツォリン訪問はFab City Challenge参加が必須となっているようでした。このため、CSTでは、①Fab City Challenge参加でないプンツォリン訪問も認めてほしい、②後半日程にしか含まれていないハンズオン・ワークショップなども、可能なら前半日程期間中に当地で分散開催させてほしい―――以上の2点を、主催者に申し入れているところです 。
5.援助機関に直接支援要請が行われる可能性
慣例として、FABxでは、「1口いくら」といったスポンサー料を設定して、国内及び外国企業にスポンサー要請が行われるそうです。でも、ブータンではそれほど大きな企業といったら、DHIかタシグループ傘下の企業ぐらいしかありません。
おそらく、DHI/JNWSFLは、開催スポンサー確保のために現地に事務所がある国際機関や援助機関にも支援を求めることになるでしょう。ユニセフやUNDP、世界銀行、アジア開発銀行(ADB)などの他に、「JICA」の名前も挙がっていますが、こういう、ポンと資金拠出するだけの貢献って、おそらくJICAにはできないでしょうから、スポンサーとしての関与の仕方には、JICAには相当な工夫が必要ではないかと思います。
まあ、JICAは技術協力プロジェクトを通じてファブラボCSTをすでに支援しているわけですので、FAB23開催支援はすでに行っていると言えないわけではありません。ただし、こんな正攻法で説明していては、主催者の方では、スポンサーへの敬意を表するバナーでのロゴの表示などは、たぶんしてくれないでしょうから、やはり工夫は求められます。
これだけの勢いで世界的に急増しているファブラボと、JICAは各国レベルでの接点がほとんど構築できておらず、JICA関係者による近隣ファブラボの活用事例は、極めて少ないのが現状です。これは、デジタル工作の実体験が、JICA職員をはじめ、現地のJICA関係者の間でもほとんどなく、何ができるのかの洞察ができないことが一因だと私は思っています。
世界中のデジタル工作の愛好家が集まるFAB23は、ブータンの開発における大きな機会であり、現地レベルでJICA関係者が仲介役となってデジタル工作愛好家と接する機会を持つことは、各々の活動へのベネフィットが大きいと思います。JICAはたぶんスポンサーにはなれないと思いますが、むしろブータンの開発課題のことをわかっている地元の参加者としての盛り上げ方は可能だと思うし、特定の現地パートナーと組んで、ハンズオン・ワークショップの開催を共同企画し、in-kindで支援するような取組みなら、まだできるのではないかと考えられます。
6.気になっている点
DHI/JNWSFLがブータン国内のファブラボ関係者に提示した現状の企画案では、Fab City Challengeにおけるプロトタイピングの成果発表も含め、すべてDHI/JNWSFLとティンプーに独占される内容となっています。私たちのファブラボCSTを含め、地方ファブラボにとって、開催に協力することにより得られるベネフィットがあまり多くないという印象を受けました。これは、同じDHIの指揮命令系統の中にある3つの地方ファブラボはともかく、独立系のファブラボCSTにとっては死活問題だと思います。
7月後半のブータンの気候条件を踏まえると、イベントの中心がティンプーになるのはやむを得ないとは私ですら思うところですが、会場をティンプー・テックパークに集約すると、アクセスに支障があるローカルアクター が多いのではないかと気になります。
テックパークは市街地から15分程度で行けますが、それでも「遠い」と感じる人は少なくありませんし、装備がハイテクすぎて、障害者団体や地元の初等中等学校、ユースセンターなどが大挙して訪れることができる場所では必ずしもありません。成果を全部DHI/JNWSFLに独占され、数々の現場に本当にインパクトのあるイベントになり得るのか、注意して見ていく必要があると思います。
また、現在の準備は、2023年5月初旬にティンプー市内で開業を予定しているする「チェゴ・ファブラボ(Choego FabLab)」(2022年8月にファブラボ・ブータンから事業継承)の関与抜きで進められています。チェゴ・ファブラボは王立繊維博物館(RTA)やクラフトバザールのすぐそばで、RTAビルに入居しているJICAやADBの事務所からも至近距離にあります。上記5でもちょっと触れた通り、会場をテックパークに集約せず、ハンズオン・ワークショップの分散開催も可となるなら、JICAはチェゴ・ファブラボと協働するのは一案だと思います。また、日本のファブラボ関係者の方々がFAB23でサイドイベントを計画される際、チェゴ・ファブラボやJICAと共同企画するということも、可能なのではないかと思います。
それに、ファブラボ・ブータン(ファブラボ・マンダラ)の元スタッフは、過去の経緯からDHI/JNWSFLとの関係が途絶えているケースが多く 、テックパークのみを会場とする場合、彼らのせっかくのスキルや知見を活かすことができません。彼らが参加しやすい環境を作ってあげることができれば、ティンプーでのサイドイベント開催において貴重なリソースパーソンとなり得ると思います。
主催者にとっての便宜、参加者にとっての利便性を考えれば、テックパークに集約させたいというのは1つの案ではあります。でも、テックパークで数日過ごして、ブータンを満喫できたとはならないかもしれません。テックパーク以外の地に、観光ツアー以外の手段でどれだけ足を運んでもらえるか。それがブータン全体にとってのベネフィットを握る、大きなカギとなるのではないかと思います。
最後まで読んで下さり、ありがとうございました!
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