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資源制約下のものづくり

1.ローテクも、使いようでは武器になる

先日、前職時代に時々お世話になった恩師と、長岡からほど近い街で開催されたイベント観戦をご一緒する機会がありました。観戦の合間に談笑していた際、師から、「なんでもデジタルだハイテクだという話になるけれど、貧しい国や地域で本当に必要なのは、すでにその地域にある資源をいかに生かせるかで、それにはデジタルではなく、アナログの技術やスキルが鍵になることもある」とのお話をいただきました。

師によると、地域の資源を今以上に生かせるノウハウを先に得れば、そのノウハウを使ったコンサルティングで現金収入を得るできるとのこと。そして、師の友人である、ネパールのカトマンズ郊外、キルティプールにあるNational Innovation Centreのマハヴィル・プン氏の活動は、まさにそれを目指しているものだと仰っていました。

ここではマハヴィル・プン氏のことは詳述しませんが、ローカルの機械や資源をハックして、より幅広い目的やデザインに使いこなせるようにするというのは、時には「適正技術」だったり、時には「スモール・イズ・ビューティフル」だったり、「ものづくりの民主化」だったり、いろいろな言葉で表現されているものと近いのではないかと思います。

私はこのnoteでは、「デジタル・ファブリケーション」のことを「ファブ」と短縮して表現していますが、「デジタル」ではないファブリケーションも、「ファブ」と捉える必要があると感じることがあります。そうすると、「デジタル~」が好きな国際協力実務者受けしない理由をもう1つ与えてしまうことにもなるので、なかなか主張がしづらいところですが、本来のプロダクトのデザインには、アナログ的ものづくりの要素と、デジタル的ものづくりの要素を組み合わせることで、深化が進んでいくものなのではないでしょうか。

恩師のお話を伺っていて、腑に落ちるところがありました。この数カ月の間に自分が経験したことと大いに通じるものがあると感じたからです。


2.ファブシティチャレンジ・メキシコの狙いどころ

1つは、7月にメキシコで参加してきた「ファブシティチャレンジ」での経験です。私は8つあったチャレンジテーマのうち、最貧困州チアパス州でホストされた「ジャングルで木工(Crafting in the Jungle)」を選んで、私は参加応募しました。デジタル的要素もあったものの、ツェルタルの女性グループが欲していたのはむしろアナログ的木工のスキルアップと、プロダクトのデザインの幅を広げることでした。

だから、決してすごいプロトタイプが出来たわけではなかったものの、彼女たちの身の丈に合った、複製可能なものは出来上がったと思っています。彼女たちは、学んだスキルを動員して、作られたプロダクトを売ってもいいし、作るノウハウを売ってもいい。まさに恩師が仰っていたことを地で行く活動のきっかけをチアパスでは作れたと思います。そして、先進性や斬新さはほとんどないデザインで審査員優秀賞をいただくことができたのも、主催者の狙いに沿った活動ができたからなのでしょう。


3.日本なら、簡単に手に入る収納ボックス

師と会った頃、私は工作用パーツを収納する棚を作っていました。

この9カ月、ファブアカデミー受講や、卒業後のものづくりの実践を続けるうち、電子工作のパーツや、バネやネジ、ボルトやナット、ワッシャー等のストックがどんどん増え、私は整理がなかなかできない状況に直面していました。収納スペースがないと、その都度ホームセンターに走り、小型のクリア収納ケースを購入するというパッチワーク的対応をしてきたのです。しかし、収納ケースはお店により取扱いのサイズが違ったりするので、それらをきれいに揃えて見栄え良く収納しておくのは後々の大きな課題となることが予想されました。

そこで、統一感のある収納ボックスということになったわけです。しかし、それすら日本なら簡単に手に入ります。日本国内のファブ施設に行くと、クリアのプラスチック製引出しをたくさん収納できる棚をよく見かけます。引き出しには内容物の名称のラベルが貼られ、クリアな容器で内容物も目視確認ができるように作られています。

このようなきれいな収納ボックスは、開発途上国では容易に手に入りません。そもそもそんな収納ボックスが大量に必要なほどファブ施設の数が多くないので、扱う業者が少ないのです。そこで、必要ならその都度外国から買って持ち込むことになります。

余談ですが、2022年にファブラボCSTを立ち上げた時、この収納ボックスの確保が課題として持ち上がりました。2017年にファブラボブータンが出来た時はさほど認識されていなかった課題です。それは、ファブラボブータンがブータン初のファブラボだったので、米国ファブファンデーションの援助を受けることができ、その供与品目の中に、収納ボックスとそこに収納される金物や工作パーツも含まれていたからです。

2022年のスーパーファブラボと、パロ、ゲレフ、ロベサのファブラボの同時設立の際も、問題は顕在化しませんでした。1つにはファブラボブータンの話がスーパーファブラボの関係者の間でリセットされていたからだと考えられます。世界に3つしかないスーパーファブラボがブータンに来たので、またもファブファンデーションの調達支援があったのでしょう。同時に他の3つのラボも資機材の共同調達が行われました。

ファブラボCSTは、ファブファンデーションの支援とは別途、JICAが資機材の調達支援を行いました。私も含め日本側関係者がファブラボ新設に不慣れだったこともあり、大きな工作機械の調達と供与は遺漏なく行われたものの、収納スペースの確保については後回しにしていました。「それくらい、自分たちで作ればいいだろう」と考えていた節もありました。誰がそれをやるのかは曖昧なまま…。

結果的に、収納ボックスをローカルで作るというアイデアが形になる前に、プロジェクトは終了しました。当時の状況を今振り返ってみると、これをやるべきだったのは私自身ではないかという後悔があります。ま、その気になれば誰にだってできるとは思うのですが。

プラスチック素材の収納ボックスは現地ではなかなか入手困難だった一方、木材はそこそこ豊富にありました。それは、日本のホームセンターのようにMDFやOSB、シナベニア、ファルカタ等、扱う合板の種類が豊富にあるという状況ではなかったものの、合板の入手はそれほど難しいわけではありません。

だから、合板で収納ボックスを作って間に合わせてしまうというのは、1つの対処法だったと思います。

今の自分には必要なアイテムでもあったし、過去の自分がやり残していた課題でもあった。だから今、改めて収納ボックスを形にして示そうと考えた次第です。

使ったのは、内箱にはファルカタ合板(455mm×910mm×2.5mm、898円)を1枚、外箱にはMDF板(450mm×900mm×4mm、658円)を3枚でした。合計2,872円です。ホームセンターでのカットサービスを利用すると、3,000円をちょっと越えるぐらいの費用になります。

ベースとなる内箱のデザインは、先日も別の記事でご紹介したMakerCaseのプラットフォームで間仕切り入りボックスをデザインし、出来上がったSVGファイルをIllustratorにインポートし、間仕切りのパターンを4種類ほど作ってからレーザーカットに臨みました。

ファルカタ合板1枚は、ホームセンターで455mm×455mmの8枚にカットしてもらってからレーザー加工の場に持ち込みました。私のデザインなら、8枚から内箱14~16個分のパーツを切り出すことが可能でした。レーザー加工のパラメーター設定を決めるまでに何度かのテストカットをしましたので、実際に作ることができた内箱は14個でした。

455mm x 455mmのスペースはできるだけ有効に使う
試作品はこんな感じで出来上がる。指をフックする穴が切れてないとか、
背板部分に余計な切れ込みがあるとか、最初はいろいろ不具合が見つかった

ちなみに、使用したレーザーカッターはTrotec社のSpeedy400とSpeedy300です。前者は職場に導入されており、空いていればいつでも使えます。後者は長岡駅近くにある「NaDeC Base」というファブ施設を日曜日に利用して、カットを行いました。いずれも材料持ち込みで、機械使用料は別途かかりませんでした。

その内箱14個が横2列で7段を重ねられる高さとなるよう、外箱のデザインを始めました。これもMakerCase→Illustratorという連携で作業を進めて行きました。横2列の7段組みにすると、間仕切りの板が縦1枚、横6枚必要になります。これがスペースを喰うので、MakerCaseで作ったSVGファイルをイラレ上で展開してみて、市販のMDF板が3枚(厳密には2枚半)必要であることがわかったのです。

MDF板を調達したら、あとはレーザーカットです。

内箱と違い、外箱では縦・横・高さの入力で注意が必要
間仕切り板がピタッとハマった時には感動する
試作品完成。試作品だが、個人的には使うつもり

注意点は、木工ボンドの使用です。急く気持ちはわかりますが、外箱のパーツを接着したボンドが十分乾いてから、内箱を挿入します。乾いていない状態で内箱を挿入し、慢心して完成品の写真を撮っているうちに、内箱と外箱がくっ付いて離れなくなってしまう恐れがあります。(私、それやりました…)

それと、裏側に空気を抜く穴があった方が良かったかもしれません。取りあえず、内箱と外箱の収納スペースの高さに少しだけギャップを作り、指を引っ掛けやすいようにはしたので、それで空気を抜くことはできるかもしれませんが、背板に穴が開いていれば、引き出しにくい時に後ろから押す方法で対処することができます。

そんな反省点はありましたが、個人使用する分にはこれで十分です。こうやって作れるというのを1つ見せることができたので、開発途上国のファブ施設が収納スペースの問題に直面するようなら、参考にしていただけるのではないかと期待します。ファブアカデミーのサイトでも、英文ドキュメンテーションはしておきました。

市販のキャビネットを購入するなら、輸送料込みだと3,000円以上はかかると思うので、地元木材を使ってもいい勝負はできるのではないでしょうか。


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