アドレナリン
先日、米中首脳会談関連で民放テレビさんにご依頼いただいた。当初の予定では数時間でリリースだったのだが、何分、国家元首レベルの会談というのは予定が見えるようで見づらい。どうも長引きそうとのこと。
翌日は他局さんでの早朝シフトもある。「日付が変わる前に帰宅できれば、入浴→翌日の準備→就寝で、何とか体力を落とさずにいけそう」と思えた。しかし終了時間が流動的な気配となり、思い切って当日中の帰宅は断念。代わりに自費でホテルをとった。これなら真夜中過ぎに業務終了でも、翌日まで5時間は寝られる。通勤の移動時間もカットできるので体力温存だ。
結局、民放での仕事は夜中になる前に終了。ホテルに着き、予定通り5時間睡眠と思うも、またまた困ってしまった。それは、
「同時通訳後のアドレナリン」
である。
前にも経験している。同時通訳というのは着席業務なのだが、いわば車のエンジンをトップギアに急遽上げて驀進するようなもの。ゆえに同通前にたとえ頭がぼーっとしていたとしても、いざ同時通訳を始めると脳内がとてつもなく活性化する。仕事の後、ゆるゆると脳をリラックさせれば良いのだが、私の場合、「明日まで何としても5時間は寝なくちゃ!」と思ったため、さらにアドレナリンが大量放出してしまった。
結局午前3時近くまで寝付けず、でも2時間は熟睡したところで目覚ましが鳴ったからこれで十分。自宅で2時間睡眠だと、通勤で体力を消耗する。なので、ホテルから徒歩圏内にスタジオがあるのは助かる。この「アドレナリン大量放出で寝付けない」は「通訳者あるある」なのだろう。
ちなみにアドレナリンは英語でadrenalin。日本語のアクセントは「ア『ドレナリン』と平坦だが、英語は「アド『レ』ナリン」である。adrenalは「副腎」、-ineは塩基性物質の名称に用いる語だ。一方、ぜんそくの治療薬「アドレナリン剤」はAdrenalineと表記する。「ランダムハウス大英和辞典」には語源説明として「米国のJ. Takamineの命名(1901)」とある。気になったので調べたところ、富山出身の高峰譲吉氏であった。19世紀にグラスゴー大学で学び、その後渡米。ラフカディオ・ハーンとも面識があったそうだ。67歳でニューヨークで永眠している。
これほどの偉人が20世紀初頭におられたとは!!
2時間しか眠れなかったけれど、アドレナリンというキーワードから高峰譲吉を知ることができて嬉しい一日であった。