手話検定を受けた話
私は誠実フレグランスというコンビで下ネタ漫才を生業としている芸人である。
こんな芸風をしているが、お父さんとお母さんは高校の教師をしていて、めちゃくちゃ頭が良い人たちだ。
自分でいうのはなんだが、私は育ちがいい。
お父さんとお母さんのDNAはしっかり引き継がれていて、私は知的好奇心がある。
知らないことを知るのは楽しいと思うし、わからなかったことがわかるようになると感動する。
子どもの頃から勉強するのは好きだった。
ただし、学校は協調性がなかったので全く好きになれなかった。むしろ嫌いだった。
私は小学生の頃受験して、中高一貫校に行ったものの、学校に行きたくなさすぎて、高校行かずにNSCに行くという、
おそらくその学校史上1番訳がわからない生徒ムーブをした。
学年主任の先生も驚いていた。
以来私は、学校からは縁遠く、お笑いをやったり自分の興味のある芸能の勉強をしてきた。
ある時、バイトの接客中に、耳の聞こえないお客さまがいらっしゃった。
身振り手振りや筆談でコミュニケーションはとれたのだが、そこで私は、“手話を何も知らない”ということに気づいた。
英語では「Hello」「Thank you」「I love you」とか知ってるのに、私は手話で「こんにちは」も「ありがとう」もどう表現したらいいかわからない、と気づいた。
手話は日本語なのに。
バイト終わりその足で、すぐさま本屋に行き、手話の本を買った。
そこから私の知的好奇心が手話の勉強に向くことになる。
調べてみると、手話技能検定というものがあった。
手話を勉強する目標として、検定試験を受けて合格する、というのを掲げることにした。
そして2024年9月22日。
私は手話技能検定の4級の試験を受けてきた。
4級は、およそ手話の勉強を1年程度やっていて、単語は500単語ぐらい記憶していなくてはいけないレベルだ。
学校にも全然行っておらず、試験慣れしていない私は、緊張した。
果たして試験開始時間までどのように過ごすのが正解なのか。
私は宇治原さん方式をとることにした。
ロザンの宇治原さんは、試験当日は教材を開くな、絶対開いたらやべ、ここわかんない、、ってとこが出てきて不安になるから、それよりはこんだけやったんだから大丈夫!と思って臨んだ方がいい、と仰っていた。
私は手話技能検定の本を持参していたが、開くことはせず、ほかの受験者の人が開いているのを見て、「はっはっは。今勉強してるレベルじゃ無駄なのだよ。はっはっは」と思っていた。
(多分宇治原さんはそんなこと思ってない)
(ちなみに誠実フレグランスはライブ当日の本番前に焦ってネタ合わせをしている。そんなことが言える義理ではない)
試験が始まり、順調に回答を進めるワタクシ。
わかる!わかる!
手話の読み取りができる!
最初の頃の自分と比べて、上達ぶりが感じられた。
4級の本についてる手話のDVDを最初に見た時は、早すぎて読み取れない!こんなの絶対無理!なえぽよ!心折れぽよ!って感じだったのに、今の私はしっかり何言ってるか読み取れる。
しかし、最後の最後で私の心が折れぽよになりかける問題が出てくる。
おじさん長文手話問題が出題されたのだ。
とにかくおじさんがずっと手話でパンの話をしている。
そしておじさんのパンのことについてすげー聞かれるのだ。
問1.おじさんはパンのことについてなんて言っていますか?
問2.おじさんの好きなパン屋さんは何曜日が定休日ですか?
問3.おじさんが先週買ったパンは全部でいくらでしたか?
問4.おじさんの食べたパンは……
すげー聞いてくるじゃん!!!
おじさんパン問題すげーじゃん!!!
(※実際の問題文にはおじさんは、とか書かれていません)
おじさんが食べたパンを指文字で表現している件りがあって、私は確実に最後の文字が「ト」だったことには自信があった。
四肢択一問題なので、「ト」が入っている選択肢を選べば間違いない。
①カイングラ
②コロンバ
③コッペパン
④クランペット
…選択肢が聞いたことない日本語すぎる!!
コッペパンしか聞いたことない!
おじさんが朝食べてそうなの絶対コッペパンなんだけど!
おじさん朝食べたの絶対いちごジャムのコッペパンでしょ!!
けど最後絶対トだったんだよ!
おじさんが朝食べたのクランペットで合ってるかなあ?!
聞いたことない日本語すぎる!
おじさん朝クランペット食べるかなあ?!!
そもそもクランペットって食べ物なのかなあ?!
こんな感じで不安になりながら最後の問題は回答した。
結果が出てない今、おじさんのパン問題の配点が0.5点なことをただただ祈るばかりである。