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電子回路工作のスペシャリスト、ナンダ君を招いて(その2)

1.ジェイソン・ナイト君から受けた影響

さて、前回は、ナンダ・クマール君と私とのこれまでの交流や、彼の人柄などについて紹介してきました。その中でも少しふれましたが、彼がこれまで接してきたものづくり愛好家「ファバー」の中で、特に彼の考え方に大きな影響を与えた人物がいます。デンマークのロスキレ大学(Roskilde University)にあるファブラボRUCから、2017年8月にインターンとしてファブラボ・ブータンに身を寄せていたジェイソン・ナイト君です。

ナンダ君は、当時、ジェイソン君からファブラボRUCの様子を相当聞かされました。ロスキレ大学自体は、工科大学というよりも、人文・社会科学と環境・科学技術の双方を有する総合大学ですが、ファブラボRUCのウェブサイトを見ると実に多くのプロジェクトと、それに基づくリサーチペーパーが掲載されています。大学併設のファブラボとしては、私たちにも参考にしたいところです。

それともう1つ、ナンダ君がジェイソン君と話していて感銘を受けたというのが、ジェイソン君が自分のポートフォリオを公開し、それを常にアップデートし続けているという点だったそうです。

ジェイソン君のファブラボ・ブータンでの活動で印象に残っているのが「コンブチャ(Kombucha)」(紅茶キノコ)の培養ですが、これはバイオラボを持っているファブラボRUC出身者ならではという気がします。(コンブチャは今や商品化されて、ブータンでは市販されています。)私も当時、ブータンでの剣道の普及で使う木刀のレプリカが作れないかと、ジェイソン君と相談し、彼がいろいろ手を尽くしてくれたこともよく覚えています。

そんな彼が、ブータンを離れた後に取り組んだのは、コンブチャとはまったく畑が違う、「プラスチックのアップサイクリング」でした。廃プラスチックを再加工してカラフルなスケートボードを作るというクラウドファンディングにも果敢に挑戦し、日本でNHKにも報道されました。

こうして常に新たなプロジェクトに挑戦し続けるジェイソン君ですが、彼はファブアカデミーの卒業生ではありません。身近にいるファブアカデミー卒業生を見ていると、卒業が1つの到達目標になっていて、そこから先の次のプロジェクトに取り組みはじめている人はいません。卒業後もファブアカデミーのウェブサイトにある自身のプロフィールをアップデートし続けているというファバーは、それほど多くないのではないでしょうか。ジェイソン君はそれをやり続けている、そこが素晴らしいとナンダ君は絶賛します。

そして、ナンダ君は、ファブラボCSTにmicro:bitワークショップの指導で来てくれていた間も、インターンの学生に対して、「自分のポートフォリオを作ってアップデートし続けろ」と檄を飛ばしていました。

その矛先は私にも向かいました。でも、よくよく考えたら、ファブラボCSTでのものづくりのポートフォリオならファブラボCSTのウェブサイトにある「Project Gallery」で公開している。自分自身のポートフォリオの整備はいずれは必要になるとは思いつつも、日本語に関してはそもそもこのnoteはそういう位置付けではじめたものではないか、改めてそう気づかされました。


2.micro:bitワークショップ①~企画立案

そんなわけで、今回は、おそらくブータンで初めて行われた、micro:bitを使った中高生向けワークショップの経験をまとめておこうと思います。

この企画は、冬休み子ども向けIoTキャンプ「micro:bitで遊ぼう」と銘打ち、1月3日~6日と4日間にわたって行いました。企画立案段階で相当頭を悩ませたのは、デバイスの台数と使用ラップトップの台数、それにLEDライトやサーボモーターなどの台数の制約からくる、受入可能人数の算出と実施方法の策定でした。ファブラボCSTで有する機器の台数は以下の通りです。

  • micro:bit:5台(V1.5 1台、V2 4台)

  • バッテリーモジュール:2台(他から持ってきて1台追加は可能)

  • ミニUSBケーブル:2本(他から持ってきて1本追加は可能)

  • ラップトップ:3台以上(但し、マウスが2個のみ)

  • LEDライトモジュール:5種類各1台

  • マイクロサーボモーター:2台

  • DCモーター:2台

  • ワニ口クリップ:多数

  • ジャンパーワイヤー:多数

  • 土壌水分検査用クギ:2本

つまり、デバイス本体は5台ありますが、バッテリーモジュールとミニUSBケーブルの台数からいって、グループは最大3つまでしか作れません。さらに、モーター類の台数からみて、場合によってはグループを再編して、テーブルを2つ、ないしはいっそのこと1つにまとめなければならない可能性もありました。

今冷静に振り返ると、これならば1グループ3人、合計9人が募集人員の上限だったと思います。それを、拙速にも「定員15人」で募集開始してしまったのは12月19日。開催2週前のことでした。

日程は4日間ですが、開催時間は13時~17時としました。これは、クラス7(日本の中学1年生に相当)以上の子どもたちを対象とした場合、彼らが冬休み中の起床時間が8~9時頃らしく、朝からのプログラム実施は敬遠されるかもしれないとの読みからです。「10時開始」という選択肢もあり得ましたが、1日がかりのプログラムを組むと、昼食を当方でアレンジする必要が生じます。しかし、会場近くにケーターリングを頼める場所がありませんので、思い切って午後イチスタートとしました。

4日間の編成の当初案は以下の通りです。

3日目にファブを加えたのがミソ

初日の操作実習を考えるにあたって、もっとも重点的に参考にしたのは、micro:bitのホームページに掲載されている導入編のプログラムの数々です。加えて、Microsoft MakeCode(オープンソースのプログラミング学習プラットフォーム)のmicro:bitコードエディターにあるサンプルコードのいくつかを参考にしました。

ナンダ君にも了解してもらい、ブロックを用いたビジュアルコーディングだけで進めることにしていました。ただし、実際に参加した高校生に聞くと、彼らはPythonを使ったテキストコーディングもすでに学習開始しているそうなので、コードブロックとPythonを併用していくのでも良かったかもしれません。

さらに、基本機能から、工作と組み合わせた実生活でも使えそうな作品やゲーム、ワークショップモジュールを使った機能拡張の事例としては、スイッチエデュケーション編集部著『micro:bitではじめるプログラミング第3版』(オライリー・ジャパン)を参考にさせていただきました。当然、ワークショップモジュールも、事前にスイッチサイエンス社経由で1セット購入してありました。

本書に収録されている作品のうち、「宝箱警報器」と「リアクションゲーム」の筐体は、あらかじめ私たちの方で作っておきました。3Dプリンターのフィラメントの空箱の再利用でした。土壌水分検査用の土壌は、ヨーグルトの空カップを利用します。

フィラメントの空箱をハックして、ワークショップ用小道具を事前準備した

この他には、スケッチブック、筆記具、マスキングテープ、両面テープ、定規及びノギス、さらに予備の乾電池などを用意しておきました。


4.micro:bitワークショップ②~募集

前述の通り、募集は2週前から、ファブラボCSTのFacebookページとホームページで行いました。参加希望者はFacebookページからGoogle Formsのリンクに飛び、ここに必要事項を記入して申し込んでもらう仕組みとしました。

クラス10(高1)以上とクラス9(中3)以下とで分けて開催しても良かったかも!?

前週のMESHワークショップに来てくれていた高校生にも直接営業をかけ、12月30日時点で6人からの申込みを確保しました。(上の図が「7人」になっているのは、micro:bitワークショップ開始後入ってからの駆け込み応募ですが、その時点ではすでに募集を締め切っていたので、お断りしました。)

コンファメーション通知は、登録メールアドレス宛で、12月30日に発出しました。初日の開始時刻のリマインドに加え、ファブラボCSTの場所、ドレスコード(「カジュアルで可」とリマインド)、欠席の場合の連絡先と連絡方法なども併記しました。また、前日(1月2日)にファブラボに行き、参加予定者の出欠簿を作って印刷しておきました。

念のため、CSTのIT学科が持っているコンピューターラボも利用させてもらえるよう、ファブマネージャーを通じてIT学科長には仁義を切っておきましたが、6人程度であればファブラボCSTのラップトップで運営可能と判断しました。


5.micro:bitワークショップ③~1日目

参加予定者6人全員が顔を揃えました。この日はラップトップとデバイスをつないで行う基本操作の演習だけだったので、2人1組で、3つのテーブルに分かれてもらいました。

この日カバーした項目は以下の通りです。演習では、基本ブロックはスライドで提示しますが、そこからの応用については各グループで考えてもらい、それを発表してもらう場面も設けました。

  1. micro:bitの基本装備

  2. プログラムの書き込み方法

  3. LED「ハートマーク」とその応用

  4. ボタン機能とLED「感情表現バッジ」とその応用

  5. LED「太陽」の表現とその応用

  6. 加速度センサー「サイコロづくり」とその応用

  7. 加速度センサー「万歩計」とその応用

  8. 温度計とその応用

  9. 照度センサーとその応用

  10. 方位磁針の活用

加速度センサーを使った万歩計コードの説明用スライド
3グループに分かれてのテーブルワークが中心

6.micro:bitワークショップ④~2日目

2日目は、1人から欠席の連絡がありました。最終的には5人になりましたが、3人が遅れてきたため、スタート時点では2人のみでした。このため効率を考えてこの2人を1つのテーブルに寄せ、その上でワークショップを開始しました。自ずと、遅れてきた3人はもう1つのテーブルに座ってもらうことになります。結局、この日は2グループで演習をやってもらうことになりました。

  1. 音声アウトプット(スピーカー機能)とその応用

  2. 音声インプット(マイク機能)とその応用

  3. LEDモジュール

  4. タッチセンサー

  5. サーボモーター

  6. 無線機能「笑顔を送信」「テキストメッセージ送信」

  7. 無線機能応用「お宝さがし」

  8. グループ演習~無線機能応用「パスポート紛失システム」

LEDモジュールをチカらせる。これだけでも半日ワークショップできそう
お宝さがし用プログラム(LEDと音声アウトプットがうまくシンクロせず…)

この日のメインイベントは無線機能の応用で行った「お宝さがし」ゲームでした。両チームとも、相手チームがファブラボCST内に隠した「お宝」の、ありそうなエリアの特定はできたものの、発見には至りませんでした(隠し方が巧妙でした)。LEDを光らせるのではなく、発信信号の強さとともにスピーカーの音量かピッチが高まるシステムに改編した方が、システムの精度は上がるねという話はしました。

さらに、その応用として、今度は、自分の手元にある貴重品———たとえばパスポートの紛失や盗難を防ぐためのシステムをどう作るかというグループワークにも取り組んでもらいました。これも、基本音声アウトプットで警報を鳴らす仕組みを考えてコードも考えてくれたのですが、無線信号とスピーカーの相性が良くなくて、うまく機能しませんでした。

5人全員でパスポート紛失・盗難防止システムを話し合う

micro:bitの無線信号とスピーカーの相性があまり良くない問題は、私もいろいろ調べたのですが、原因がよくわからず、最終的に満足のいくシステムが作れないで終わってしまいました。原因について、どなたかご存知の方がいらしたら、是非教えて下さい。


6.micro:bitワークショップ⑤~3日目

この日は、前日欠席した子は復帰してくれましたが、前日遅れてきた3人組は逆に揃って欠席しました。それぞれ所用があったようです。3人だけでの実施となってしまいました。でも、この日がファブラボとしてmicro:bitワークショップ主催を考えるならばメインイベントとも言える日です。デジタル工作機械を使った工作の要素を入れ、デバイスを実際に組み込む実習を少しだけ加えていたからです。そして、これこそが、ブータンでこれまでさんざん行われてきたプログラミングの授業や講習会などで、決定的に欠けている要素だとナンダ君は指摘します。

  1. 無線機能「お宝さがし」のシステム改良

  2. 無線機能「パスポート紛失・盗難防止システム」の改良

  3. LEDモジュールを使ったプログラミング演習

  4. サーボモーターを使ったプログラミング演習「尺取り虫」

  5. 土壌水分センサー

この日は、前日上手く行かなかった無線機能のレビューからはじめました。前日からあまりよろしくなかった無線信号とスピーカーの相性は、ひと晩対策を考えたものの有効な打開策が必ずしも見い出せませんでした。スピーカーの音声は思った通りの出力になっていない気はしましたが、それでも取りあえずはお宝への反応、パスポート紛失への反応は見せるようになったので、曖昧な結果ながら取りあえず満足し、次のLEDモジュールに進んでもらいました。

LEDモジュールのプログラミング演習は、参加者が喜んで取り組んでくれて、どうコードを書いたらどう光るか、何度も実際に試す姿が見られました。LEDモジュールだけでも、半日程度のワークショップが別途作れるのではないかと感じたくらいです。

さらに、サーボモーターを組み込んだ「尺取り虫ロボット」製作も、面白かったようです。サーボモーターのアームにクリップを引っ掛け、2つ折りしたボール紙を動かすだけの簡単なロボットですが、このボール紙の採寸と手描きスケッチをもとに、レーザー加工機でボール紙を切り出してもらい、その上で組み立てるというステップを踏んでもらいました。

寸法をOJT学生に伝え、レーザー加工機でボール紙をカットしてもらう
尺取り虫が思ったような動きをしない。どこが問題か、いろいろ考える

実は、このワークショップには、ナンダ君の甥がサムチ県ゴムトゥから参加していました。ふだんから無口で引っ込み思案、暇さえあれば自宅でゲームをやっているという甥のことを心配したナンダ君が、無理やり連れてきた子でした。2日目までは、静かでグループワークでもあまり発言するところを見たことがありませんでしたが、この「尺取り虫ロボット」を自分たちで作り、実際に動く様子を見て、帰宅後相当興奮していたとナンダ君から聞かされました。確かに、これ以降、ワークショップ開催中もよく発言する姿が見られるようになったのです。


7.micro:bitワークショップ⑥~4日目(最終日)

この日は6人全員が集結しました。昨日欠席した3人と、出席していた3人の間で、進度に違いが生じてしまったため、この日は2グループで別メニューをやってもらいました。

【グループA(前日欠席組)】

  1. 宝箱警報器(共通)

  2. LEDモジュールを使ったプログラミング演習

  3. サーボモーターを使ったプログラミング演習「尺取り虫」

  4. 土壌水分センサーとその応用

1日遅れで尺取り虫ロボット製作に挑戦
土壌水分センサーの実験を繰り返す

【グループB(前日出席組)】

  1. 宝箱警報器(共通)

  2. 回転サーボモーターを用いたプログラミング演習「二度寝防止アラーム」

ベース部分は前日の応用。レーザー加工でボール紙を切り出す
スマホのスタンド部分は3Dプリント
実際に動くかどうかをテスト

写真や動画をご覧いただければ、どんな感じで行われたのかはご想像いただけるでしょう。せっかくファブラボに来たのだから、レーザー加工機や3Dプリンタ―を使ってデバイス組込みをちゃんとやってもらおう―――というところまではなんとか辿り着けたのではないかと思います。

準備が間に合えば、①超音波センサーを使って、尺取り虫ロボットを障害物の手前で停止させる、②無線機能を使ったラジコンカーの操作を組み込みたいとナンダ君は言っていました。しかし、①については、両グループの進度に差が出てしまったこと、②については、課題としてラジコンカーを製作していた学生OJTチームが、ワークショップ終了時刻までに製作を終えられなかったため、残念ながら断念せざるを得ませんでした。

最後は、ナンダ君による講評でした。組み込めるマイコンボードをストックしていて、組込みに必要な工作技術を有する工房がすぐ近くにある君たちは幸せ者だ、もっとファブラボを利用したまえ―――というようなメッセージだったと思います。そう、MESHブロックやmicro:bitなど、思い付いたアイデアを試してみるのに使えるデバイスがここにはあり、しかもサーボモーターやLEDもストックがあるので、これを地域の若い子たちがどんどん利用していってくれたら嬉しいですね。学校祭などで必要なら、貸し出すのもありかもなと思います。


8.OJT学生がその間取り組んでいたこと

さて、こうして私がリードして子ども向けのmicro:bitワークショップを主宰している間、ファブラボCSTでOJT実習中の電気通信学科4年生3人は、ナンダ君から指導を受け、Pythonでmicro:bit用コードを書き、タイヤホイールやシャーシーなど、必要なパーツは3Dプリントして、ラジコンカーを作るというプロジェクトに取り組んでいました。

彼らも、最初の2日間はナンダ君からPythonコーディングのレクチャーを受け、3日目からプロジェクトを開始。一部のパーツをナンダ君に返却する必要があることから、4日目夕方までに、走るラジコンカーを完成させるところまで辿り着かねばなりませんでした。時間との闘いです。彼らにしては珍しく、自ら残業し、走らせるところを師匠に見せられたのは、最終日1月6日の夕方6時近くでした。

コーディングの特訓中
ワニ口クリップワイヤーがごちゃごちゃで、見栄えは悪いですが
いよいよテスト走行
走った!!
おめでとう!この日デング熱から復帰した2年生インターンも一緒に

こうして、準備期間も含めれば3週間にもわたる、micro:bitワークショップの運営は無事終了しました。もともとCST電気通信学科の先輩でもあるナンダ君の姿は、OJTの学生諸君にとっても、大いに参考になるものであったに違いありません。最後の夜は、師匠を交えて近くのレストランで打上げを開催しました。

ナンダ先輩、御指導ありがとうございました!

私も、ナンダ君からは、「micro:bitの台数増やして下さい」と再び念を押されました。確かに、周辺機器も含めて20セットぐらいあったら面白いだろうとは思うのですが、普及させるには足元のCSTの学生の間でもっと広まらないといけないでしょうね。個人的にはまだまだ課題だと思うところです。

最後まで読んで下さり、ありがとうございました!

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