「子どもたちをよろしく」
*2020年3月22日初出。
先日、Amazon Prime Videoの新着映画に「子どもたちをよろしく」が上がっていました。この映画、とても思い入れの深い映画です。その理由を綴ったブログがあったので、こちらに転載します。現在、関わっている〈こどもと若者の居場所づくり〉、まさにこの映画のテーマと相通するものがあります。あらためて、こどもや若者の問題は地域の問題なのだと痛感しています。
昨日3月21日は、怪我の功名、瓢箪から駒、を絵に描いたような一日でした。
寺脇研さんプロデュースの映画「子どもたちをよろしく」を観に、KBCシネマへ。開場の30分前に着いたものの、新型ウイルス対策で、観覧人数制限をしている館内はもう予約チケット購入された方で満員。ずいぶん前から楽しみにしていたので、己れの迂闊さに地団駄踏みたい思いでしたが、ふと見ると、目の前に寺脇さん! せめてご挨拶申し上げて帰ろうと、勇気を出して話しかけてみました。
実は寺脇さんにお会いするのは二度目。一昨年12月の前川喜平さん講演会開催の経緯の中で、一度、寺脇さんとご一緒させていただいたことがありました。寺脇さんはご記憶にないとは思いましたが、その時のお礼を一言申し上げたかったのです。
自身の迂闊さで、今日は観覧かなわず、帰らざるを得ない無念さを思わず口にしてしまったところ、何と寺脇さんから、
「せっかくいらしていただいたのだから、このロビーでお話いたしましょう。」
と耳を疑う神発言。私同様、本日の観覧かなわなかった方々とともに、寺脇さんを囲む時間をいただいたのでした。
以下はほぼ90分に及んだ寺脇さんのお話を記したものです。私たちが前川喜平さん講演会を開催したご縁から、自然と話は前川さんに関わることから始まりました。本作の構想はずいぶん以前からあり、前川さんも興味を持っていらしたけれど、四年前、文科省を辞めるまでは制作に加われなくて残念そうだったとのこと。笑笑。事務次官を辞めて、公の肩書がなくなってからは、それまでの経験を生かして、企画から関わってもらうことができたのだそうです。
この映画は決して楽しくはない、と寺脇さんはおっしゃいます。ある一部の特殊な状況に置かれ、社会から取りこぼされたところで暮らす子どもたちとそのめぐりの人々をリアルに描いた作品だ、と。
ネタばれになったら申し訳ないのですが、本作は性的虐待を扱っています。子どもをめぐる問題は様々ですが、その中で最も顕在化しにくいのが、この性的虐待です。加害者が隠蔽をはかるのは当然ですが、被害者も告発しないし、周囲もうすうす気がつきながら声を上げにくい、それがこの犯罪の特徴なのです。最近はフラワーデモの開催などで性犯罪についての理解が進んできました。それはとても大事なこと、と寺脇さんはおっしゃいます。
「知らない」ことは無いことにされてしまう。この国のどこかで必ず起きていることも、誰も声を上げなければ無いのと同じ。発信することが大事なのだという言葉が響きました。
本作上映後の性的虐待サバイバーの方からの感想が忘れられないとおっしゃる寺脇さん。被害にあって以来、何十年も誰にも言えないまま過ごしてきたけれど、この映画を観て救われた、傷ついていたのは自分ひとりではなかったことがわかって心が少し穏やかになったという言葉が印象に残っているとおっしゃいました。
寺脇さんはまた、日本人の民度の低下を言う人がいるけれど、必ずしもそうではないとおっしゃいました。それは災害時の日本人の互助の精神を見ればわかる。日本人が利己的になったように見えるのは、他者が置かれている厳しい現実を知らないからで、まずは現状理解が大切なのだ、と。
本作のタイトル「子どもたちをよろしく」は学校へのメッセージでもなければ、家庭へ向けたものでもない。子どもたちの問題は社会で共有すべきテーマで、私たち大人ひとりひとりが考えなければならない問題。「よろしく」と委ねられた問題を考えねばならないのは私たち自身なのだという言葉が身に沁みました。
子どもたちを取り巻く過酷な現状で、私たちは何ができるのか。その具体的なお話を寺脇さんご自身の経験談としてお話いただきました。それは、また明日。ほんとにたっぷりお話しいただいたのです。贅沢な時間でした。
寺脇研さん、ありがとうございました。