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【掌編小説】変わらないもの。


――ぱしゃり。
スマホのカメラアプリの音が、人気の無い朝の空気の中に響き渡る。
毎日ではないが、一週間に一度は、地元の山の写真を撮っている。
スマホの画面をのぞくと……、結構昔から続いているな、と我ながら呆れつつもしみじみとしてしまう。

その後、ふー、とタバコの煙を吐く。
そう、この山を撮影している毎週金曜日、出勤前にコンビニの前に設置されている灰皿の前で喫煙するのが習慣になっていた。
別に自分の家で吸ってはいけない訳ではないが、同居している母親の手前どうしても遠慮してしまう。

自分は母親と二人暮らしだ。持ち家なので金銭的負担は比較的低いのだが、母親も今年で70、いい加減年である。子供は俺しかいないし、父親は4年前にくも膜下出血であっさりと逝ってしまった。それが退職した次の日だったので、どうにも計画的ではなかったのかと疑ってしまうほどだった。父は母とそれほど折り合いが良くなかったのだ。

というわけでアパートで一人暮しをしていた俺が自宅に戻ってきて、母親の面倒を見つつの二人暮らしとなったのである。

――うーん、俺も今年で42か。
一人でタバコを吸っていると、色々なことが頭のなかを駆け巡る。
俺は末期とはいえ、立派に就職氷河期に就職活動をしなければならなくなった人間だ。どうにかこうにか、親戚のツテで空きができた中小企業の経理にねじ込んで貰って以来、その職場で細々と働いているのである。だが親戚のツテというものもやっかいなもので、あの後売り手市場になったからじゃあ別の所行きますんで、という事もできなかった。なので未だに安月給の身分である。まあ父親の退職金が満額でもらえたのは儲けものだったが。

結婚を考えたことは無かった訳ではないが、相手如何よりも月給の金額が気になって踏み込めなかった、というのが本当のところである。気がついたらもう40代、というていたらくだ。

社会も給料や金利の変化こそ殆どなかったにしろ、その他のことは色々と変化がありすぎた。大体にして今使ってる種類のスマホだって20年前には存在していなかったのに。

山は微動だにせず、変化もないのだろう……、と思ったが、あの山も最近の地震の影響やなんやらでいつ噴火するかどうか分からない、とのことである。回覧板で地味にハザードマップが回ってきたことを思い出した。今年だって考えられないほどの暖冬だった。

変わらないものなんてないのだろうな、と思いつつ、ゆらゆらと形を変える煙を見つめていた。

<あとがき>
久しぶりに掌編小説書いてますが、なんかまたタバコネタになりました。ずっとタバコネタ引きずってるな~(前回の自動販売機の話にはタバコなかったですけど)。

今回もChatGPT使ってます。冬をテーマにした短編小説のテーマを10個ほど出して貰って、それをこねくり回して今回の小説のテーマにしました。そのテーマにシチュエーションの箇条書きをしていって、小説書いてた的な感じです。

あとイラストはDream by WOMBOを使用してAI画像出力しました。このアカウントでは掌編小説は最初に上げた『タバコ』以外このサービスを使ってAI画像でさし絵を作ってます。今回はThe Bulio Cut v2を使用しています。アクリル絵の具で描いたようなタッチが気に入りました。丁度山もいい具合に出力されましたしね。

今年はめっちゃ暖冬だったのですが、丁度この小説を書くあたりになってまた寒くなったので、絵の風景が雪景色になったのそれはそれで合ってるなあ、と思ってます。というか3.11は東日本大震災で、あの日はむちゃくちゃ寒かったなあ……、といつも思い出すこともありますね。

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