見出し画像

僕が見てきた技工士の業界



歯科技工士という仕事をご存知だろうか。簡単に言えば、歯医者から依頼を受けて歯を作る仕事だ。銀歯や入れ歯を入れている人もいるかもしれないが、あれは歯科技工士が作っているものだ。

実は、歯科技工士の業界は離職率が非常に高い。新卒の約7割が4年以内に辞めていくのが現状で、僕が辞めてから4年余りで、その割合は8割にまで増えた。なぜそこまで人が辞めていくのか?その理由は、この業界が超絶ブラックだからだ。

僕自身、歯科技工士として2年8ヶ月働いたが、そのうち4ヶ月は休職していたので、実際には2年4ヶ月しか働いていない。それでも、僕の職場はまぎれもないブラック企業だった。歯科技工業界がブラックとされる背景には、業界の競争が激化し、ダンピングが常態化していることが大きな要因だ。

まず、歯科技工所同士で価格競争が起こっている。特に、小規模の技工所は経営基盤が弱く、価格を下げなければ仕事が取れない。歯科医院からのコスト削減要求に応じるため、利益を削ってでも仕事を受けざるを得ない状況だ。また、技工士の過剰な供給も問題で、技工士たちは安価で長時間労働を強いられ、精神的にも肉体的にも疲弊している。

このような劣悪な労働環境の中、技工士になるためには専門学校を経て国家試験に合格しなければならないが、技工士学校の閉校が相次ぎ、成り手不足が深刻だ。その結果、いわゆる「情弱」と呼ばれるような情報を持たない人々が、技工士を目指すことが多い。

技工士学校も、なんとか学生を集めるために「国家資格が取れる」「独立開業できる」といった宣伝を行い、無理に入学者を増やそうとしている。僕もその一人だった。学校の入学試験は非常に簡単で、まるで漢字ドリルのような問題ばかりだった。僕の同級生の中には、元ヤンキーや偏差値が低い人も多くいた。

最近では、学校がiPadを無償提供したり、TikTokで技工士が踊る動画を流して「技工士って楽しいよ!」とアピールしている。医療職であるはずなのに、まるで娯楽のような宣伝をしていることに違和感を感じる。

さらに、技工士業界は超売り手市場だ。どれだけ成績が悪くても、国家資格さえ取れば就職には困らない。人手が少なすぎるからだ。しかし、待ち受けているのは超絶ブラックな職場ばかりで、多くの新卒が心身ともにボロボロになり、早々に辞めていく。

賢明な若者はすぐに業界を去っていくため、残るのは辞める勇気がない人や情弱、技工が好きな人だけだ。結果として、業界にはマウントを取るような高齢者ばかりが残り、パワハラやセクハラが蔓延している。そして、辞める人たちを「根性がない」と非難する風潮があるが、実際には彼ら自身も辞めたいと思ったことがあったり、続けてきたことに後悔しているはずだ。そういった背景から、辞める人を非難せざるを得ないのだろう。

実際、僕が見てきた技工士の世界はまさにそんな場所だった。若い人たちはメガネメーカーや補聴器メーカー、あるいは半導体メーカーなどに転職していくが、心身を病んで社会復帰できない人も少なくない。

僕自身も辞めてから数年経つが、当時の職場のフラッシュバックに襲われることがある。上司たちに対する怒りや悲しみが残り、もはやトラウマとなっている。彼らは夢を見させて、辞める人を非難し、最後まで使い倒そうとする。まるでマルチ商法かヤクザのようだと感じる。

技工士という仕事は、医療職としてのプロ意識が欠けている人たちが多く、趣味の延長のように仕事を語る人が目立つ。(中には本当にプロ意識を持ってる人もいるが、多くは趣味とか楽しいとか、そんな趣味の延長線上で仕事を語る人が圧倒的に多い。)もちろん、ブラックな環境で心身を壊したというのもあるが、そういった人たちと一緒に働くことが生理的に無理で、僕は技工士を辞めた。

もし技工士になりたいと考えている人がいるなら、以下のことをしっかり理解しておくべきだ。

• 技工士は安定した職業ではない
• 独立開業しないと、人並みに稼ぐことは難しい
• 技術だけでなく、営業力も必要

技工士の仕事は、漫画家やアーティストのような世界だということを認識しておいた方がいい。技工士を辞めるか悩んでいる人には、転職先はたくさんあるし、技工士を辞めても生きていけることを知っておいてほしい。

僕自身、技工士を辞める前は「辞めたら死ぬ」と思っていたが、今では年収が倍になったし、(240万▶︎450万ほど。ちなみに日本の平均年収より少し少ないくらいだが、技工士時代に比べれば破格の年収だと思う。)技工士ほど厳しい業界は他にない。転職後の仕事が楽に感じると思う。

また、辞めた後も支えてくれる機関やサポートがある。若者サポートステーションやハローワーク、NPO法人など、メンタル面や制度面で支えてくれる場所がたくさんある。最悪、失業保険や傷病手当もあるので、焦らずに自分のペースで再出発すればいい。

どちらにしろ、仕事や業界、会社をしっかり調べてから進むことが大切だ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?