『超獣殲記 マツロマンシー』 序章 意志を継ぐ超獣(もの)
この物語は唐津市の一角に構えるある研究所から始まる。
この研究所ではある人工生命体が造られていた。主に兵器として開発された『彼ら』は厳重に管理されていたが、研究員たちの想像を超える力を持つようになり、研究所を脱走し人々の日常を脅かすようになった。
━━特定人工有害超獣━━
『彼ら』はのちにそう呼ばれることになる。
ひび割れた壁。破られた窓ガラス。
廃墟と化した研究所の中では数多の超獣たちが犇めき拳を交えていた。だがその中にそんな超獣たちをよそにただ当てもなく歩き続ける人型の影があった。その超獣の名は『α‐306 スカルヘッド』。その身体には超獣を拘束する為に用いられた鎖が巻きついたままになっている。
「…。《意志》を入力して下さい。…」
スカルヘッドのバックルからは電子音声が繰り返し鳴り続けていたが、彼はそれを気に止める様子もなくおぼつかない足取りでゆっくり歩いていく。
「…。」
彼の背後にひとつの影が忍び寄る。その影は超獣『α-109 ブランクヘッド』。
「オオオ…。」
声をあげその超獣はスカルヘッドに襲いかかる。
「オッ!」
だがその瞬間ブランクヘッドは裏拳打ちで弾き飛ばされた。
仰向けに倒れる超獣には目もくれず、またスカルヘッドは当てもなく歩き出した。
しばらく歩き続けているとスカルヘッドの目の前には頭から血を流し倒れている男がいた。
彼は『津次』というこの研究所の研究員である。
スカルヘッドは彼の前に立ち止まった。
津次は最期の力を振り絞りスカルヘッドの手を握りしめながら
「この街を…人々を…。」
と力のない声で訴えた。
するとその瞬間鳴り続けていた電子音声が消え、バックルが輝き出した。バックルにシンボルが浮かび上がると輝きは収まり、またスカルヘッドは歩き出した。覚束ない足取りはしっかりとしたそれへと変わっていた。
「オオオ…。」
歩いているとスカルヘッドの背後からブランクヘッドの唸り声が聞こえる。
「…。」
彼は振り返りブランクヘッドをなだめていると
「オオオォ!」
と唸りながら襲いかかってくる。
「オッ!」
「…。」
ブランクヘッドはスカルヘッドの胸の辺りを殴ったがスカルヘッドは微動だにしない。
スカルヘッドはブランクヘッドの腕を払い、蹴りを繰り出す。
「オアッ!」
ブランクヘッドは吹き飛んだ。だがすぐに立ち上がりまた襲いかかる。
「オオオッ!」
ブランクヘッドが腕を振り上げると腕が突然刃物のような形状に変化する。
スカルヘッドはその変化した腕をかわそうとしたが避けきれず、かすり傷を負う。
「…!」
だがスカルヘッドは怯まずにすぐに反撃に出る。
「オッ!オッ!オッ!…。」
ブランクヘッドは一方的に殴られ続ける。
「オッ…。」
ブランクヘッドは仰向けになって倒れ動かなくなった。
スカルヘッドは腰の辺りにあるカードホルダーから白紙のカードのような物を取り出すと、それをブランクヘッドのバックルにあてがう。
するとカードに渦巻き模様が浮かび上がる。《メモリースート》と呼ばれるそれは、超獣の戦闘データが記録された記憶媒体である。
このカードを使用することでスカルヘッドの全身に散在する《自在細胞》という未分化な細胞がその戦闘データを参照し変化・活性化する。
スカルヘッドはそのカードをホルダーに収めるとその場を去って行った。