ユースセンターも身近なファブ施設
2022年10月21日付のプロジェクトニュースで、「国内6カ所のユースセンター向けオンライン研修を実施」というのが掲載されました。10月18日から20日まで、ブータン教育省青年スポーツ局(DYS)傘下のユースセンター6カ所のコーディネーターとボランティアを対象に、私がオンラインで3Dプリンターの研修を行ったという記事です。
この記事は、原稿を書いたのも私なので、研修自体については記事をご覧いただければ概略はご理解いただけると思います。スペースの制約とか、公共メディアの性格もあって、書く内容にはある程度の規制をかけました。何ゆえこのような研修が必要になってしまったのか、何ゆえ講師のお鉢が私に回って来るのか、そして、ユースセンター間での理解度の濃淡などなど、書ききれなかったことがいくつかあります。
今回は、これを整理してみたいと思います。
1.ユニセフ
記事の中でも触れた通り、この3Dプリンターを供与したのはユニセフです。ブータンの国家財政は赤字で、機材の調達を独自予算で進めるのは難しいので、機材供与を援助に頼るのはよくあること。私も反対ではありません。ただ、国際協力実施機関による機材供与を考える上で、考慮するべき点がいくつかあります。思い付くところから列挙していくと…
現場が使いこなせる機種なのか?
現場で使いこなせるようにするための人材育成をどう行うのか?
配備した後の材料(フィラメント)やパーツの調達はどう進めるのか?
ユースセンターを拠点としたものづくりのクラスターを、他のメイカーのエコシステムとどう関連付けていくか?
ティンプーにあるユニセフの事務所の担当者とは話したことがあります。STEM教育の普及とか青少年の健全なる育成といった視点からのお話はされますが、上記の1~4のような話にはほとんど関心がない様子でした。
実は、これらの点について、ユニセフは「ファブラボ・ブータン」に全面的に頼っていた節があります。選定機種(UP mini ES)について助言したのも、現地のユースセンターに出向いて操作研修をやったり、修理をしたりしたのもファブラボ・ブータン(注:2021年11月から「ファブラボ・マンダラ」に改称してますが、便宜上「ファブラボ・ブータン」として呼び続けることにします)、フィラメントの調達もファブラボ・ブータン経由で、メイカーのエコシステムとの関連付けもファブラボ・ブータンがそのハブとなってくれるだろうと…。
ファブラボ・ブータンがあったから、ユニセフはこの援助が実施に踏み切れたのだと考えられます。また、供与機材のブータン側への引渡し後の機材利用にまつわるあれこれについて、ユニセフの担当者があまり踏み込んだ発言をされなかったのは、「そこは相手国政府が考えること」という認識でおられたからでしょう。
2.教育省青年スポーツ局(DYS)
ユースセンターに対するユニセフの3Dプリンター供与は、形としては教育省青年スポーツ局(DYS)に対して実施されたものです。そして、DYSは受け取ったUP mini ESを、全国各地のユースセンターに配分する役割を担いました。当初の予定では、4つの政令指定都市(thromde)にあるユースセンターに配備されるとのことでした(ファブラボ・ブータンのツェワン・ルンドゥップ談)。これを根拠として、私は、JICA技術協力専門家携行機材としてブータンに持ち込む3Dプリンターの機種を同じUP mini ESに決めて、CSTから近いプンツォリンのユースセンターとは一緒に学校へのアウトリーチ活動をやっていこうと考えていました。
それが、パンデミックの影響で南部の3つの政令指定都市への配備が困難になり、一方でユニセフへの業務完了報告書は期日までに出さなければならないというので、DYSは方針を変更し、プンツォリンとサムドゥップジョンカルの2センター向け3Dプリンターを、クルタンやパロ、ティンプー県内のチャンジジやカサダプチュへの配備に変更したのでした。
昨年の7月頃、ファブラボ・ブータンのスタッフがティンプー市内のチャンジジや、クルタン、パロなどに出張し、ユースセンターでPi-Topコーディングと3Dプリントの研修を開いていると、ファブラボのスタッフであるペマ・ヤンゾムから聞きました。クルタンの回には、ゲレフのユースセンターのコーディネーターとボランティアも出席し、その際にはクルタン同様、ゲレフもUP mini ESを受け取ってユースセンターに持ち帰ったと聞きました。
その上で、ユニセフからは、配布された3Dプリンターを用いた作品コンペを開けと、ファブラボ・ブータンに注文があったそうです。チャンジジ、パロ、クルタン、ゲレフが参加して、各々のユースセンターで開いた3Dプリンティング研修の参加者の作品の中から、優秀作品を1点ノミネートします。そして集まった4つの作品の中から、最優秀作品を決めることになっていました。ただ、このコンペは何らかユニセフ側の都合があってなかなか実現せず、結局作品展示は行われませんでした。ファブラボ・ブータンによる審査員評価だけが進められ、2021年末までには最優秀作品が決まりました。
DYSの話題から少し外れた形になってしまいましたが、ここで申し上げたかったのは、DYSもファブラボ・ブータンに強く依存していたという点です。ユニセフの担当者はおろか、DYSの担当者も、ファブラボ・ブータンにやらせておけばなんとか回ると考えていたのかもしれません。
そして、頼りのファブラボ・ブータンが無くなるという事態は、誰も想定していなかったのです。
3.頼みの綱のファブラボ・ブータン
noteをはじめてから、ファブラボ・ブータンが今年8月に経営譲渡されたことには言及したことがあります。そう、ユニセフとDYSにとって、この事業を動かすにあたっての頼みの綱であったファブラボ・ブータンは、実際に突然なくなりました。いや、なくなったのではない、事業継承はされたものの、承継したDSP(DeSuung Skilling Programme)という組織は、ユースセンターのサポートができるマンデートを持っていないのです。DSPがファブラボを運営するからといって、ユニセフやDYSの要請でユースセンター向け支援ができる組織ではありません。
経営譲渡がどのような過程を経て行われたのかは、当事者でない私にはわかりませんが、いくつかの状況証拠から想像すると、けっこうなやっつけ仕事だったものと思われます。とりわけユースセンター関係で驚いたのは、DYSの担当者が、この経営譲渡の話を、9月中旬に私がDYSを訪問するまでまったく知らなかったという点でした。彼女、絶句していました。
「もうユースセンター向けのサポートは続けられない」―——という話は、ファブラボ・ブータン側からDYSにはなかったようです。乱暴な話だと思わないでもないですが、ユースセンター向けサポートでは、DYSがちゃんとお金を払ってくれないという不満も、ファブラボ・ブータン側にはあったと聞きます。DYSに黙って事業継承やっちゃいましたというのも、ありだったのかもしれません。ユニセフの担当者に至っては、ふだんから多忙なご様子なので、この件に構っているようにも思えません。
それではファブラボ・ブータンが存続していたらサポートはできたのかというと、それも違います。ファブラボ・ブータンが2017年7月にできたばかりの頃は、そこにいたスタッフの多くは、複数の異なる工作機械を動かして、実際にものを作ると言うプロジェクト実施体験を積み重ねていました。ファブラボ・ブータン自身もスタッフへの給与の未払いの問題を起こし、初期の優秀なスタッフが去って行きました。そうすると、プロジェクト実施経験はないけれども機械操作だけならなんとかできるという若いスタッフが代わりに入ってきて、機械操作だけに特化した技能研修を行うようになりました。
「私は3Dデザイン&プリントなら教えられるけれど、Pi-Topコーディングはできません」———こうなると、3日間で行うPi-Topと3Dプリンターの研修に2人のトレーナーを派遣する必要が生じます。あるいは、1人で行かせる場合は、どちらかの研修のウェートを相当落としてやるとか…。
そもそもスタッフの給与未払いという事態を招いてしまったのは、カネを取れるところからはきっちり取るというのが徹底されていなかったからでしょう。財務の持続性について、ファブラボ・ブータンのマネジメントだけでなく、彼らを利用してきたすべての組織がしっかりとした配慮をして、払うものをきっちり払っていれば、経営譲渡にまで至る事態は防げたかもしれません。「あそこはマネジメントが悪い」などと知った顔で言う人もいますが、利用してきた側の意識にも問題はなかったと言えるのでしょうか。
4.機種(UP mini ES)について
機種選定については、ブータンの事情を考えると、ちょっと安易だったかもという気もします。UP mini ESという機種は、日本のファブ施設ではよく見かけますし、実際に使ってみると使い勝手が悪いという印象はありません。
ただ、問題が2つあります。
1つめは、フィラメントです。3Dプリンターのメーカーはたいてい純正のフィラメントを推奨しますが、Tiertime社の扱うUP Filaは、1パック2本入りで、1本500gとなっています。その分、スプールの厚みが4cmほどしかありません。UP mini ESに付属のフィラメントボックスは、このフィラメントに合わせて設計されています。
一方、市販のフィラメントは一般的には1本1.75㎏で販売されています。スプールの厚さは7cmありますが、これはUP mini ESのフィラメントボックスにはフィットしません。要するに、Tiertime社は純正のUP Filaを買えと暗に求めているのです。
これが2つめの問題につながります。Tiertime社の通販サイトを見ると、同社の製品を扱う地域取扱店は世界に4カ所あるようですが、いずれもブータンをカバーしていません。また、Tiertime社の直販以外で、UP Filaを扱っている通販サイトも、配送先に「ブータン」と入れた途端、「扱ってません」とメッセージが出ました。フィラメントに限らず、他の付属品やパーツの購入も、ブータンから直接はできないということになります。
フィラメントの話に戻ると、私自身、ブータンで購入できる通販サイトは、今のところAliExpressしかありません。Amazon Indiaですらできないのです。そうすると、AliExpressでも扱いがある汎用フィラメントが使える機種を選ぶことが必須であり、今で言えばCrealityが最も向いているのではないかと思われます。
それなのになぜUP mini ESを選んだか?―――ユニセフの担当者にこの機種をアドバイスしたというファブラボ・ブータンの元スタッフに、その経緯を訊いてみました。すると、彼は冒頭で述べたツェワン・ルンドゥップがこの機種にこだわったのだと教えてくれました。
ツェワンは2017年のファブラボ・ブータンの設立に最も貢献した功労者であり、設立後認知度を高めるために、多方面に活動の幅を広げた人物です。2019年までは、彼はファブラボ・ブータンに常駐して、彼らが進めた様々なプログラムをリードしました。Pi-Topの国内普及も彼がはじめたことです。彼の功績については、いずれまたご紹介したいと思います。
でも、彼はデンマーク人の女性と結婚していて、コペンハーゲンに家族を残してブータンに単身赴任してきていました。この単身赴任は奥様との約束で期限付きでした。パンデミック前にはコペンハーゲンに戻り、以後デンマークでの仕事が忙しくなったようで、一度もブータンには戻ってきていません。この間もリモートで様々な指示を飛ばし、遠隔操作で物事を動かそうとしていた節がありますが、現場での推進力としての彼を失ったことが、ファブラボ・ブータンの低迷につながっているところもたぶんにあります。
その彼がなぜUP mini ESを推したのか。おそらく、デンマークにいても、ドイツのTiertime社の倉庫から購入して、自分自身でブータンに発送すれば対応可能だと考えたのではないでしょうか。(同じことは、私が日本に戻って、Tiertime社の日本の代理店から購入して、ブータンに発送すれば、自分自身のビジネスにもできるということであるわけですが(笑))
幸か不幸か、現時点でユースセンターの3Dプリンターは、稼働率が低いせいでこの問題が顕在化していません。初回配布の際に受け取ったフィラメントを使い切っていないのです。でも、この質問は昨年7月にティンプーのユースセンターのコーディネーター(当時)にしたことがあります。彼女は「ファブラボ・ブータンから買う」と即答しました。
「いざとなったらファブラボ・ブータンに頼めばいい」という認識で誰もがいたのでしょう。でも、私がUP mini ESユーザーだからといって、ファブラボ・ブータンの代役を務めることはできません。今回DYSから依頼のあったオンライン研修を引き受けるにあたり、私も担当者にはっきり言いました。「フィラメントやパーツの追加調達の方法はDYSが考えて欲しい。同じような調達を行わねばならない機関は他にもあるので、そうした機関とのコミュニティに加わって、共同調達することも一案では?」
また、もう機材引渡しも済んでいて、終わった話だと言わんばかりに、他の事業についての投稿を自身のFacebookで繰り返し、「仕事やってます」感をいつもアピールしているユニセフの担当者にも、こう言ってやりたい。「ファブラボのコミュニティに加わって、ファブラボ・ブータンなき後の機材の持続的な活用の方策を一緒に考えて欲しい。」
5.ファブラボ・ブータンの代役になる条件
今回の研修は、ファブラボ・ブータンの代役として私個人に白羽の矢が立ったというものです。DYSも、ユースセンターのコーディネーターやボランティアの顔ぶれがパンデミック前から大きく変わったので、あまり3Dプリンターの知識のないスタッフが多くて活用されないリスクが高いとの危機感があったのでしょう。
かといって、私はプンツォリン常駐なので、プンツォリンのユースセンターとは日常的に協力できても、クルタンやゲレフ、サムドゥップジョンカルの面倒まではとても見られません。私がファブラボ・ブータンの代役など務めるのは不可能です。
一方で、私の所属先であるファブラボCSTなら、ちゃんとした報酬が支払われるなら対応の余地はあるかもしれないと考えました。初回は手探り状態で行ったので、私は3日間の講師を無償で引き受けました。しかし、その準備にかけた時間はけっこう馬鹿にならない。そこで、CSTの学長とも相談して、次回同様の要請があった場合は、私個人で引き受けるのではなく、ファブラボCSTという組織として引き受け、しっかり料金を取るということにしました。ファブラボCSTも財務の持続性を確保するには収入を得なければなりませんので。
フィラメントなどの調達も、どのみちファブラボCSTはやらねばならないこと。ことプンツォリンに関して言えば、共同で行える可能性はあるかもしれません。9月23日にプンツォリンの国境が再開されました。そうすると、インド側のジャイガオンにあるAmazon Indiaのドロップオフセンターが利用できるようになるかもしれません。AliExpressの代替策として、Amazon Indiaも使えるかもしれない。
ただ、フィラメントやスペアパーツの調達と配布は、本来ユースセンターを束ねるDYSが首都で考えるべきことであり、機材の供与をユニセフが行った以上、ユニセフは材料やスペアパーツの調達手段の構築にも関与すべきだと思います。調達そのものをやれとは言わないけれど、調達方法の議論にはちゃんと加わるべきです。
6.がんばれ現場~ユースセンター
中央がしっかりやっていないと、しわ寄せはいつも現場に来ます。私自身がそうでしたが、人に説明できるぐらいまで3Dプリンターを使いこなせるようになるには、何度かの試行錯誤を経験する必要があります。パラメーターを変えて印刷結果を比較してみたり、アドヒージョンが芳しくない時には余熱をより念入りにかけてみたり、サポート材を入れてみたり抜いてみたり…。そうやって、その場での最適解を見つけ出すのです。
でも、試行錯誤を繰り返すためにはフィラメントのストックが十分ないといけない。現状、そのあたりが、3Dプリンターをあまり使わない言い訳になっている気がします。プンツォリンのように、どこかに仮置きされていたマシンを今回新たに配備されたセンターが使っていないのはわからぬでもないですが、今回の研修に来ていたユースセンターはどこも5回程度しか使っていないとのこと。唯一、「10回以上使った」と答えたのはゲレフでした。
ゲレフのコーディネーターは、「印刷に時間がかかるので、子どもたちが敬遠する」とも言っていました。DYSの担当者が、「『印刷に時間がかかるので、もっといい機種を入れて欲しい』と現場から突き上げられている」と言ってましたが、どうやらゲレフのことだったようです。印刷に時間がかかるのは3Dプリンターの宿命だというのが、どうも理解されていないようでした。
私自身、子どもたちと何度か接してきて、彼らが作ってくるデザインを見ていると、寸法や細かさを度外視して「これ印刷して」と言って来られることが多いです。Tinkercadに元々備わっているシェイプを次から次へと作業平面上に持ってきて適当に配置し、「これ印刷して」と言う子も多いです。シェイプとシェイプがつながっていないから、印刷後にバラバラになってしまったりすることもあります。待ち時間が長かったわりに、印刷結果がさんざんだったりすると、子どもたちはがっかりします。
そこで、2時間程度のワークショップでも、子どもが自分でデザインしたものを、所定時間内で印刷して作品を持って帰ることができる事例として、私からは「キータグ」を提案しておきました。また、そのデザインがどういう印刷結果を生むのか、いくつかの事例を紹介して子どもたちのデザインのどこにどう注意を払うべきかをアドバイスしておきました。でも、大事なのは印刷結果を予見できるよう自身の経験値を高めておくことです。そのためにも反復練習です。
加えて、何か使える物を作るよう仕向けていくようなワークショップの設計も、考えておく必要があります。いろいろなサンプルを見せて、「これはこんな時に使える」という事例を見せていくと、子どもたち「じゃあ自分も」となるかもしれません。「気候変動」とか「水不足」といった大きすぎるテーマではなく、身の回りのちょっとした不便をちょっとだけ軽減できるものを考えてみようといったテーマ設定で、寸法も意識してデザインを考えてみる―――そんなワークショップができたらいいです。
この国の子どもは、大人から「こうしなさい」と言われるのに慣れていて、しかもその大人たちが大きなテーマばかりを持ち出すので、足元の不便をコツコツ改善していくような問題発見やソリューションのアイデア出しがなかなかできません。3Dプリンターのいいところは、「思い付いたアイデアをすぐに形にできる」という点にあると思います。アイデアがデカすぎるとすぐに形にできません(笑)。
ここで述べてきたことを、まずはプンツォリンのユースセンターで具体的に実践していきたいと私は考えています。
7.最後に~ユースセンターもファブ施設
ファブラボCSTが開設されてから2カ月が経ちます。ファブラボが周辺コミュニティにもアクセスを保証するものだとの立場に立ち、プンツォリンの学校や製造業、公的機関などへの利用の働きかけは行ってきましたが、なかなか外部の方が科学技術単科大学(CST)にまで足を運んで下さることはありません。CSTはプンツォリンの町から3kmほど離れていて、タクシーでは往復で250ニュルタムかかります。街の人に聞いてみると、CSTに行ったことがないという人はかなり多い。心理的にかなりの距離感があるようです。
プンツォリン・ユースセンターのコーディネーターのペマ・デキさんに訊くと、CSTは「子どもが簡単に立ち入れるところではない」とのこと。ファブラボがいかにオープンだといっても、子どもが気軽に来れる立地条件ではないというところに、ファブラボCSTが行うアウトリーチ活動の制約があります。
一方、ユースセンターや、市内にもう1カ所同様の機能ですが教育省傘下ではなくプンツォリン市役所の監督下にあるPeople's Project for Youthというコミュニティセンターは、放課後の子どもたちに貴重な遊び場を提供しています。共稼ぎ世帯だったり、家業が自営業だったりすると、学校から直接帰宅しても、家には誰もいないという世帯が多いのです。毎日16時を過ぎると、ユースセンターには相当数の子どもがたむろしている光景を目にすることができます。
そんなユースセンターに、「思い付いたアイデアをすぐに形にする」ことを可能にする機材が入るということは、子どもたちがアクセスしやすい場所に、デジタルテクノロジーがやって来たということを意味します。今回あまり触れませんでしたが、Pi-Topが配備されたのも大きいといえます。初等・中等学校のコンピュータラボは、就学時間中は利用できますが、放課後の利用までは認められていません。自宅にPCがあるという恵まれた世帯ならともかく、多くの世帯はPCなどありません。放課後から夕食時までの3時間程度であっても、プログラミングの反復練習ができる環境があるというのは大きく、私はユニセフの着眼点は素晴らしいと思っています。そして、そういう子どもたちが次のステップとして、ファブラボに興味を持ってくれることを期待しています。
それだけに、ことプンツォリンにおいては、ファブラボCSTはユースセンターと一緒に子どもたちへのアウトリーチを考えていきたいです。こんな関係が、ファブラボとユースセンターが距離的に比較的近いティンプーやパロ、ゲレフ、クルタンでそれぞれ形成されていったら理想的ですが、先ずそんな協働の事例をプンツォリンで作るのが、私の肩幅でもできることでしょう。
さらに、その後のロールアウトを考える上では、ユースセンターの監督官庁である教育省青年スポーツ局(DYS)に対して、ブータンのファブラボのコミュニティと近しい関係を築いていくよう働きかけていくこと、一方のファブラボのコミュニティの側に対しても、DYSやユースセンターを受入れるよう働きかけていくことが、必要だと考えます。
2023年、ブータンは第18回世界ファブラボ担当者会議(FAB18)をホストすることになっています。FAB18を国をあげて大きく盛り上げていく上でも、ユースセンターとDYSの巻き込みは必要不可欠でしょう。
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