「赤ん坊」
都営バスに乗る
後ろの女が抱く赤ん坊が泣き始め
うるさいっと叫びたくなる
でもこらえて、喉のあたりが痛くなる
赤ん坊
それは柔らかで無垢で
全力で守らなければいけない綿毛とわかってて
それでもバスの中
盛りがついた猫のような泣き声に怒鳴りたくて
眉間をよせてぐっとこらえた
あああ
あの人の赤ん坊が産みたいの私
産みたいのに産みたいのにもうダメなの私
たくさん愛を準備できるのに
実のつかない枯木のような四十女だから
うるさいよ、うるさいよ赤ん坊
私の欲しい愛をいっぱい含んだ泣き声は
もう一生手に入らない泣き声だから
振り返り拳を上げて張り倒そうか赤ん坊め
うるさいよ、うるさいよ
泣くなよ
泣くな
産めない女
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