最悪のコンディションで風邪を引いた話

 あるお正月のお話。
 確か小学6年生とか中学生とか、そんな位だったと思う。母方の祖母と叔父が2日の午前中に迎えに来る。家族総出ではなく、私だけが初詣に行く事になる。
 帰りはブックオフやゲオなどの古本屋に立ち寄るのだけど、そこで立っていられなくなった私に、気が強く、私と馬が合わない祖母。
「なにやってんの?具合悪いの?」
 なーんて嫌みったらしい口調で言ってくる。髪の毛も引っ張られた気がする。良く髪の毛を引っ張ってくる祖母なので、覚えていない。後に湯タンポとレトルトのお粥を持ってきてくれる所はいい祖母なのだが。
 帰ってからぐったりと部屋に籠っていると、座薬の解熱剤を持ってきたので、入れた。おそらく、昔処方されて余っていたヤツだろう。
 そこからが地獄の始まりだった。
 まず、とてつもない寒気に見舞われる。声を出していないといられないレベル。
 あーとかうーとか唸って全身ガタガタ震わせていると、当時無職のプータローの父親が入ってきてこう言うのだ。
「静かにしろ」
 無理だ。だが、気に入らないことがあるとすぐに手が出る父親に怯えて声を殺しているうちに薬が切れてきたのか、楽になって眠りに落ちた。
 次の日、近所の医者が開かない、と、件の座薬だったか、市販の総合感冒薬だったかと共に病床に伏せることに。やはり、薬を飲むとガタガタと体が震える。
 後から思い出した私が母親に問い詰めると、どうもその日の当番医は、町でも悪名高いヤブ医者で、風邪の人間を開腹手術するレベル、くらいの悪名だったので、父親を止めて、遠いことにしてしまおう、と。
 その夜も父親に邪険にされていた気がする。
その後、当番医が私の掛かり付けの名医の日に連れていかれた。
 その日も軽い地獄と天国を味わうことになった。
 熱と生理痛でフラフラの私に薬と注射、そして点滴をする、と医者が宣告したのだ。
 そこまではいい、点滴くらいは織り込み済みだ。注射するほど具合も悪いのでそれも構わない。処置室に連れていかれて、腕を出す。
「うつ伏せになって下さいねー」
 ナースよ。今、何と言った?うつ伏せ?この世でうつ伏せになって注射を打つなんて。そう思う余力も無いので、素直にしたがう。
 私の寝巻きのズボンに手を掛けたナースは私のオシリを露にして、腰とオシリの間にズブリと注射した。
「よく揉んでくださいねー」
 はーい…じゃない。私は今、仰向けで利き手を点滴されようとしている。揉むどころじゃない。そしてその後、しばらくオシリの痛みと違和感が続くわけだが。
 だが、その一撃のお陰か、はたまた点滴のお陰か、病院からの帰りは多少シャキッとしていた。
 これが、私が人生で死にかけた幾つかの出来事のうちの一つだ。
 この事から忘れてはならない教訓を得た。
 医者からもらった薬が余ったとて、けして使いまわしてはならない。
 そして、私の父親は、優しい時があっても基本クズだ、と。

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御射山サナギ
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