【FAB24レポート③】片手で入力できるキーボード
8月初旬にメキシコ・プエブラで開催された世界ファブラボ会議2024(以下FAB24)のレポート、第1回、第2回とお送りしてきましたが、もう1回だけ書かなきゃと思いながら、忙しさにかまけて先送りにしてきてしまいました。
ことFAB24に関しては、私は5日間の日程のうち、最初の2日しか出ていませんし、その2日とも、午後は半日がかりのハンズオンワークショップに参加しただけです。うち、初日の移動式メイカースペースの設計に関するワークショップは、第2回レポートでご紹介しました。
今回は、2日目午後に参加した、The Quirkey Accessibility Keyboard(片手だけでQuirkey入力できるキーボード)製作のワークショップについてレポートします。
このワークショップは、ニュージーランドにあるFabLab Mastertonのヴィック・オリバーさんが主催したものです。いつもテンガロンハットをかぶり、耳には大きなイアリングを付け、可変式ステッキをひっかけたバックパックを背負って歩いておられる、FABx界隈では有名人です。
「RepRap」という自己複製マシン製作プロジェクトで、親機3Dプリンターとそのマシンが複製した子機3Dプリンターが一緒に写っている有名な写真がありますが、その写真でRepRap提唱者のエイドリアン・ボイヤー氏と一緒に写っているのが若い頃のヴィックさんです。
実はこのワークショップは昨年のブータンでも開催されていて、ファブラボCSTの主要ユーザーだった王立ブータン大学科学技術単科大学(CST)の学生には大人気でした。大学に戻ってきてから、卒業制作でゾンカ語入力用にプログラムをカスタマイズした4年生グループもいました。
去年もブータンで開かれていたワークショップに、なぜ今年私も出たのかというと、去年、私はヴィックさんのワークショップの隣りの会場で行われていた別のワークショップに参加していて、CSTの学生たちが最も印象に残ったと言っていたヴィックさんのワークショップを、追体験しておきたいと思ったからです。
内蔵のマイコンボードとして、Arduino Leonardo Miniが使われていたそうですが、今年は一段と小型化したSeeed XIAO RP2040が使われました。
このキーボードは、以下のパーツから構成されています。
・XIAO RP2040
・USBケーブル(TypeC⇔TypeA)1m×1本
・キースイッチ 6個
・キーキャップ 親指用2個、その他の指用5個、外蓋、土台
(これらは3Dプリント)
・はんだ
・M3×12~16mmの木ネジ 4本
・すべり止めパッド
これらは、主催者であるヴィックさんがご提供下さいました。3Dプリント可能なパーツも、出力に要する時間を鑑み、事前にご用意いただいていました。(ニュージーランドから運んでこられるのは大変だったでしょう。)
ワイヤーカッター、ニッパー、はんだごてと台、ドライバー等は、会場となったIBERO Puebla大学から提供いただきました。これで、12人が参加できるハンズオンワークショップとなったのでした。
製作に必要なデータは、ヴィックさんのGitHubや、Printablesで公開されています。組立マニュアル、プログラミングマニュアル、キーボード入力方法の解説書だけでなく、左利き用のキーボードの製作留意点についてもマニュアルが作られ、全てGitHubのチュートリアルとして保存されています。
英語で書かれているのとちょっと文体がカジュアルなところがあるので読みにくさはあるのですが、ワークショップ当日はこのマニュアルのインストラクションに添って作っていったら、取りあえずキーボード入力できるところまでは到達することができました。
但し、キーボード入力方法の解説通りに文字が出なかったので、ひょっとして配線間違えたかもと思い、帰国後もう一度分解して、配線を確認しました。確かに間違っていたし、はんだづけがいい加減で接続不良になっていたところもありました。これらを修正したら、インストラクション通りのキー入力はできるようになりました。
日本語への変換ですが、全角ローマ字変換モードにしておき、その上でローマ字入力すると、スペースキーで候補が一覧表示されるので、その中から選ぶことは取りあえずはできます。片手でテキストも数字も打てるのが売りですが、スペースキーや全角ローマ字変換と半角英数字の間の変換は、PC上で行う必要があります。
また、これはキーボードでマウスではありません。カーソルを移動させるやり方はこのキーボードでも用意されているそうですが、マウスと組み合わせた方がまだ使いやすいと言えるかもしれません。
結論として、実用的かというとまだイマイチだなという気がしました。これなら、片手だけ使ってキーボードのキーを叩いている方が早いかもしれませんし。ただ、3Dプリントしたパーツとマイコンボードを組み合わせたらこんなものができるという学習教材にはなり得ると思います。
ワークショップでは、結局所定の4時間を使ってしまい、早めに切り上げて別のプログラムに途中参加しようと考えていた魂胆は、見事に玉砕しました。1つには、このワークショップの開催中に別の会場で火災報知機が鳴り始めたため、いったん建物から避難しなければならなかったこと。加えて、私の場合、インストラクションの英文を読んで理解するのに時間がかかり、さらに右目白内障手術前だったので、はんだづけに時間がかかってしまったことが挙げられます。
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