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「ファブシティ」ブータンの経緯

FAB23のプログラム最終日に、「ファブシティ・サミット」というのが予定されています。このところ開催されている世界ファブラボ会議(FABx)では、必ずこのサミットが抱き合わせで開催されており、毎年世界のどこかの都市が「ファブシティ」のメンバーになることを宣言します。現時点でファブシティのメンバーとなっている都市は、全世界で49あるようです。

過去2回の開催地――モントリオール(2021年)、バリ(2022年)、及びこれら開催国の国内の都市/州は、たいていの場合、このサミットを機にファブシティへの参加を宣言します。同じ理屈でいけば、今年のサミットではブータン絡みでの何らかの宣言が行われるだろうと予想されます。

でも、ブータンの場合、ファブシティのHP上では、つい最近まで「ティンプー市」がメンバー都市として掲載されていました。この記事を書くために改めてHPをチェックしましたが、いつの間にか「ブータン」に変更されていました。でも説明文を読むと、「ティンプー」のことしか書かれていません。

この混乱は、私がJICAの所長としてブータンに赴任してきた2016年にはすでに顕在化していました。ファブシティを運営するファブシティ財団は、ブータンの事情にはそれほど詳しくはないので、ずっと曖昧な標記のままここまでやってきました。

本日は、この「ファブシティ」とブータンの関係について、自分なりに知っている情報を整理して、今後を考察してみたいと思います。



1.概要

ファブシティ(Fab City Global Initiative)は、2014年8月、スペイン・バルセロナで第10回世界ファブラボ会議(FAB10)が開催された際、主催したバルセロナ市とファブラボ・バルセロナ、カタルーニャ高等建築研究所(IAAC)、米ファブ・ファンデーションなどが共同で発足させた都市間協力イニシアティブです。現在、世界49都市が加盟。日本からは、2018年に鎌倉市が初めて加盟しています。

この構想のベースになる概念は、IAACの研究者が2014年に出した、『The Self-Sufficient City』(自給自足可能な都市)という本の中で提示されています。

21世紀半ばに向けて、主要は固形廃棄物の排出源、温室効果ガスの排出源になるのは都市であるとの認識のもと、デジタルファブリケーション技術の普及を背景に、新たな生産方式と地域の資源を掛け合わせ、これを世界規模での知識共有でファシリテートすることで、持続可能な都市のモデルを作ることをめざしています。確か、「2054年までに、都市で消費されるものはその都市のバウンダリーの中で作られるようにする」というような目標が掲げられていたかと思います。

背景を勝手に想像するに、1つには当然のことながら、「持続可能な開発目標(SDGs)」との関係が挙げられます。今世紀半ばに向けて、農村と都市の人口比率が逆転し、より多くの人が都市に住むようになり、都市での人々の経済活動が地球環境に大きな圧力をかけるであろうことが予想されます。都市のレベルでの持続可能性を高めないと、グローバルな持続可能性は担保できません。

2015年9月の国連持続可能な開発サミット(SDGsサミット)に向けて、各国政府や市民社会組織ネットワーク、民間企業ネットワーク、自治体ネットワークなどが、それぞれ重要と考えるアジェンダをSDGsに反映させ、自分たちが活動しやすい環境を作ろうと、さまざまなロビー活動を行いました。ファブラボのコミュニティにも同様な動きがあり、「ファブと都市」というアジェンダが打ち出されたのでしょう。

もう1つは、「(ほぼ)何でも作れる」というアピールの仕方では、多くの人に響かない、何か具体的な社会的課題に対してファブは貢献するのだというアピールをしないと、賛同者を増やしていくことが難しいとの問題意識が、当時のファブラボのコミュニティにはあったのではないかと思います。これは、私も自分の所属する組織の中で経験してきたことでもあります。

また、私自身、最初にファブラボについて聞いた頃は、自分自身の欲しいものを1回作ったあと、それを越えてさらに何を作るかという具体的なアイデアがなく、どうしたらリピーターになれるのか、見当もつきませんでした。個人のレベルから組織や社会のレベルに思考を拡張していくとき、「なんでもできる、なんでもやっていい」と言われるより、具体的な方向性を見せられる方が、アイデアは出しやすいし、行動にもつなげやすいと感じました。

「ファブラボ」というよりも、「ファブシティ」という方が、ファブラボ周辺に集うものづくり愛好家を、目的志向の行動へと結集しやすかったのでしょう。


2.ブータンとの関係

ブータンは、2016年に中国・深圳で開催された第11回世界ファブラボ会議(FAB12)の会場で、キンレイ・ドルジ・ティンプー市長(当時)が、ビデオメッセージでファブシティへの参加を宣言しました。これは、FAB12に出席していた複数の日本人の方から目撃情報をいただいています。

ただ、その時のメッセージの出し方が混乱を招いた。ブータン全体でファブシティというのなら、ティンプー市長による参加宣言はおかしい。市長はその市のことしか話せないはずです。

でも、FAB12以降、ファブシティ側では「ブータン」をメンバーとして認識していました。しかし、2018年4月にトブゲイ首相(当時)が訪日し、公式日程の合間にファブラボ鎌倉を訪問された際、「ブータンはファブシティのメンバーですね」と言われた首相が、「何のことだ」と言ったとか言わなかったとか…。同行していた元国家計画委員会長官に訊いてもノーアイデア。政府のあずかり知らぬところで勝手に決まっていたというので、首相はご立腹だったとか。

さて、時計の針を少し戻して、2016年11月、私は、JICAの現地事務所長としてこのキンレイ・ドルジ市長と面談する機会がありました。「ティンプー市ってファブシティのメンバーですよね。これからファブラボがティンプーにできたら、支援して下さいますか?」とお尋ねしたところ、市長は「何のことだ?」とおっしゃいました。自身のビデオメッセージがFAB12会場で流されたこともご存じではなく、「ファブラボ」のことも、「ファブシティ」のことも、市長には私がゼロから説明しなければなりませんでした。私の説明が拙かったところもあったのでしょうが、市長はファブラボに関しては、かなり慎重な発言をされていました。

では誰が市長のビデオ・メッセージを撮影し、FAB12会場で流したのか?

米MITのニール・ガーシェンフェルド教授の教え子で、ブータンに長期滞在していたアメリカ人デザイナーであることはわかっています。私は市長のビデオは実際には見ていないのでなんとも言えませんけど、たぶん市長はティンプー市の紹介をしただけで、ファブシティへの加盟宣言まで本人の口ではされていなかったのではないかと思われます。

ファブシティは、2018年のフランス・トゥールーズ大会以降、毎年1回ファブシティ・サミットを開催しています。2021年(モントリオール)、2022年(インドネシア・バリ)と、サミット開催地は世界ファブラボ会議(FABx)の開催地とかぶっており、FABxと抱合せで開催されてきました。昨年3月の時点で、ファブシティ財団HPでは、2023年の開催地を「メキシコシティ」とすでに公表していました。しかし、同じ時期に発表されたFABx開催日程では、2023年ブータン、2024年メキシコと発表されため、2023年のサミット開催地もティンプーに変更される可能性があると私は予想しました。

ティンプー市に関しては、私がパンデミック影響下のJICAの安全管理措置により任地に入らせてもらえず、拠点をティンプーに置いていた11カ月の間に、いろいろなつてを使って情報収集を試みました。でも、結局市役所の誰がファブシティの窓口なのかわからずじまいでした。ブータンでのFABx開催が2023年に延期されるまで、2022年開催での準備をリードしていたファブラボ・マンダラも、ファブシティのことはまるっきり無視していました。

(「無視」というのは正確ではないです。2018年7月のFAB14(パリ)で、FABxブータン招致に成功したファブラボ・ブータンのツェワンは、直後にトゥールーズで行われたファブシティ・サミットにも出席して、FABxとファブシティ・サミットが抱合せで行われる可能性を予見し、Solidworks社の知り合いやティンプー市当局とともに、ティンプーのスマートシティ化計画の企画書を書いていたらしいと最近知りました。でも、これも、FABxの2022年大会の準備過程でツェワン本人がフェードアウトしてしまい、立ち消えになってしまったようです。)

そこで、私は、ファブシティ財団の問い合わせメアドを使って、ティンプー市の窓口が誰なのかと、二度財団に照会しました。自分がブータンのプンツォリン市にこれからできるファブラボCSTのスタッフだと身分を明らかにした上での照会でした、二度とも返事をいただけませんでした。なんのための「Contact Us」なんだよと思いました。その時点で、ファブシティ財団への私の心証はかなり悪いものになりました。

一方、昨年4月末に拠点をプンツォリンに移す直前、私はスーパー・ファブラボを訪問した際、「ファブシティのことを知っているか?」と彼らに尋ねました。2023年のFAB23は、スーパー・ファブラボとDHIが現地側主催者となることがすでに決まっていたので、彼らがどれくらい「ファブシティ」を意識しているのか知りたかったのです。ここでの反応も、「何、それ?」といった感じでした。ブータンのファブラボのコミュニティの中では、スーパー・ファブラボやDHIの若いスタッフは遅れて来た新参者ですから、過去の経緯を知らないのは当然です。私は、過去にこんなことがあったと彼らにブリーフして、プンツォリンへと引っ越しました。


3.ファブシティとファブラボの線引き

今回、FAB23の準備プロセスウォッチャーになってみて感じたのは、ファブシティとファブラボの融合は相当進んでいる一方、ファブシティ財団とファブ・ファンデーションの間には、明確な役割分担がありそうだということでした。準備過程で行われた一連のウェブ会議の席上、私はFAB23のサイドイベントはなぜティンプーのスーパー・ファブラボでしか開催できないのか、地方ラボもサイドイベントをやらせてくれてもいいではないかと、Fab Bhutan Challenge参加者でないと地方ラボを訪問できないというのは機会を絞り過ぎではないかと、ファブシティ財団の若いスタッフに質しました。すると彼女は、「それは自分たちには答えられない。ファブ・ファンデーションに訊け」と回答を避けられました。

FAB23の全体日程を再掲します

準備プロセスの多くの時間はFab Bhutan Challengeの国内分散開催準備に充てられ、これをリードしていたのはファブシティ財団の若いスタッフ2名でした。そのファシリテーションぶりには感心しましたが、2人ともブータンには来たことがなく、昨年バリでできたことをそのままブータンでもできると軽く考えていたのではないかと思われる発言で、こちらが戸惑う場面もありました。

一方、7月23日のFabFest(於ティンプー市内時計塔広場)を挟んで24~28日の後半のカンファレンスは、ファブ・ファンデーションの方が前面に出てきて、ファブシティ財団は、23日(日)のFabFestでのFab Bhutan Challenge試作品の展示とその審査プロセス、そして28日(金)のサミットの部分のみ担当しているようです。FAB23に向けた参加者の渡航準備の応対やウェブサイトへのイベントアップロード、参加費用の徴収なども、すべてファブ・ファンデーションが代行してやっていました。

ざっくりした印象ですが、ファブシティでやろうとしていることの方が、ホスト国とホスト地域コミュニティにとっては恩恵が大きいように思います。後半のカンファレンスは、シンポジウムでブータン人の登壇者が若干はいますが、主にはグローバルに有名ないつもの方々で、ワークショップなども、各々がこの1年やってきたことを発表する場と捉えられているケースが多いように思われました。いわば仲間うちの発表会です。もともとFABxの目的は世界のファブラボの代表者間での対面での交流機会の定期開設にあったので、これはこれでいいでしょう。

もちろん、FABxのイベントは、地元の小中高生や大学生、市民社会組織などにも開かれたものになってはいます。ワークショップのいくつかは、ホスト国やホスト地域コミュニティにも何らかの恩恵がある内容のものもあるでしょう。でも、FAB23に関して言えば、ブータンの小中高校や市民社会組織にとって、会場のスーパー・ファブラボは敷居が高く、アクセスがしづらいと思われています。地域コミュニティへの裨益効果は残念ながら小さいように思われます。


4.日本やJICAとの関係

これまで述べてきたように、ファブシティはSDGsとも親和性が高い、しかも市民を巻き込んで「持続可能な開発」に向け具体的行動につなげやすい都市アジェンダだといえます。でも、同じ「持続可能な都市」のアジェンダを推進してきた日本やJICAは、ファブシティにはほとんど注目していません。

SDGsプロセスウォッチャーだった当時、私が日本で見ていたのは、都市アジェンダで言えば、「スマートシティ」や「スマートグリッド」、「公共交通機関利用を前提とした沿線開発(Transit-Oriented Development)」、「コンパクト・シティ」といったインフラ絡みのテーマが多かったのが印象的でした。活発に動いておられたのは民間企業や地方自治体の方々でした。

日本でのファブラボネットワークの提唱者である田中浩也教授(慶應SFC)やファブラボ鎌倉が、ファブを通じた循環型社会の実現に向けた積極的な取組を進めておられて、それに加わっておられた企業や自治体もありましたが、SDGs策定やモニタリングプロセスへの打ち込みにあたり、日本政府やJICAがこれらの動きと連携したという話は、聞いたことがありません。

SDGs制定プロセスをウォッチしていて印象的だったのは、このプロセスに参加するアクターが、各国政府や政府機関から、企業や財団、市民社会組織、自治体と、多様化していたことです。当時の自分が政府開発援助実施機関の職員だったことから、こういう場に出ていくと、ふだんお付き合いのないアクターがたくさん来られていて、驚いたのを覚えています。グローバルな交流の輪はPeer-to-Peer、つまり、市民対市民、自治体対自治体といった異なるレイヤーで、どんどん深まって行っているのを実感しました。

メイカー対メイカー、都市対都市といったレベルで、グローバルにつながりつつ、ローカルのレベルでの循環型社会の実現に取り組もうという流れは、今後ますます強まるでしょう。日本政府やJICAの職員も、どこかで「ファブシティ」と聞いて、「何、それ?」とならないようにお願いします。

これでも私も「開発屋」のはしくれですので、「ファブシティ」との付き合い方について、自分の反省も含めて結論的に以下の点を述べておきたいと思います。

(1)現地関係者の立場から
ホスト国への裨益を考えるなら、Fab Bhutan Challengeの方に全集中すべきでした。私が常々主張している、現地開発協力事業関係者と近隣ファブラボとの協働機会の創出も、Fab Bhutan Challengeをプラットフォームにして、もっと実現させられればよかったと反省しています。ファブラボCSTには、チャレンジ参加者ではなく、ホスト側の「コミュニティ・パートナー」という位置付けで、JICAの専門家や、現在派遣中の協力隊員の方にも参加していただけるよう配慮はしました。特に、うちで行う障害児自助具の試作では、リハの視点からのインプットが不可欠なので、ティンプーの理学療法士の協力隊員や、ファブラボ品川の方々にも来ていただけるのは、とても大きなインプットになると期待されます。

しかし、他の地方ラボでも、「獣害対策」や「村落給水」、「稲作」といった、日本やJICAが長年対ブータン開発協力の柱にしてきた、「農業・農村開発」に絡んだチャレンジテーマが取り上げられていました。そういう地方ラボとのパイプをもう少し作れていたならば、当該分野に関係する現地のJICA関係者とそのカウンターパートの方々を地方ラボとつなげて、外国からのチャレンジ参加者が帰国したあとでも、ブータンに残る方々には、そこで共有された知見の拡張に一役買っていただけるよう、仕掛けることができたのではないか―――そう思わずにはいられません。

(2)FABxに今後参加検討する場合
一方、FABx参加者の立場で見た場合、日頃の活動の成果発表の場であるカンファレンスの重要性もさることながら、ホスト国に何らかの貢献をしたいと考えるならば、「Fab ○○○ Challenge」というプラットフォームに乗っかるべきだと思われます。むしろ、カンファレンスそのものよりも面白いかもしれないし、ネットワーキングにもつながるかもしれません。

ファブのスキルが十分でないというのが躊躇する理由になった方もいらっしゃるかもしれません。ブータンでの参加者選考プロセスを見ていたので、「ファブのスキルは十分ではないけれど、意欲はあるし、写真撮影やコミュニティ・ファシリテーション、ビジネス開発などのスキルはある」という参加希望者が、ホストする地方ラボ側の視点から優先順位を下げられたという現実も垣間見ました。しかし、昨年のバリのように、地域の事情をよく知っているNGOがホストするケースもあると思いますし、ものづくりが好きで集まって来る人々の間でも、欠けている知見がひょっとしたらあるかもしれません。今後も「ファブシティ」絡みのFABxコンテンツには注意し、これに乗っかるという途は考えられてもいいのではないかと思います。

(3)開発協力実施機関本部のあり方
日本の開発協力実施機関本部には、ファブをまともに取り上げて分野課題横断的にファブラボの活用を呼びかけてくれる部署が存在しないという話は、以前の記事でも指摘させていただいています。この点で過大な期待を抱くのは禁物ですが、「持続可能な都市」アジェンダなら、たとえインフラ指向が強くて企業や自治体とのお付き合いの方が多いとはいえ受け皿的部署が存在します。そういう部署でファブの窓口を引き受けてもらえないものかとの期待を記しておきます。


5.ファブシティ・サミット2023とその後

さて、第2節でファブシティをめぐるブータンでの混乱劇について少しご紹介しましたが、ファブシティ財団の方から事前に聞いたところでは、7月28日(金)のファブシティ・サミットにおいて、ブータンは「ブータン王国」として、ファブシティ正式メンバーを再宣言するそうです。これによって、「ティンプー市」なのか「ブータン」なのかのねじれ論争(?)には、一応の終止符が打たれることになるでしょう。

そして、「ブータン王国」ということになると、今後確実に訪れるのは、ブータン側窓口がDHI/スーパー・ファブラボと整理されて、全国的にファブを通じた「持続可能な都市」アジェンダを推進するために、中央から地方のファブラボに対して「協力しろ」という指示が飛んでくる、そんなヒエラルキー構造が形成されることです。

その理念だけ周知させてくれればそれでいいのです。それが、ファブシティ財団から何か言われて、DHI/スーパー・ファブラボが地方ラボに作業指示してくるようになったら、地方ラボに籍を置く者としては、あまり気持ちよいものではないかもしれません。理念を理解し、地方ラボがちゃんと自律的に活動を展開する、活動の方向性はそれぞれの地域の特徴に応じて自由に考えてもいい―――そんな体制になって欲しいのですが。


6.【余談】「ファブカントリー」を最初に使ったのは私です

ところで、私がJICAの所長で来たばかりの2016年頃、ファブシティのメンバーになったのは「ティンプー市」だとばかり思っていたので、ファブを通じた循環型社会の実現に向けた取組みをティンプーでだけやっていては、余計に若い人がティンプーに集中するだけだと考え、全国紙クエンセルに、「ブータンをファブカントリーに変えよう」というエッセイを投稿したことがありました。その証拠は下記の通りです。

当時、ティンプーではファブラボ・ブータンができる計画がすでにあったので、それを前提に、首都にファブラボが1ヵ所あるだけでは首都の魅力化に貢献するだけだから、地方にファブラボをもっと作った方がいいと考え、JICAの協力で地方ラボが作れないかと画策していたところでした。それを裏打ちするビジョンとして、「ファブカントリー」という言葉を用いたのです。

その後、「ファブカントリー」は、2017年7月のファブラボ・ブータンの開所式の席上でも、私の祝辞の中で使わせていただきました。この開所式には当時のトブゲイ首相も来られていて、その後2017年11月に発刊されたニール・ガーシェンフェルド教授の著書『Designing Reality』の推薦文の中でも、首相は「ファブカントリー」を使っておられますが、その出所は、私だと思っています。

Bhutan’s biggest constraint in promoting Gross National Happiness (GNH), our development philosophy, is its heavy reliance on imports at the end of long supply chains. […] digital fabrication can overcome this constraint by allowing us to fabricate locally while thinking globally and being true to the principles of GNH. We look forward to Bhutan becoming not just a Fab City, but a Fab Country.
(ブータンが我々の開発哲学である国民総幸福量(GNH)を推進する上での最大の制約は、長く伸びたサプライチェーンの末端に位置して輸入に過度に依存している点にある。デジタルファブリケーションは、グローバルな思考を取りつつもローカルなもの作りを進めることを可能にするもので、まさにGNHの原則にも沿うものといえる。私たちはブータンが、都市単位の自給自足(ファブシティ)より、国全体で自給自足指向を強め、「ファブカントリー」に変貌してゆくことを楽しみにしている。)

Neil Gershenfeld. et al. 2017. "Designing Reality". Basic Books
2017年7月21日、ファブラボ・ブータン開所式の集合写真
「ファブシティ・ティンプー」の仕掛け人の顔も見える(苦笑)

ファブシティ財団が、都市だけではなく、国全体としての加盟を認めたのは、ある意味画期的なことかもしれません。7年の歳月を経て、ブータンでもアクターの整理が進み、実施手段が地方にもちらほらできはじめている現状は、少なくとも2016年当時、私が「こうあって欲しい」と思っていた「ファブカントリー」の方向に、実際に進みつつあるということでもあります。

今後のブータンでのファブシティの行方を危惧するより、地方ラボから自律的に先行して動いて、地方からグッドプラクティスを示していくというのが、私が取るべき行動なのでしょう。

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