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師走

1年目の後輩が、画面をぼうっと眺めたまま、明確な意思のないスクロールを1時間半くらい繰り返しているので、声をかけた。

「今、自分が何をすれば良いのかが分かりません。どこまでが出来ていて、出来ていないのか。
頭が回りません。」

12月の洗礼を受けていたようだった。
仕事量が他の月に比べて3倍ほど多く、日中は分刻みのスケジュールをこなさなければならない。おまけに、今年は10月から始まったインボイス制度のために、取引先からひっきりなしに電話がかかってくる。増税メガネ大嫌い。

3年目の後輩が、この大変な忙しさからミスを多発、ウン百万の契約を切られたのをきっかけにミイラのようになっている。上司達はそちらの対応に気を取られている。

精神科を受診させたら、間違いなく3ヶ月は休職だろう。診断名はおそらく、鬱or適応障害。
今の時代、精神科の受診を促す事自体がパワハラになるようで、上司達は気晴らしに飲みに行くか?と毎日声をかけている。それじゃあ、アルハラ。

3年目がそうなるんだから、そりゃ1年目もキツい。

仕事を振った上司は接待会食に行ってしまい、時刻は午後8時。他の担当の仕事には、口や手を出さない決まりだけど、非常時だからいいか。

業種は何?分かりません。
どの書類が正しい?分かりません。
期限はいつ?月曜の朝までです。

お歳暮のチョコレートで糖分を補給しながら、後輩と一緒に書類を確認する。
 
100枚くらいある売上の書類、後輩が途中まで入力した会計ソフトのデータが手元にある。

「AIに、ばばばーっと仕事をさせられませんか?」
昨日までなら出来てた、今は金曜の夜やから月曜まで間に合わない。

「もう、忘年会の開始時間を過ぎてるんです…はよ帰りたいです。」 
後輩の友情の為に、本来手伝ってはいけない仕事に手をかける。

売上額が印刷されたデータをスキャンして、OCR処理する。後輩の作りかけの会計ソフトのデータと照らし合わせて、差分を抽出する。

差分のデータは、後輩が未処理だった売上を表す。
それを会計ソフトへ、csv形式でインポートする。

ハイ、今日の仕事終わりね。はよ行きな!!

最近では珍しく、後輩の顔が明るくなった。
逃げ足も早かった。走って職場を出ていった。

3年目と私だけが、職場に残っている。
3年目は、ぶつぶつと何か喋りながら仕事をしている。蔓延する鬱々とした重い空気。
残念ながら、12月の忙しさは序の口。
マリオで言うと、1ステージのラスボスくらい。

3月15日に向けて、年始からはさらに忙しくなる。
気力と体力が奪われていく。視力が低下していく。
地獄はまだまだこれからです。


最後まで読んでくださりありがとうございます! 今日も良い一日を過ごせますように!!