FAB23 Bhutan、6月初旬のアップデート
私のnoteでは、これまでに三度、今年7月にブータンで開催される第18回世界ファブラボ会議(FAB23)について取り上げてきました。最後の記事から1カ月以上経過して、その間にいくつか準備に進展もあったので、6月7日時点でのアップデート情報を現地からお届けしたいと思います。
1.お急ぎ下さい、外国人チケット間もなく締切!
FAB23開催まで、2カ月を切ってきました。すでに、外国人の参加チケットは初期ディスカウント料金(530ドル)での受付は5月15日で終了しており、通常料金(730ドル)での受付も6月15日で終了となります。つまり、外国人でFAB23に参加する場合、6月15日までに参加チケット料金払込みを終了している必要があります。
一方で、ブータン人向け参加チケットの募集には特に締切はありません。ただ、5日間の通しのチケット5,000ニュルタム、1日チケット1,500ニュルタムというのは、ブータンの一般庶民の金銭感覚としてはちょっと高めですね。小中高生はどうも無料らしいですけど、市民社会組織や民間企業、政府機関の職員や従業員が、この料金払って1日だけでも来るかな。どうなんですかね~(苦笑)。
ただ、7月23日(日)にティンプー市内の時計塔広場で開催される「Fab Festival(FabFest)」だけはオープンイベントで、チケット購入不要です。この時期にブータンに来られている方、ティンプー在住の邦人の方々にも、是非お越しいただきたいですね。
2.欧米人の盛り上がりと、ブータン国内の静けさ
私はこれまで、FAB23外国人向け参加説明会(4月11日)、Fab Bhutan Challengeのチャレンジピッチ(4月19日)、ファブシティ・ファンデーション、ファブ・ファンデーションとのコーディネーション・ミーティング(5月24日)、Fab Bhutan Challengeのオン・ボーディング・コール(6月2日)と、ファブラボCSTのスタッフの1人として、続けて出席してきました。4月11日の説明会の直後、WhatsAppのグループチャット「FAB23 Bhutan Update」が立ち上げられました。私もすぐに登録して、そこでのやり取りもずっとウォッチしています。参加チケットの購入や渡航フライトの予約、宿泊先などに関する質疑応答が繰り広げられています。
これらオンラインイベントでも、グループチャットでも、盛り上がっているのはほとんどが欧米人で、かつお互いの顔を知っている友人同士で盛り上がっている感じです。時々、その輪の中に入っているインドの人が発言してますけれど、日本人を含め、アジアの人は少ない印象です。たぶん、盛り上がっているのはそれなりに財政面で安定していて、毎回FABxに自己負担でも参加して、仲間意識がある一部のファブラボの人たちで、毎回の渡航費用の工面で苦労しているであろう開発途上国のファブラボの人たちは、その輪にはなかなか入れずにいるのではないでしょうか。わかっちゃいるが、なかなか参加できない―――グローバルなファブラボのコミュニティの中にも、そんな格差はあるようにも感じています。
さて、ブータン国内に視線を移すと、主催者(ファブ・ファンデーション、MITビッツ&アトムズセンター、ファブシティ・ファンデーション、スーパー・ファブラボ、ドルック・ホールディングス(DHI))は、ブータン国内向けの説明会をまだ一度も開いていません。ウェブサイトもオープンしているし、DHIは自身のFacebookページで時々宣伝を上げていますが、全般的におとなしめです。
知り合いの市民社会組織の代表などは、「そういうの全然教えてくれずに内々で勝手に開催してしまう」と文句を言っているし、ティンプー市内でも、声がかかっている学校とそうでない学校がどうやらあるようです。私たちが拠点を置くプンツォリンは首都から遠いので、静かに見守るしかありません。ファブラボCSTがやれ「FAB23だ」と盛り上げても、メイン会場はティンプーですので。
ブータンがFAB23からもっと恩恵を得る方法を、もうちょっと考えられないものだろうか―――地方から首都を見ていて、思うところはあります。
3.各ファブラボでホストする行事(7月17日~22日)
Fab Bhutan Challengeについては、5月初旬に参加申込が締め切られ、外国人50人の応募を受け付けたのち、2週間かけてブータン人参加者の募集が行われ、約40人の応募がありました。
応募者は、国内5つのファブラボからピッチされた挑戦課題のうち、第1希望から第3希望まで選択するよう求められました。各応募者が入力した応募者データは、Airtableというアプリでデータベース化されたあと、これをもとに、ファブシティ・ファンデーションの司会で一種の「ドラフト会議」が行われました。各ラボは、応募者の応募受付順に第1希望に自分のところの挑戦課題を挙げた人を指名していき、第1希望に自社の挑戦課題を挙げた人が途切れると、第2希望に自社を挙げていた人を順次指名していくのです。
つまり、応募受付順が遅いと、第1希望に行けない可能性があるという仕組みです。ファブラボCSTの場合、日頃の情報発信が奏功したか、はたまたピッチの内容が良かったのかは定かでないものの、第一希望に挙げて下さった外国人参加希望者が11人、第二希望で挙げて下さった方が17人いました。外国人総勢50人中11人というのは平均的な数です。でも、実は首都ティンプーでFAB23会場から外に出られる唯一の機会となるスーパー・ファブラボの挑戦課題に希望者が殺到しました。その中での11人はなかなか健闘した方だといえます。しかも、第二希望は圧倒的です。結果、私たちにとってはなかなかいいセレクションができましたが、早々に第一希望に挙げてくれた人が尽きてしまった他のラボが、うちを第一希望で書いていた方の第二希望先をもとに指名を続けられたので、本来ならうちを希望していたのに、他のラボに獲られてしまうという事態も発生していました。
ブータン人応募者についても、同様のプロセスが進められました。その上で、各ラボによる指名参加者の構成を、その専門性の多様性、ジェンダー・バランス、外国人とブータン人の比率、年齢構成などの視点から念入りに微調整が行われ、結果各ラボでのチャレンジ参加メンバーが決まりました。
ちなみにファブラボCSTの場合は、外国人9人、ブータン人3人、合計12人のチームとなります。外国人の国籍は、スペイン、チェコ、メキシコ、コロンビア、UAE、インド、シンガポール、イタリアです。Fab City Challengeで選出された参加者は結局総勢60人ということになりました。うち日本人参加者は1人でした。
こうしたセレクションと並行して、各ラボは、「コミュニティ・パートナー」との調整を進めるよう、ファブシティ・ファンデーションから強く求められました。うちの場合は、プンツォリン市内の障害児特別学級指定校(SENスクール)2校と、CSTの学生が最大のコミュニティ・パートナーで、本番ではこれに近隣の看護学校「アルラ医学アカデミー」の学生も加わります。4月下旬にアルラ・アカデミーの学生へのオリエンテーションはすでに行っていました。5月はこれに加え、SENスクールにCSTの学生を連れて行って、障害を持つ生徒や養護教員との短い交流機会を設けました。その後大学に戻って、自助具や教具として何が考えられるか、アイデア出ししてみる頭の体操をやってみました。さらには、アルミ缶の溶解を大規模に行える施設が地元にないか調査し、パサカ工業団地の鉄鋼再処理工場の電気溶解炉を見学しました。
FAB23開催期間中の地方ラボへの訪問は、Fab Bhutan Challenge参加者に限定すると言われています。これでは、「ファブラボCSTに行ってみたい」と思っていても、Fab Bhutan Challengeに応募しなかった人や、応募しても選択されなかったり、意に反して他のラボに回されてしまった人は、ファブラボCSTを訪れる機会がありません。この問題に関して、私たちはチーム内で相談して、もしそういう訪問希望者がいれば、ホスト側の「コミュニティ・パートナー」と位置付けることにしました。Fab Bhutan Challengeの時期、ファブラボCSTには、JICAの短期専門家や、日本のファブラボ関係者、ブータン派遣中のJICA海外協力隊員、チュカ県の企業家などが来られることになっています。
以上のような参加者調整、コミュニティ・パートナーとの調整、さらにはチーム内でのプログラムの日程と役割分担の検討を経て、6月2日には、チャレンジ参加メンバーとホスト側ラボ及びコミュニティ・パートナーとのオンラインでの顔合せ「オン・ボーディング・コール」(会社などの組織に入った新人が任務を遂行するために必要な知識や技能を身に付けるための講習会や勉強会のことを言うそうです)が開かれました。全体で80人ほどの参加者でしたが、ファブラボCSTがホストするチャレンジへの参加者とコミュニティ・パートナーだけで37人が参加し、全体の約半数がうちの関係者で占められるという結果となりました。私たちの結束力を示すいい場になったと思います。
ここまで、Fab Bhutan Challenge対応をリードしてくれている、うちのマネージャーのカルマ・ケザンさんには、感謝の気持ちでいっぱいです。
4.首都での行事(7月23日~28日)
現時点での最大の懸念は、4月30日で受付が締め切られたサイドイベントの採否通知が、まだ一部の案件分しか応募者に通知されていないことでしょう。最初からまるまる2週間ブータン訪問するぞと盛り上がっている一部の参加者ならともかく、自分が応募したサイドイベントが何日にプログラムされるのかがわからないと、フライトの手配もしづらい、できるだけ費用を切り詰めて、最低限の滞在日程で元を取ろうという方も多いと思います。
私も、自分の名前で応募したもの、他人の名前を借りて応募したもの、あわせて6件のサイドイベントの企画立案に関わりましたが、この記事を書いている時点で、採用通知をもらって行事日程が確定したのは4件のみです。いずれも5月末までには回答が来ました。
一方、採否未定の2件はいずれも機械操作を伴う「ハンズオン・ワークショップ」です。唯一採用通知をいただいたハンズオン・ワークショップも、足かけ2日間の開催提案をしていたのに、主催者側で勝手に1日短縮して、採用通知が発出されました。もともと2日間のものを1日でどうやればいいのか、ちょっと悩ましいところです。
さすがに、不採用なら不採用との結果通知が欲しいです。主催者(ファブ・ファンデーション)に問い合わせていますが、回答はありません。
これ、ホント困るんですよね。こちらも、ハンズオン・ワークショップの開催可否がわからない状態でも、必要なパーツ類はあらかじめ早めに発注しておかなければなりません。受け取るまでに時間がかかるので、6月中旬になって発注していては、当日までに入手ができないこともあり得るのです。
いろいろ漏れ聞こえてきていることを総合すると、実情はこんな感じのようです。FAB23のサイドイベント開催は、会場はスーパー・ファブラボ限定となっています。スーパー・ファブラボは、機械設置スペースはそこそこ広いですが、カンファレンスなどを開催する場合の会議スペースはそれほど確保できるわけではありません。利用できる機械も台数に限りがあります。そこに100件以上のプロポーザルが押し寄せたので、主催者は会場に収容しきれないという事態に直面したようです。
そこで、主催者は、ハンズオン・ワークショップやトークセッションの一部を、7月24日~28日のカンファレンス期間中のスーパー・ファブラボではなく、23日(日)のFabFest会場(市内時計塔広場)に持って行けないかと、今も検討しているようです。
だから言ったこっちゃない。それなら、スーパー・ファブラボに会場を限定しなければよかったのです。市街地の理想の場所にあるチェゴ・ファブラボや、Leaf Creative Solutionsが入居しているスタートアップ・センターも活用すればいいし、ビシュヌ・シャルマ君のDumba 3D Worksや、ティンプー市内のユースセンターだって会場にしたらいい。私たち地方ラボも、ティンプーのどこかの場所に一時的に機械を移設して、そこを会場として提供するような措置だって取れたと思います。ティンプーという街全体をファブで盛り上げる方法があったはずなのです。
そんなことを地方から愚痴っていてもらちが明きませんので、採否未定のままでも、私たちはワークショップを実施する前提でどうやったらできるか検討していくことにしました。採否未定の2件のうち、1つはチェゴ・ファブラボが会場ですので、もう私たちで開催日時を勝手に決めて、うちのFacebookページでイベント告知しようかと思います。もう1つの方は受益者として障害者の来場を想定していたので、不採用なら不採用で、そもそも障害者がアクセスしづらいスーパー・ファブラボではなく、市内の障害者団体の事務所を利用させていただいた方が、多くの受益者を集められるでしょう。
5.首都での行事(採用されたもの、誘われたもの)
前節では、採否未定のハンズオン・ワークショップがなぜ起きているのか、不採用の場合の救済策をどうデザインするかについて述べてきました。
一方、すでに採用通知をいただいているものが2つあります。1つはファブラボCSTの紹介で、もう1つはわが社っぽく「国際協力とファブ」というテーマです。いずれも、30分ぐらいを想定したパネルトークだったのですが、なんと1時間も枠をいただきました。尺が長くなったおかげで、抑えめのパネリスト数でなんとか回そうとしていた当初案を少し見直して、より有効に使えるようキュレーションし直しているところです。ただ、後者については、「思い切りやって来い」というお墨付きは東京の派遣元からいただいていないので、あとで東京にハシゴを外されない程度に、私の思いを伝えられるようデザインしたいと思います。
それにもう1つ、スーパー・ファブラボからお声掛けいただき、彼らが主催するパネルトークに、「ブータンにおけるファブラボ」のウォッチャーとして登壇するよう要請がありました。それならファブラボ・ブータンのツェワンかカルマ・ラキ元代表の方が適任だと、私は最初は固辞しました。でも、本当かどうかはわかりませんが、スーパー・ファブラボも最初はツェワンに打診して断られたそうですし、カルマ・ラキ元代表は別の形(Guest of Honour)として招待はするとのことだったので、第三候補としては私でもいいのかなと思い、引き受けることになりました。
当然ながら、ファブラボ・ブータンの初期の功績に敬意を表しつつ、今回、事情があってあまり存在感を示せていないチェゴ・ファブラボにも配慮しながら、自分の話は組み立てていくことになるのでしょう。
6.FABxホスト国決定投票は行われないらしい
FAB23のブータン開催は、2018年7月にフランス・パリで開催されたFAB14の際に、参加者の互選により決まりました。本来なら2022年の第17回大会がブータン開催だったのですが、パンデミックの影響などもあって1年順延となり、今日に至っています。
今のところ、2024年の開催地はメキシコ、25年はチェコ、26年はボストン(米国)と決まっています。2027年以降の開催国に関して、またどこかで選考が行われることになると思いますが、少なくともブータンでは開催国検討は行われないと聞きました。メキシコかチェコあたりで決めるんじゃないでしょうか。そうすると、アジア・アフリカ・中東あたりからの参加者は少なそうだから、開発途上国が招致するには不利があるかもしれません。
4月に訪問したファブラボ・バンコクで、いずれFABxをホストしたい意向があると聞かされました。22年インドネシア、23年ブータンとアジアが続いたので、すぐは無理かもしれませんが、それなりにロビイング活動も必要なようですので、近場のブータンでのFAB23には、来て顔を売っておいた方がよいのではないか、とはお伝えしておきました。
【6月9日加筆】①個別ケースのさばかれ方
「FAB23期間中のサイドイベントの会場はスーパー・ファブラボに限定」とか、中央主導でOnce-size-fits-all的な制約を設けると、それに合わないケースが出てくるというのは、すでに本文中でもご紹介した通りですが、この記事をnoteで上げた直後にも、同じような事態が生じました。
うちでホストするFab Bhutan Challengeにスペインから参加される大学教授がいらっしゃるのですが、配偶者同伴でのブータン渡航を考えているのだが、Fab Bhutan Challengeに同伴させていいかと主催者に照会しました。これに対して、主催者側は、ファブ・シティ・ファンデーション、スーパー・ファブラボともに、同伴者への便宜供与(国内通行許可証の手配)を拒否しました。配偶者はFab Bhutan Challengeが済んでから来いと言い放ったのです。
WhatsApp上でのこのような交信を見ていて、たぶんこの大学教授、次はファブラボCSTに泣きを入れてくるだろうなと予想しました。実は、この方はうちのカレッジでの招聘履歴があり、カレッジ側から招聘手続を取れば国内通行許可証が発給されるというのを実際経験されているのです。案の定、この方はうちに問い合わせて来られました。「これではFab Bhutan Challengeに行けないかも」と、捉えようによっては脅迫めいた書きぶりでした。
ファブラボCSTで便宜供与を断っても、カレッジの学長に直接泣きを入れられそうだし、そうなったらファブラボでも対応拒否はしづらい。結局、なんとかするという対応をせざるを得なくなるでしょう。家族同伴というケースはけっこう多いと思うのですが、せめて、同行希望者への通行許可証発給手続きぐらいはやってあげたらいいのにと思います。
【6月9日加筆】②ファブ・ケア・ネットワークとつながる
前述の通り、ファブラボCSTでピッチしている挑戦課題は、「アルミ缶をアップサイクルして障害児の自助具を作る」という野心的なものでしたが、おかげで、ヘルスケア用品の製作に取り組むファブラボの国際ネットワークである「ファブ・ケア・ネットワーク」から声をかけていただきました。この挑戦課題をピッチ下おかげで、ファブ・ケア・ネットワークの代表の方とか、ネットワークのメンバーでもある「ケアラブル」の事務局の方とか、うちのチャレンジに参加して下さる予定です。そして、それをきっかけにして、ティンプーにある障害者団体のいくつかにもつなげていきたいです。
noteをはじめるずっと以前、ファブラボCSTができる1年前、私はこれらのネットワークの存在を知り、ティンプーの障害者団体5団体のうち、4団体の方々と会って、「ファブ・ケア・ブータン」を形成しないかと呼びかけたことがあります。まかりなりにも「ファブ・ケア・ブータン」に呼応して下さったのはブータン脳卒中財団(BSF)だけだったので、FAB23カンファレンス期間中のサイドイベントも、BSFと共催でやるよう計画しています。
FAB23開催をきっかけに、「ファブ・ケア・ブータン」が本格的に動きはじめたら嬉しいですね。
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